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おしどり夫婦のお料理事件簿〜小さな謎とダイニング・メッセージ〜  作者: 地野千塩


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パセリの自己肯定感(4)

 春の生ぬるい風が吹き抜ける。今日は晴れているので、余計に暑い。田舎の市道を歩いていると、首周りがじっとりと汗ばんでくる。朔太郎が着ているパーカーを脱ぎ、手に持つことにした。荷物にはなるが、その方がいいだろう。


「本当の自己啓発セミナーで逃げている人もいるのか?」


 隣にいる美玖に聞く。


「ええ。何でも断食が辛いんですって」

「へえ。そういえば前も断食やってるカルトで、事件とかあったよなぁ」

「そうなの? なんかワクワクしてくるわね」


 相変わらず美玖はゲスな目を見せてきた。本当におばさん臭いが、まあ、いいか。春なので、朔太郎もちょっと頭のネジが抜けているようだった。


 それにしても断食などよく出来るものだ。さっき美玖の美味しいオムレツをサンドイッチにして食べたので、余計に信じられない。


「まあ、世の中にはいろんな人がいるからね」

「おお」

「だから面白いっていうのもあるよ。皆んな優等生的ないい子ちゃんだったら、つまらない!」


 確かに美玖を見ていていると、実感してしまう。隣にる朔太郎も美玖と一緒にいると、全く飽きないものだった。


 そうこうしているうちに道は人気のない私道に入り、店も何もない。雑木林のような暗い道を歩き続けると、その自己啓発の施設が見えた。


 一見はどこかの事務所のようなに地味なビルだった。三階建で大きくはないが、隣に広い駐車場もあり、車や自転車がズラっと並べてある。


 玄関の近くには、派手なのぼりも設置されていた。「努力・根性・成功!」という暑苦しい言葉も印刷されていた。春の温い風に煽られ、のぼりは何とも言えない間抜けな雰囲気が漂っていたが、ここが自己啓発の施設で間違いないだろう。


 朔太郎も作家になる前は、中古車の営業や整備の仕事もそていて、新人研修もこんなような施設で行った記憶があった。寝ずにビジネスマナーや基礎的なことを詰め込み、その後に社長が作ったアニメ映画を見せられた。美化された社長が主役の話で、見ているだけで洗脳されそうだった。今でいうブラック企業だった。すぐに朔太郎は辞めたが、あの研修施設と似たような匂いを感じ、嫌悪寒がする。犯罪や事件の匂いも漂うのだが。


「ちょっと駐車場の方から声が聞こえない? 見てもる?」


 美玖は相変わらず野次馬根性を丸出しにしてうたが、朔太郎はだんだんと不安になってきた。


「ああ、一応見てみるか」


 二人で駐車場の方へ向かい、声が聞こえる窓の方へ。


 植木の茂みから、こっそりと見てみたが、驚く。


「絶対成功するぞー!」


 研修室のような場所で男が一人叫んでいた。見栄えの良い派手な男だった。ステージ上のスポットライトがよく似合いそうな雰囲気だ。まだ若いが、体型も良いので、貫禄もある。いわゆるカリスマ性がある男だった。自己啓発は怪しいが、この男を見ていたら、騙されない自信は全くなかった。


「お前ら気合い入れて断食しろよ! がんばれ! 努力は決して裏切らないぞ!」


 男は再び怪しい発言をしていたが、会場にいるものは、死にそうな顔だ。若い男女ばかりだったが、これは本当に断食をしているように見えた。


「お前らもっと声を出せよ! お前らが成功できないのは、自己責任だぞ!」


 男はさらに大声で叫ぶが、朔太郎は気分が悪くなってきた。自己啓発というよりは、カルトじみている。断食させ、肉体が弱っているところに男が都合の良い思想を洗脳しているようにも見える。ブラック企業の新人研修施設にも似ていると思ったが、その勘は的外れでもなかったらしい。


「いやだ、さくちゃん。何あの男。何だかブラック企業の社長さんみたいな雰囲気」


 美玖も似たようなことを感じていたらしい。夫婦の以心伝心というものか?


「どうしよう、さくちゃん。かなり怪しいわね。警察に行った方がいい?」

「いや、特に犯罪行為でもないよ」

「えー?」

「限りなくグレーだけど、何か高額なものを売りつけているわけでもなさそうだしな……」


 今、見える段階では犯罪行為は見えない。おそらく何か高額な情報教材、サプリメント、美容液を売っている可能性が高いが、今は警察を呼んだら良いのか。


「だったらどうするの?」

「仕方ない。帰るしかないだろう」


 美玖は不満そうだったが、帰ろうとした時だった。施設の裏口から、誰かが出てきて美玖とぶつかった。


「な、誰?」


 大柄な美玖に躓き、その人物は足を擦りむいていた。


 予想外の人物だった。この自己啓発に参加する若い女だと思ったら、よく見たら塩瀬だった。昨日電話し、心配していた張本人が、なぜここに?


「塩瀬さん、何でここに?」

「さくちゃん、お知り合い?」

「担当さんだよ」

「えー、本当に何でここにいるの?」


 美玖は驚きを隠せないが、塩瀬は死にそうな顔だった。まさか本当に断食でもしていたのだろうか? 黒い髪や白い肌も、前に会った時と比べて酷い状態だ。地味で優秀そうな印象から、病的な雰囲気に変わっていた。


「何で先生がここに……」


 そう彼女が呟いた同時に、腹がなる音が聞こえた。グゥ〜と実に弱々しい音だった。

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