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おしどり夫婦のお料理事件簿〜小さな謎とダイニング・メッセージ〜  作者: 地野千塩


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生焼けの復讐劇(1)

 今日は富沢の家へ行く予定だった。宮子との一件で迷惑をかけた、とホームパーティを開くという。


 というのは建前で、塩瀬の励ましパーティーの意味合いもあるらしい。富沢も塩瀬の事が気掛かりだったようで、ぱーっと食べて飲んで励まそうという事だった。正直、意外だったが、それだけ富沢も塩瀬を信頼していたという事か。


 ホームパーティーは、富沢の家で昼間から行われる予定だった。新築の富沢の自宅で、朔太郎の家からも遠くはない。富沢の家は、別荘地の方にあり、田舎といっても観光地のような雰囲気の隣町にあった。


 朔太郎の家とは違い、洒落た洋館風の一軒家。大正ロマン風でもあり、庭も広い。隣の家までの感覚も広い。富沢の財力の差を見せつけられているようで、ちょっと歯軋りしたくもなるが、今日は楽しいホームパーティだ。作家仲間の飯島秀治も来るらしく、朔太郎は笑顔で富沢の家に訪問していた。


 本当は夫婦二人で訪問したかったが、美玖は少々遅れてやって来る。朝、手土産のパウンドケーキを焼いていたのだが、生焼けで失敗。手土産を駅前の洋菓子店で買って行く事になった為、別行動となった。


 あの洋菓子店は、店主が真心込めて作っている品質には問題はないが、できれば一日限定十食のスペシャルシュークリームをゲットしたいという事で、美玖は並ぶ事になったのだ。確かにあのシュークリームだったら、一口で憂鬱な気分も吹き飛びそうだ。


「いらっしゃいませ。朔太郎先生、美玖さんは?」


 富沢の家では、まず妻の宮子に迎えられた。前と違い、気が抜けたようで明るい笑顔を見せてきた。薄いブルーのシャツもよく似合っている。


「実は手土産買ってて、ちょっと遅れるんです。まあ、先に始めちゃいましょうよ」

「そうなんですか。わざわざすみません」


 宮子に案内されつつ、一番大きな部屋のリビングに案内された。もう既にホームパーティは始まっていたらしい。テーブルの上のはオードブルやデザート、ワインやチーズも並んでいる。その全ては手作りではなさそうだが、華やかなテーブルだった。宮子もあの一件以来、手作りにはこだわっていないようだ。


 広々としたリビングで、壺や絵画などの高級品もあり、朔太郎は緊張してきた。新築らしく木の香りもし、大きな窓からはハーブや花が植えられた綺麗な庭も見える。


 そんな朔太郎とは違い、既に来ていた作家仲間の飯島は、ワインをちびちび飲みつつリラックスしていた。


 飯島は富沢と同年代のアラフォーだ。ジャンルもファンタジー小説などライトノベルレーベルで活躍している。作品は読みやすくライトだが、本人は落ち着き、渋い雰囲気だ。雰囲気だけなら還暦近い朔太郎とも似た部分もあり、親しかった。


 一方、富沢は既に酔っ払い初め、ギターをとりだして弾き語りもやっていた。塩瀬の励ましパーティというのも建前で、単なる飲み会になっていた。


 雰囲気は既にグダグダだったが、塩瀬もやってきた。


「先生! 今日はお招きいただいて、ありがとうございます」


 そう挨拶をしてきた塩瀬は、笑顔だった。もう何か悩んでいる様子もなく、もう大丈夫そうだった。


「そういえば、塩瀬さん。ネットで自称・富沢の妹をして、誹謗中傷している奴の件はどうなった?」


 ソファで塩瀬や飯島と酒を飲みながら、気になっている事を聞いた。相変わらず富沢のうるさいギターの音が聞こえるが、褒めているのは宮子だけだった。ちなみに防音ガラスなので騒音問題も大丈夫らしい。もっともこの家は近所とも距離があるそうだが。


「実は警察にも相談中でして。編集部にも脅迫状も届いているんんです」

「それは大変ではないか」

「そうですよ。早めに対処しておかないと」


 朔太郎も飯島も声を揃えていう。最近は大手出版社の編集部に放火された事件があったが、作品をパクられたと被害妄想をした作家志望者の犯行だった。


 その事を思い出すと、他人事ではない。朔太郎も拗らせた作家志望者や、売れずに廃業していった作家仲間の存在もよく知っている。逆恨みされやすい所である事は、自覚があった。


「ええ、ですから、今は警察に相談中で……」


 ちょうど塩瀬がそう言ったところだった。何かが割れる音や悲鳴が響いた。


「きゃああああ!」


 宮子の悲鳴だった。気づくと彼女は、見知らぬ男に捕まり、ナイフを突きつけられているではないか。


「お前ら、ぶっ殺す!」


 男は獣のように吠えていた。


 富沢はこの状況に気を失い、伸びていたが、他の面々は突然押し入ってきた男に、どうすれば良いかわからない。


「いう通りにしろ! さもなければ、この女を刺すからな!」

「お願い、そうして!」


 宮子も恐怖で、従うしか無いようだった。もちろん、朔太郎達も男のいう通り、両手を上げ、降参のポーズをとった。


 いわゆる立てこもり事件が発生していた。他人事のようだが、突然平和な飲み会が壊され、どうしたら良いかもわからない。宮子という人質を取られ、どうする事もできないのだが……。


 この男は誰だ?


 一体何の目的でこんな事をしているんだ?


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