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妻のダイニング・メッセージ(4)

 麗子の自宅は、普通の一軒家。うすい灰色の壁の二階建てで、小さな庭もある。築は十年ぐらいだろうか。この辺りの家ではありふれていた。朔太郎の家も似たような家だった。


 表札は出ていない。防犯目的だろうか。これも大して珍しくはない。最近この辺りで振り込め作業が相次ぎ、防犯意識も高まっていた。美玖がチャイムをならすと、すぐに夫が出てきた。


 メガネをかけた大人しそうな雰囲気の夫だった。髪の毛は白い。目はぱっちりと二重で、そこだけは幼い印象を与えていた。年代は五十代と思われるが、十年ぐらい前は「とっちゃん坊や」のような印象だったかもしれない。朔太郎の業種では見かけないタイプ。市役所にいそうだ。案の定彼は、市役所勤めの公務員だったらしい。名前は甘澤光雄。


 さすが妻が失踪しただけあり、光雄は憔悴しきっていた。これは嘘をついているようには見えない。もしこれが演技だったら、アカデミー賞がとれそうだ。


「どうぞ、どうぞ。上がってください」


 光雄に促され、朔太郎も美玖も家にあがる事にした。


「お邪魔します」


 二人揃って軽く頭をさげて、家に上がるが、玄関は綺麗だった。靴も三和土に出ていないし、靴箱にきちんと収められているようだ。傘も二本だけ傘立てにあり、綺麗に収納されていた。靴箱の上にはピンクや黄色の花も飾られ、狭い玄関ながらも綺麗。


 似たような家だったが、朔太郎の家の玄関とは違う雰囲気だ。靴は三和土に出していることも多く、傘もビニール袋が貯まっている。靴箱にも要らない靴がいっぱい入っている状況。特に美玖はズボラというわけではないが、玄関は手を抜きがちの場所だと言っていたのを思い出す。美玖もこの綺麗な玄関に疑問がありそうな目をしていたが、家庭によって掃除の頻度や綺麗さは違うという事か。


 玄関だけでなく、廊下も通されたリビングも綺麗だった。綺麗すぎるぐらいで、あらかじめ来客がある事を知っているようだった。


「すみません。私はキッチンのことは何もできないんです」


 光雄はペットボトルのお茶をそのまま朔太郎や美玖に出してきた。グラスすら出してこない。しかも二リットルのペットボトル。これは、直で飲めという事か。全く家事をしないタイプだとわかる。気も効かないタイプなのかもしれない。真面目そうな光雄だったが、家では亭主関白か。朔太郎の中で光雄の印象は悪くなってきた。おそらくこの綺麗な家も全部麗子が管理していたのだろう。リビングのソファに座り、麗子がいなくなった時の状況も聞いてみたが、どうも釈然としないのだが。


「やっぱり警察に言いましょうよ。真面目な麗子さんが突然消えるっておかしいわ」


 美玖はスマートフォンを取り出そうとしていた。


「いや、実は東京にいるの娘が……」


 光雄は歯切れ悪く事情を説明した。娘がモデルをしているようで、昨今はSNSの扱いもピリピリしているという。警察に行き、大声になったら娘の仕事にも影響があると怯えていた。


「そうは言っても事件や事故の可能性もあるでしょう。ダメよ、何言ってるのよ」


 美玖は気が強い。子供はいないが肝っ玉母ちゃん風の圧もある。光雄はそんな美玖にタジタジになっていたが、喉が渇く。かといって二リットルのペットボトルをラッパ飲みするわけにもいかない。


「ちょっとすみません。光雄さん、キッチンお借りしてもよろしいですか? グラスを借りたいのですが」


 美玖の圧力に押されている光雄に声をかけた。光雄は項垂れたように首を縦にふった。何となく情けなくて頼りない夫だ。ため息が出そうになるが、キッチンに行けば何かわかるかもしれない。麗子が作った食べ物が少し齧れば、何か手がかりが掴めるかもしれない。あの不思議な力を利用したい。何か手掛かりが掴めるかもしれない。


 朔太郎は一人、リビングの隣にあるダイニングルーム、そしてキッチンの方へ向かっていた。

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