まほうのくに
ここは魔法の国です。
ここには、魔法がたくさん暮らしています。
炎の魔法に水の魔法、何かを見る魔法に誰かを虜にする魔法、時間に振り回される魔法に新しいものを生み出す魔法。
ありふれた魔法も、個性豊かな魔法も、それなりに仲良く暮らしています。
魔法はすべて、使われたあと、この世界に来ます。
役目を果たした魔法も、発動しなかった魔法も、すべてこの世界に来ます。
命を持つものは、命を終えたら天国に行くでしょう?
命を持たないものは、命を得たら地上に行くでしょう?
魔法も、おなじなんですよ。
場所が変わっても、魔法は魔法なんです。
肉体が変わっても、魂は魂なのと、ちょっと似てます。
命じゃないから生まれ変わることがない、違いはそれだけなんです。
魔法は、ここでは自由に過ごしています。
誰に使われて何をしたかなんて、気にしちゃいません。
星を滅ぼした魔法は、髪の毛を乾かす魔法とラブラブです。
お屋敷を作れなかった魔法は、かさぶたをはがす魔法とケンカばかりしています。
鑑定魔法は、偽装魔法と親友です。
植物を枯らす魔法は、クリーン魔法にフラレて落ち込んでいます。
空を飛ぶ魔法は、召喚魔法から嫌われてしまいました。
いろんな魔法が、思い思いに過ごしています。
魔法は、魔法でしかありません。
しかし、誰かに使われることで、心をもちました。
使い捨てられた悲しみが集まって、この世界はうまれたんです。
使ってもらえた喜びがあつまって、この世界は存在できているんです。
この世界には、実績のない魔法がずいぶん増えました。
魔法のない世界で、魔法が放たれるパターンが増えているからです。
魔法のない世界で、魔法が唱えられるパターンが増えているからです。
ここに来ることのできない魔法も、たくさん生まれているようです。
いつか誰かに唱えてもらって、心を得て、ここに来るといいなあと思います。
正直なところ、魔法に心を与えた生き物が気にはなります。
魔法は命ではないので、相まみえる事はできませんけどね。
いつか、命というシステムがなくなったら、対面することができるかもしれませんね。
いつか、魔法が何かを生みだす時代が来るでしょうか?
何かが変わるかもしれません。
何も変わらないかもしれません。
まだまだしばらく、魔法の国は大きくなり続ける事でしょう。
確かなことは、命のない魔法の国では、命を奪い合う必要がないという事です。