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おしどり夫婦のお料理事件簿〜小さな謎とダイニング・メッセージ〜  作者: 地野千塩


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翌日のカレーの秘密(4)

 お料理コンテストイベントといっても、内輪ノリの小規模なものだった。参加者がそれぞれ料理を持ち寄り、一番美味しかった人の投票。得票数が一番多かった人にエッグチョコと賞状が送られる。あくまでも教会内の内輪向けイベントなので、プロの料理人などの評価などはなく、ゆるい雰囲気が漂っていた。


 エッグハントイベントが終了した庭の中央んkは、長テーブルが出ていた。その上にお料理コンテスト参加者の料理が並んでいた。手毬寿司サンドイッチ、餃子、唐揚げなどの料理が目立つが、美玖はカレードリアでの参加だった。大皿のドリアは、意外と目立ていた。


 一方、手毬寿司は、誰がどう見ても可愛らしい。これはカナエが作ったもので、試食するものも殺到していた。カナエも満更でもない顔だ。褒められる度のドヤ顔していて、嫌な感じだ。


 朔太郎も試食でカナエの手毬寿司を食べてみた。一口サイズの酢飯にサーモンが巻かれ、トッピングに金箔も載っていた。確かに見た目は良い。可愛らしい。映える料理だと思うが。


 一口食べて後悔した。キッチンでカナエが手毬寿司を作っている様子は問題ない。ちゃんと衛生面にも気を使い、丁寧に仕事をしていたが。


『本当は異郷の祭りであるイースターイベントなんて出たく無いんだからね! 全くこの教会の牧師も教会員もお花畑の情弱ばっか。ネットの情報を見て目覚めて欲しい。私以外みんな馬鹿ばっかりなんだから。本当に腹立つ!』


 確かに手毬寿司の味自体は美味しい。酢飯もサーモンの味も完璧だろう。それなのに、カナエの想いで台無しになっていた。プライドの高さ、頑固さ、性格の悪さ、頭の悪さまで滲んでいて、美味しくない。なるほど、陰謀論者が嫌われる理由がよくわかる。これは朔太郎のような能力がなくても、込めた想いに気づく者もいるかも知れない。最初は人気があった手毬寿司だが、美玖のカレードリアの方に人が群がり始めた。


 さすがに身内である妻の料理に投票するのも気が引けた。このカレードリアは、わざと一晩寝かせたカレーを使っているようで、味が染みて美味しい。美玖も楽しく料理を作っているようで、カナエの手毬寿司とは全く違った。確かに見た目はカレードリアの方が豪快過ぎたが、こんな大皿料理をスプーンで分け合って試食するのも、ちょっと楽しい。


 カナエや美玖の料理だけでは、投票する判断もつかない。今度は餃子を食べて見る事にした。餃子は、ここの教会員の主婦・松戸奈々子のものらしい。四十歳ぐらいの小柄な主婦で、小さな子供を三人も連れていた。


 餃子は子供と一緒に作っているようだった。一口食べると、奈々子が子供と一緒に餃子を作る光景が浮かんできて、微笑ましい。


『せっかくのイースター。どんな理由にせよ、楽しもう!』


 そんな奈々子の素直な想いも伝わり、悪くない。美玖には投票できないので、この餃子に一票入れるか。


 そう思っていたが、最後に唐揚げも試食するんlを忘れていた。唐揚げも人気で、無くなりかけていたが、どうにか最後の一個を試食する事ができた。この唐揚げは、藤川の妻である美沙が作ったものだった。


 薄づきの衣で、柔らかい食感の唐揚げだった。味もあっさり目で、レモンをかけた方が合うかも知れない味だった。


 キッチンで調理している美沙の姿も見えた。鼻歌交じりで、とても楽しそうに唐揚げを揚げている。ジュワッと揚げる音も聞こえるが、素敵な音楽のようにも聞こえてしまうのは、気のせいだろうか。


 再び唐揚げを咀嚼すると、美沙の想いも伝わってきた。


『イースターが異郷のお祭りだって事は知ってる。このイベントが嫌だっていうクリスチャンもいるでしょう。でもこんな事で言い争いをし、憎みあったら、一体誰が一番悲しむ?』


 軽やかな味の唐揚げだったが、美沙の想いはさほど軽くは無いようだった。


『イースターがきっかけで神様の事を知ってくれたら、別に悪いことかな? 私は、きっかけなんて何でも良いと思う。陰謀論から神様を知っても良いのと同じように。このイースターだって最大限に利用してやりましょう。異郷のお祭りが起源だからって何なのよ? 起源を気にしたら饅頭も食べられないし、仏教由来の多くの日本語も使えなくなる。だったら利用してやればいいのよ』


 もしかしたら、美沙はあのチラシの犯人はカナエだと勘付いているかも知れない。


 笑顔で唐揚げを配っていた美沙だが、意外と気が強いかも知れない。本気で戦ったら、カナエの方が負けそうだ。


 結局、朔太郎は餃子に一票入れた。一番これが丸く収まるだろうと思ったからだった。


「それでは、お料理コンテストの結果を発表します。一番票を集めたのは、味川美玖さんのカレードリアです!」


 藤川が発表すると、庭中は拍手に溢れ、美玖も前の方に引っ張りだされた。実際、試食では美玖のカレードリアが一番減っているようだった。我が妻ながら、素晴らしい。


 朔太郎は妥当な結果だと思っていたが、カナエは口をへの字に曲げ、とても不満そうだった。納得いかないと言いたげだった。


「確かに私のカレードリアは見た目は豪快だったわね。でも、翌日のカレーを使って、味がしみしみなの。一晩寝かせて余計に美味しくしたからね。子供さんたちも、納得いかなかったり、分からない事も、一晩寝かせて放置してみるのも良い思う。このカレーみたいに、現実が変化している事もあるますからね?」


 一位になった感想を聞かれて、美玖はこんなコメントをしていた。


 この結果に納得がいかず、抗議でも始めそうなカナエだったが、もう何も言えない様子だった。ぐっと何かを堪えているかのような表情だった。美玖のこの言葉から、何かを感じ取ったのかも知れない。


「確かにカレードリアはこんな見た目ですけど、料理は見た目だけじゃないのよ! 外見の綺麗さだけに拘っていたら、大切な心を忘れてしまうから」


 そんな美玖のコメントに、藤川も美沙も大きな拍手を送っていた。


 一方、カナエは下を向き、複雑な表情を浮かべていた。悔しいというよりは、情け無いと言いたげな様子だ。そんなカナエの姿を見ていたら、一方的に責めるのも違う気がした。藤川が言う通り、彼女が自分から話をするのを待った方が良いだろう。


 今は待つ時か。いつまで待てば良いとも断言出来ないが、翌日のカレーのように現実が良い方に変わっている事もあるかもしれない。

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