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妻のダイニング・メッセージ(2)

 今日の夕飯のメニューは、春キャベツの炒め物がメインだ。テーブルの上に大皿が鎮座している。一口大に切られたキャベツは、玉ねぎや豚肉と絡み、ほかほかの湯気をあげている。


 それに白米。味噌汁、漬物が並ぶ。いつもの夫婦の食卓だった。高級料理では無いが、普段の肩筋張らない食卓。温かみのある食卓だった。


「うん、うまい、うまい」


 朔太郎はご飯を食べながら、笑顔だった。相変わらず料理の作成過程、作った人の思いが映像化されて伝えわってくるが、美玖の起源も良いようだ。花粉症には悩まされているようだが、新しい中華風の調味料も試せて楽しいらしい。


 もっとも毎日こんな風に機嫌が良いわけでは無いが。機嫌が悪い時も料理から伝わり、朔太郎は先回りして喧嘩に火種を潰していた。そんな夫婦は滅多に喧嘩もしない。近所ではおしどり夫婦として有名だった。その理由が朔太郎の不思議な能力によるものだとは、決して言えないが。美玖にも言えやしない。新婚当時は、料理からラブラブな思いが伝わってきて、赤面するのが止められないぐらいだった。


「そういえばさくちゃん、仕事はどうよ」

「うーん、まあ順調? 今度食に関するエッセイを書くんだ」

「ふーん。また食品偽装を暴いたりしないの?」


 美玖は子供のように好奇心いっぱいの目を向けてきたが、朔太郎は首を振る。この不思議な能力を利用して、食品偽装を見破り、本かルポライターをやっていた事もあるが、社会の闇を暴くのは、想像以上に心労だった。人の人生を変えてしまう可能性もあるので、そういった仕事は断っている。どちらといえば、日常のささやかな幸せや喜びを表現する方が水が合う。


「残念。イケイケなさくちゃんも見たいのに」

「そうか?」

「そうだよ」


 キャベツの炒め物はシャキシャキで、ほのかに甘みも感じる。春らしいキャベツのようだ。やはり美玖の料理が一番安心する。特に外食は、過程や料理人の心情が全て伝わってしまうので、楽しく食べられない。ちゃんと丁寧にプライドを持って仕事をしている店にしか行けなかった。


「美玖はどうなんだい。パートは?」


 美玖は駅の清掃、あと駅前のスーパーで店員のパートをやっていた。


「それがねぇ」


 同じスーパーのパート仲間が一人、急に休んでしまい今日は大変だったという。甘澤麗子さんいう名前の五十代の主婦。同年代という事もあり、美玖とも親しいらしいが。


「しかも無断欠勤。こんな事ってある? 麗子ちゃんは人懐っこいタイプだけど、真面目な子だよ。なんで欠勤?」


 そうは言われても、朔太郎は困ってしまう。会ったこともないパート仲間は、遠い存在だ。


 ちょうどその時、美玖の携帯がなった。廊下の方に電話をかけに行ったが、なかなか戻ってこない。食卓の上の味噌汁や白米も冷め始めていた。


 時々廊下の方で妻の慌てた声もする。何かあったのだろうか。


 しばらくして美玖が戻ってきたが、その顔は焦っていた。長年、美玖と連れ添ったカンだ。これは何か悪い事が起きたような悪寒がする。


「大変、さくちゃん」

「何にがあった?」

「麗子さんがいなくなったみたい。無断欠勤じゃなかったみたい。失踪ってやつ?」


 いつも大らかでどっしりと構えている美玖が慌てていた。良くない事が起きていたようだ。

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