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13 ハチャメチャ結婚式!?オーバーロードの行方は!?

「では、ファーストバイトのケーキはこれにするとして、次は…」


 まどかちゃんの上機嫌な声が、研究所の会議室にこだまする。


 ぼく――天川ひかりはその声にびくっと肩を揺らした。


 隣ではかなたちゃんがパチパチ手を叩き、つむぎさんはいいねいいね、とノリノリだ。


「な、なんでそんなテンション……。ぼく、心の準備がまだ……」


 ――そう、今回は研究所の一角を借りて、あきらくんとの「結婚式」を挙げることになったのだ。


 いわく、強烈な“ありえないシチュエーション”を作り上げて、あきらくんの脳を過負荷オーバーロード状態にし、彼の体質を“リセット”しようという作戦……。


「ええと……普通ならお色直しって披露宴でやるんだよね?」


 かなたちゃんが首をかしげる。


 「ま、いっか! 披露宴と挙式、ごちゃ混ぜにしちゃおうよ♪」とつむぎさん。


「どんどん服を変えちゃう作戦で。あきらくんもひかりくんも大変でしょうけど、がんばって♪」


 ぼくは大きなため息をつきつつ、少しだけ心が弾んでいるのを感じていた。


「……あきらくんを救うために、ぼくにできることなら、なんでもやるよ。恥ずかしいけど……」


 そう呟き、意を決して顔を上げた。




 当日、研究所のホールは花やライトで飾られ、不思議な“結婚式場”さながらになっていた。


 列席者は限られた研究スタッフや仲間たちだけ。


 ふと見れば、白衣姿でカメラを構える人までいる。いや、流石にSNS配信はしないよね!?


「厳粛なる儀式の幕開けです。新郎新婦(?)、堂々のご入場!」


 司会役のまどかちゃんがマイクを握り、アナウンスする。


 そこで流れ出す、どこか幻想的な音楽――


 すーっとライトが当たる舞台の中央に、ぼくは水色のフィギュアスケート風ドレス姿で現れる。


 あきらくんは黒いロングジャケットにラインストーンを散りばめた“王子風”衣装で並んだ。


 そう、あきらくんと出会った、”あのときの”衣装だ。


「うわぁ……まるで氷上の妖精と黒衣の王子!」


「尊い……!」


 客席から驚きの声が飛び交う。


 恥ずかしいのに、衣装に“着られ”て自然に微笑んでしまう。


 先導役のかなたちゃんがフラワーバスケットを振りかざしながら嬉しそうに歩く。


 散らばる花びらがスポットライトを受けてきらめいた。


「あ、あきらくん……大丈夫?」


 チラリと隣を見ると、あきらくんも衣装のせいか、すっかり“黒衣の王子”モード。


 堂々とした歩きだが、その瞳にはほんの少し不安の色が見える。


「……うん。なんとかね」


 小さく応える彼の声音がやや震えている気がして、そっと彼の手を握った。


 すると、微かに力が返ってきた。




 入場を終えるや否や、まどかちゃんから「それでは、お色直しタイムです」


 あまりにも厳粛なトーンと、状況が不釣り合いで、思わず笑ってしまいそうだ。


「え、もう? まだ何も誓ってないのに?」


 困惑する間にスタッフが走り寄り、あっという間にカーテン裏へ連行された。


 カーテンが開くと、ふわりと重厚なロングドレスが広がる。


 ロイヤルブルーの生地にティアラがきらめき、まるで本物の王女みたいで――


(え、えぇぇ!? これ、着せられすぎじゃない!?)


「王族婚ぽい……!」


「二人ともさっきとイメージ全然ちがう!」


 ざわめく会場。そんな中、あきらくんが一歩前へ進み、優雅に手を差し出した。


 「まぁ、ひかり姫。今日の君はまさに誇り高き王女のようだ」


 「えっ……え、えぇぇっ!?」


 一気に顔が熱くなる。


 ちょ、待って!? これはあきらくんが王子モードに入っただけで、ぼくはただの巻き込まれ側で……!?


 でも、衣装のせいか、スカートを持つ手まで自然と上品になってしまい――


(や、やばい……本当に姫になっちゃいそう……!?)


