プロローグ
近所の桜並木は、すっかり花びらが散ってしまっていた。今は綺麗な緑色の葉が見える。深緑の季節だ。
今日は仕事がひと段落し、美玖もパートが休みなので、二人で散歩に出掛けていた。
空は晴れ、ふかふかな雲が浮かんでいた。風は暑いぐらいだ。もう春はいつの間にか終わってしまったらしい。
相変わらず平和でいつもの日常だ。一つだけ仕事では問題があった。新刊の売り上げは悪いようで、打ち切りが決まった。よくある事だ。文句を言っても仕方ない。
「さくちゃん、打ち切りは残念だったね。でも次があるよ。リベンジしないとね。次成功すればいいんだから」
「そ、そうだな……」
美玖に励まされ、元気も出てきた。そうだ、いつまでも過去を見つめていても仕方がない。
朔太郎の能力は相変わらず。美玖には全くバレている様子は無いが、外食は相変わらず食べたくない。美玖の料理からは、毎日さまざまなな想いが伝わり、朔太郎を動揺させたり、赤面させたりもしていた。
『さくちゃんの事大好き! さくちゃんと結婚してよかった。毎日とっても楽しい!』
昨日食べたオムライスは、ストレートにそんな美玖の気持ちが込められていて、恥ずかしい。この能力が決して美玖には言えない。墓場まで持っていくつもりだった。
「あ、さくちゃん! 駅のロータリーの方見てよ。何かフードトラックが出てるよ!」
駅の方まで歩くと、たこ焼き屋のフードトラックが出ているのが見えた。鰹節か何かの良い香りもする。
「お腹減ったし、たこ焼きでも食べない?」
正直、こういう所の店はどんな過程で作られたかわかったものではない。料理人の込められた想いも良くない可能性がある。
それでも、隣で笑っている美玖を見ていたら気が変わった。美玖と一緒に食べれば、どんなものも美味しくなるかもしれない。
「いいね、たこ焼き」
「さっそく買いに行きましょう!」
こいして夫婦二人はたこ焼き屋のフードトラックの方へ歩き始めた。
いつもと同じ平和な日常。でもそれがずっと続いて欲しいと祈っていた。
ご覧いただきありがとうございます。これにて本編完結です。




