翌日のカレーの秘密(1)
ある春の日曜日の午後。朔太郎達は、懐かしい場所へ来ていた。
それは友人牧師・藤川悟の教会だった。街中にある小さな教会だ。大きなベルやマリア像、立派な外観はないが、広い庭もあり、長閑な公民館のような雰囲気の場所だった。
朔太郎と美玖は、ここで結婚式をあげた。思い出の場所の一つでもある。
礼拝堂もあるが、ここもかなり質素な場所だ。豪華で立派な椅子もない。懺悔室もない。もちろん、免罪符なども売られていない。プロテスタント宗派の教会だった。
牧師である藤川も普通にスーツ姿。コスプレみたいな格好や十字架のネックレスもしていない。結婚式や洗礼式等ではちゃんと正装をするそうだが、普段はスーツ姿だという。藤川も朔太郎と同年代で初老の男。髪の毛もだいぶ寂しくなっていたが、趣味の登山のおかげか、体格は引き締まり、声もよく通る。説教がメインの仕事である牧師は、これは仕事に活かせるだろう。
今日は今日でイースターイベントがあるので、朔太郎と美玖も正体されたのだった。イースターの起源は本当はキリスト教とは無関係だが、イエス・キリストの復活を祝う為に教会も利用しているんだそう。中にはイースターの起源はキリスト教と関係ないと、揉めるトピックではあるらしいが。
イースターらしく教会の庭でエッグハントとお料理コンテストのイベントをする予定だった。さっそく、庭でエッグハントが始まり、大勢の子供達が卵を探していた。
他にも教会員達の女性が卵を探している。この教会は圧倒的に女性が多いらしいが、美玖もノリノリで卵探しに熱をあげていた。庭の植木鉢、ベンチの下、バケツの中など意外なところから卵が出てきるようで、意外と盛り上がっていた。
ここで使うのは卵はおもちゃだ。さすがに本物の生卵を使うわけにはいかないだろう。見つけた卵は、藤川の妻・美沙がお菓子やゆで卵と交換できるルールの為、子供達は余計に楽しんでいるようだった。
「さくちゃん、シークレットの黄金卵は絶対に見つけるわよ!」
鼻息荒くエッグハントに熱中している美玖は、大人としてどうかと思うが。
とはいえ、よく晴れた空。子供達の笑い声。そんな平和で長閑な光景を見ていたら、どうで良くなってくるものだ。朔太郎は別に卵など探してはいなが、楽しそうな美玖を見ているだけで十分だったりするものだ。
そんな時だった。藤川から声をかけられた。
「朔太郎、ちょっといいか?」
「なんだよ?」
「いや、ちょっと相談したい事があるんだが」
いつもは穏やかで、うっすら笑っているような顔の藤川だったが、今日はどこか目が暗かった。こんな楽しいイースターイベントをやっている空気とは正反対の目で、朔太郎は嫌な予感がした。
「なんだ? 深刻なことか?」
「いや、別にそうでもないんだが。まあ、礼拝堂の隣の部屋に行こう」
なぜかそんな展開になった。この教会のは懺悔室はなかったはずだ。何か告白させられる事は無いだろうが、朔太郎の心臓はドキドキとしてくるのだった。