 観客の歓声が高まる中、ぼくは恥ずかしさに耐えきれず、ティアラを押さえてうつむいた。


 それを見たつむぎさんが、満足げに微笑む。


「完璧ね……この衣装、選んで大正解♪」


「二人とも、つらいことがあったら、いつでもカフェに来ていいんだよ。相談に乗るからね」


 つむぎさんの言葉に、胸が熱くなる。あきらくんも、小さくうなずいたように見えた。


「それでは、王族婚スタイルで“誓約の儀式”を行います!」


 まるで本物の宮殿のように厳かなBGMが流れ、あきらくんと向き合う形になる。


「ここで誓いの言葉を……」と促され、ぼくは動揺しながらも口を開いた。


「え、えっと……ぼくは、この結婚式が――あきらくんのために……」


 途中で恥ずかしさに顔が熱くなり、言葉に詰まる。


「そ、それで……助け合いたい、っていうか……」


 隣であきらくんが小さく笑った気がした。声には出さず、でも“ありがとう”と伝わるような、そんな穏やかなまなざし。




 いきなりドレスから和装へチェンジするなんて、普通の式じゃあり得ない。


 それをやってしまうのが、この「オーバーロード結婚式」だ。


 今度はぼくが紋付羽織袴、あきらくんが白無垢+綿帽子。


 これは研究員である如月さんの案だ。


「あの……あきらくんが花嫁役でいいんですか?」


「いえ、これが最適です。過負荷を与えるためですから。それに、あきらさんにはこれも似合うと思いまして」


 如月さんの少し意外な一面に驚く。


「ひかりさん、あきらさん、これからの人生がうまくいくことを心から願っています」


 それは、単なる”結婚”の門出を祝うの言葉を超えた何かがあるように聞こえた。


 もしかしたら、如月さんにとって、あきらくんは単なる実験体以上の思いがあるのかもしれない。


 白無垢を着ているあきらくんはやや照れ気味に頬を染める。


 ぼくはその圧倒的な美しさに思わずドキリとしてしまう。


 あ、あきらくんの花嫁姿、こんなに美人だったんだ……


 見れば、見事な“和の美しさ”があった。周りからは「美しすぎる……!」とため息が漏れる。

 

 お神酒を交わす“三々九度”の儀式で、あきらくんと目が合う。


 ――ふいに、あきらくんの瞳がわずかに揺れた。先ほどより動揺が大きいように見える。


「……大丈夫?」


 小声で問うと、彼、いや、今は彼女はうなずいた。


「うん、まだ持ちこたえてる。服に引っ張られる感じはすごいけど……君がそばにいるから、大丈夫」


 あきらくんは心配だけど、作戦の経過は順調なようだ。


 白衣を着た研究員たちが、『脳波急上昇中!』なんてモニターを見ながら『成功だ……』とつぶやいている。




「さて、続いては……指輪交換の前に、お色直しです」


 無茶苦茶な流れに、列席者たちも「え!?また!?」と大爆笑。


 カーテンが開いた瞬間、ふわっと広がるパステルピンクのドレス。


 軽やかなハーフツインテールが揺れ、リボンがひらりと踊る。


(ま、またすごいの着せられた……!!)


 隣を見れば、あきらくんもまさかの男性用ピンクスーツ。完璧に“おそろい”だ。


 観客が一瞬息を呑み――次の瞬間、大歓声!


「結婚おめでとう! 二人のために、最高にかわいい衣装選んでみたよ!」


 かなたちゃんが満面の笑みで言う。


「か、かなたちゃん……ありがとう、でも……」


 ドレスのふんわり感、髪の動き、手の仕草まで妙に可愛く決まってしまう。


「ちょ、ちょっと恥ずかしいけど……に、似合う、かな?」


 最後まで言い切る前に――


「わわっ、ひかりお姉ちゃん、その照れる仕草、あざとすぎる……! もう、アイドルに“着られ”てる!?」


「あまりにも可愛い……」「アイドルカップルじゃん!!」


 予想以上の大歓声に、ぼくは顔を真っ赤にしてドレスの裾をぎゅっと握る。


 やばい、これは……恥ずかしすぎる……!!


