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おしどり夫婦のお料理事件簿〜小さな謎とダイニング・メッセージ〜  作者: 地野千塩


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番外編短編・君の名は?

「これは今川焼きよ!」

「いいや、大判焼きだと思う!」


 珍しく美玖と喧嘩をしてしまった。原因は大判焼き(今川焼き?)の名称について。美玖がパートの帰り、買ってきたものだった。いつものようにおやつとして楽しんでいたら、喧嘩になってしかったという。この名称については揉めるようで、ネットでも戦いが繰り広げられているようだった。朔太郎は絶対に大判焼きだと思うのだが。


 翌日。特に会話もなく気まずい。仕事をしていても、いい気分にはなれない。気分転換の為、ちょっと散歩に出ていく事にした。


 その屋台は駅前のあのスーパーの駐車場に出店していた。おそらく昨日美玖が買った店もそこだろう。屋台の名前は「今川焼き屋」だった。やっぱり朔太郎の方が間違っていたのかもしれない。


 朔太郎は屋台へ行き、大判焼き(いや、今川焼き?)を買う事にした。店主のおじさんは、鉄板の上で丸くて甘いものを焼いている。側から見ている朔太郎の鼻にも甘いあんこや生地の匂いが届く。


「美味しそうですね。五、六個売ってもらえますか?」

「おお。ありがとう!」


 店主はぶっきらぼうだったが、作っているものはとても美味しそうだった。他に客がいないのは気になってしまうが。


 店主によると、最近はこういった和菓子は人気がないようで、ギリギリの状態で売っているらしい。


「そうですか?」

「ああ。コンビニやスーパでも安くて美味しいものいっぱいあるからな。食の好みも多様になった。今川焼きは江戸時代からあるらしいが、昔はこんなお菓子も贅沢品だったんだよな」


 そう語る店主は、意外にも悲観はしていないようだった。ネットではこの菓子の名前について論争もあり、忘れ去られていない事は嬉しいという。


「名称なんてどうでもいいさ。ちょっとでも興味持ってくれたらいいんだ」

「そうですね。で、このお菓子の名前って結局何ですかね?」

「それはお客さんが考えな。俺が答えを出すことじゃない」


 それもそうだ。店主から紙袋に入ったあの菓子を受け取る。まだ焼きたてなので、紙袋越しから熱が届く。


 美玖の顔が浮かぶ。今は喧嘩中だが、この菓子も美玖と一緒に食べたら、きっと美味しいだろう。


 今すぐ家に帰りたい。帰って美玖と一緒に食べたい。


「おじさん、ありがとう。もう名称なんてどうでもいいか。早く食べたい」

「ありがとうございます。ご贔屓に」


 朔太郎はまだ温かい紙袋を抱えて、家まで歩く。そう、名称なんてどうでも良い。はや帰って美玖と一緒に食べよう。大事な事は何か分かった気がしてうた。




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