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おしどり夫婦のお料理事件簿〜小さな謎とダイニング・メッセージ〜  作者: 地野千塩


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番外編短編・チョコチップクッキーの真相

 五月の連休中、春美が家に遊びにきていた。あのアメリカ弁当の一件での子供だったが、美玖と一緒にパンケーキを作っているようだった。きゃっきゃと子供の声が仕事部屋にまで響いてきたが、仕方ないだろう。


「でも、ちょっとうるさいな。俺も下行ってみるか」


 朔太郎も一階におり、一休みすることにした。ダイニングテーブルの上は、パンケーキ祭りだった。塔のようにパンケーキが積み上げられ、ちょっと圧倒される。


 春美はパンケーキ作りが楽しそうで、以前のように愚痴をこぼすことはしていなかったが。こうして学校以外にも避難先があるのは、悪くないだろう。ちょとうるさいとは思っていたが、仕方ない。


「さくちゃん。コーヒー淹れたからみんなでおやつにしましょう」


 こうして三人でおやつの時間となった。


「うん? 春美ちゃん、どうしたの?」


 うるさいほどはしゃいでいた春美だったが、なぜか黙ってしまった。心配した美玖が声をかける。


「実はさ。クラスにいる女子で一人、すっごい気が強い子がいて」

「そうなんだ。で?」


 美玖は子供の話もちゃんと聞いている。作田にはできない事だ。今の朔太郎は仕事の疲れが出てきたようで、眠い。コーヒーを飲んで目元をスッキリさせる。


「その子、何故か私の事無視してきたり、アメリカ風の弁当も一番バカにしてくる。やっぱり、あの子は苦手」


 春美の母はアメリカ人。春美はハーフで、目立つルックスだった。確かに春美もこの外見で性格も誤解されそうだが。


「でも、何故か昨日、手作りもクッキーくれたの。どういう意味? なんか全く意味がわからない」

「そのクッキー見せてみて。なんか毒でも入ってるんじゃ?」

「そうかも!」


 春美は顔を真っ青にしながら、カバンから小さな箱を取り出した。そこにはラッピングされたチョコチップクッキーが入ってあり、見た目は悪くない。むしろ丁寧にラッピングされているようだが。


「さくちゃん、毒見できる?」


 美玖にとんでもない事を頼まれてしまったが、小学生の子供が毒など用意できるわけもない。用意できたとしても味や臭いでわかるものばかりだろう。それに朔太郎の能力で何かわかるかもしれない。


「じゃあ、一枚いただくぞ」


 朔太郎はチョコチップクッキーを食べてみた。いかにも手作りっぽいバターたっぷりのクッキーだ。バターの匂いが心地いい。味も甘い。特に毒は入ってなさそうだ。春美と同じぐらいの子供が親と一緒にクッキーを作っていたようだし。


 その子は、春美と違い、デブだった。容姿は残念なタイプだったが、気が強そう。明らかいじめっ子タイプ。


 再び咀嚼すると、彼女の想いも伝えわってきた。


『春美は可愛すぎる! 何であんなにハーフの子って可愛いの!? でも素直になれないよー。意地悪しちゃうよぉ。どうしよう。本当は仲良くなりたいのに。好きだけど、嫉妬もしちゃう。なんで?』


 食べながら、単純ないじめっ子でもない事に気づく。好意と嫉妬心が表裏一体となっているようだ。子供なので、その好意もうまく伝えられないよう。何だか切なくなってきた。不器用すぎて。


「大丈夫。このクッキーは毒じゃない」

「さく先生、本当?」

「表面だけじゃわからない事はいっぱいあるからな。大丈夫」

「そうよ。こんなクッキーくれるなんて、本当は春美ちゃんの事大好きなんじゃない?」


 この件については美玖が鋭いようだ。やはり、女の事は女が一番よく知っているらしい。


「そっか。悪意はない?」


 春美が恐る恐るチョコクッキーを食べ始めた。


「けっこう、美味しいかも?」


 その春美の表情は微妙だったが、春美に彼女の想いを理解するのは、難しいかもしれない。これは放っておくのが一番いいだろう。いざとなったら、親や担任にも報告すれば良い。


「よく分からないけど、チョコチップクッキーも作ってみたくなった!」

「いいわね! 今度一緒に作りましょう!」


 美玖と春美は、クッキー作りの計画で騒がしい。この二人を見ていたら、大丈夫だろう。


「うまいじゃん」


 朔太郎は再びチョコチップクッキーを噛み締め、その不器用な甘さを味わっていた。

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