 まどかちゃんは「尊すぎますわぁぁ!」と絶叫気味にスマホを掲げている。


 ちらりとあきらくんを見やると、なんと彼もほんのり赤面しているではないか。


「それでは、指輪の交換を……」


 静まり返る会場。


 あきらくんの手には、小さなリング。ぼくの指に通すだけのはずなのに、妙に息が詰まる。


 指にひんやりとした金属の感触が滑り込む。


「……っ」


 瞬間、まるで何かに“固定”されたような感覚。


 服に“着せられる”のとは違う、もっと深く、染み込むような――。


(け、結婚……してるって、思っちゃうかも……!?)


 あまりにもドキドキしてしまう。


 ぼくはあきらくんの手を取りリングをつける。


 一見、平然としてそうだけど……


 モニターが揺れる。「脳波上昇――過負荷領域に突入」


 研究員のざわめき。「違う、これは……感情反応?」


「……君の指、思ったより細いね」


 照れ隠しなのか、あきらくんが小さく笑う。


 ぼくは、耳まで真っ赤にして耐えるしかなかった。




「続いて、披露宴の定番イベント・ケーキ入刀です!」


 あっという間に仮面舞踏会風のドレス&タキシードにチェンジしたぼく達。


 ゴールドとブラックを基調とし、仮面をかぶった姿はまるで“オペラ座の怪人”みたい。


 ステージ中央に運ばれた巨大なウェディングケーキを前に、二人でナイフを握る。


「ファーストバイト、お願いします!」


 あきらくんが切り分けたケーキを小さなフォークに乗せ、ぼくの口元へ。


 ――仮面を外す瞬間がやけに恥ずかしくて、思わず目をそらした。


 でも、あきらくんが柔らかい笑みを浮かべて、「あーん」と促す。その微笑みに胸が高鳴る。


 パチパチと写真のフラッシュがたかれ、盛り上がり最高潮。


 ハチャメチャながらも、ここまで来ると逆に「これが”進化系”の結婚式か……」とすら思えてくる。




 最後を飾るのは、やはり純白のウェディングドレスと白タキシード。


 ごく普通の式なら最初に登場するはずの姿を、ここまでひっぱったのだからインパクト絶大だ。


 スポットライトに照らされ、ぼくはレースたっぷりのドレスを身にまとい、あきらくんは王子様然とした白のタキシードで立っている。


「……キレイだよ」


 あきらくんが小声で言う。


「えっ?」


「そのドレス……すごく似合ってる」


 珍しくストレートに褒められて、ぼくは真っ赤になった。


 牧師役の研究員のかたから「誓いのキスを」という厳かな声。


 つむぎさんやかなたちゃんは拍手であおっている。


「それじゃあ……誓いのキス、するんだよね……?」


 ぼくはごくりと息を呑む。


 あきらくんを救うための“オーバーロード”――それがついに最終段階に。


 緊張と不安が入り混じる中、あきらくんも胸元を押さえ、ゆっくりと近づく。


 ――そのとき、会場の照明が過剰に光を放ちはじめた。まるで電圧がぶっ飛んだようにピカッと異常な輝きを帯びる。


「う……っ!」


 あきらくんの体がぐらりと揺れ、ぼくの肩へ倒れ込む。


 呼吸が荒くなり、周囲が慌てて駆け寄ろうとするが、彼は弱々しく首を振った。


「僕は……僕は……」


 震える声でうわごとのように繰り返す。いよいよオーバーロードが起きているのか、周りの研究員がざわめく。


 ぼくはとっさに、あきらくんの手を握りしめた。


「大丈夫だよ……もう、怖がらなくていい……」


 すると、あきらくんの身体がふっと力を抜いて、静かにぼくの胸に顔を寄せる。


(頭がバラバラになりそうだ…けど、君がそばにいると少しだけ落ち着くんだ…)


 あきらくんの目が、そう言ったような気がした。


 照明のチカチカが弱まり、辺りは不思議な静寂に包まれた。拍手も声もない。ただ、その場の全員が息を止めて見つめている。


「完成形のL‐LLMの機能健在。しかし、漏出の急激な低下を観測しました!」


 如月さんのが驚いた声が。


「こんなことって……!」


 信じられないという顔でモニターを見つめる。


 あきらくんは、苦しそうにしながらも、初めて見るくらい穏やかな表情を浮かべていた。


「僕は……自分のことがわからなかった。でも、今わかったよ。ひかりくんにだけは……興味があるんだ。これが……僕自身の感情だって、はっきりわかった……」


 ――その言葉に、ぼくの胸はじんと熱くなる。


 あきらくんの瞳には、絶望でもなく虚無でもなく、淡い光が宿っていた。


「……ありがとう」


 彼の微かな笑顔が、確かにそこにあった。




 そして1週間後、ぼくはいつものように「Café Catalyst」に立っている。


 どうも誰かがSNSに上げてしまったらしく、「謎の結婚式!」「あの“氷上の妖精”と“黒衣の王子”がまさかの式!?」と大騒ぎになっていた。


 研究所によると、とりあえず、来週の国際コスプレフェスタの女体化パンデミックは大丈夫らしい。


 実際にオーバーロードが起こったのかどうかは、結局わからない。


 でも、あきらくんは、進むべき道を確かに見つけ、自分を取り戻したみたいだ。


 あきらくんの最後のあの微笑み、それだけで、これまでのすべてが報われる気がしていた。


「おっ、ひかりくん、和メイド用の衣装が届いたよ! 早速着替えてー!」


「え……今日も着ないとですか……?」


 いつもどおり振り回されるぼく。けれど、内心、「まあ、悪くないか」と少し楽しんでいる自分がいる。


 一方そのころ――


 あきらくんは王子様スーツを手に取って微笑んでいた。


「ふふ、今日はこれを着て、ひかりくんを驚かせてやろう。……うん、これが僕の意志……だよね」


 あきらくんは小さくつぶやき、晴れやかな笑みを浮かべる。その瞳には、確かな生き生きとした光が灯っていた。




  ――そういえば、あの結婚式の翌日に、研究所で如月さんと交わした言葉を思い出す。

 

「――ひかりさん、改めまして、お疲れさまでした。あなたのおかげで、あきらさんの心も体も安定しはじめています」


 深々と頭を下げる彼女の姿は、いつになく穏やかだ。


「いえ、ぼくなんて、むしろ振り回されっぱなしで……」


 照れながらもそう言うと、彼女はかすかに微笑んでみせた。


「ですが……あきらさんが自分の“本当の意思”を見つけられたこと、わたしもとても嬉しいんです。研究者でありながら、あきらさんの可能性に惹かれてしまったのかもしれませんね」


 如月さんは顔を上げ、遠くを見るように続ける。


「ただ……今回のデータで、《Loom Project》は、次の段階へ進むことになりそうです」


 その一言に、ぼくはなんとも言えない胸騒ぎを覚えた。


「次の段階……って、どういうことなんですか?」


「詳しくはまだお話しできません。けれど、わたしの立場から言えることはただひとつ――あなたにも、またご協力をお願いすることがあるかもしれません。そのときは……」


 そこまで言うと、如月さんはふっと言葉を濁し、微笑みを浮かべる。


 まるで“その先”に何かが待っている、と暗示するかのように。


「ひかりさん、これまで本当にありがとうございました。どうか、あきらさんを……そしてあなた自身のことも、大切にしてくださいね」


 言葉自体はやわらかいのに、どこかに鋭い光を宿したまなざし。


 謎めいた余韻を残して、如月さんは足早に去っていった。


 ――まだ、研究所には何か秘密があるんだろうか。


 ぼくはしばらく、その背中を見送ってから、大きく息をついた。


(……でも今は、とにかく、あきらくんが笑ってくれた。それで十分だよね)


 そう自分に言い聞かせながらも、どこか胸の奥がざわつくのを抑えきれないまま――


 ぼくは研究所の出口へと歩きはじめた。




 こうして、波乱とともに幕を下ろした“結婚式作戦”は、ぼくたちの世界を少し変えた――


 この不思議な体質や、研究所の秘密もまだ気になるし、ぼくも、あきらくんも、まだ自分の道を模索中。


 だけど、振り回されるだけじゃなくて、自分で”選ぶ”大切さを少し知ったから。


 この先はきっと、もっと自由に服を着て、生きていける……そんな確信が、ほんの小さな芽を宿しているのを感じながら。


 (シーズン1 完 / シーズン2へ続く……)

 読んでいただき、本当にありがとうございます!


 シーズン1、完結しました!


 服に"着られちゃう"ひかりくん、そして同じ体質を持つ仲間たち。


 “完成形”のあきらくんは、皆さんの目にどう映ったでしょうか?


 感想や評価をいただけると、とても嬉しいです!

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