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おしどり夫婦のお料理事件簿〜小さな謎とダイニング・メッセージ〜  作者: 地野千塩


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パセリの自己肯定感(2)

 翌朝、午前の十一時前。塩瀬との電話の約束より、まだ少し時間があった。仕事場で原稿の細かい部分を直しながら、それまでの時間を潰す。


「それにしてもなんだかな」


 ネットをちらりと見ると、富沢の事がSNSで話題になっていた。富沢本人はSNSをやっていない。あの性格だと何かトラブルを起こすと止まられていた。ずっと富沢はSNSをやっていないはずだが、自称・富沢の妹という人物がSNS上に現れ、編集部はブラックで最低な人ばかりと訴えていた。


 いかにも偽物らしいアカウントだった。そもそも富沢には妹などいない。それでも信じてしまうネットユーザーも多いらしく、編集者や出版社が叩かれていた。SNS上ではこうした編集者叩きはアクセス数も伸びやすい。一般人のは未知な存在であるし、それ故に悪者扱いされやすいポジションだった。


 確かに朔太郎も変な編集者を見た事あるが、別の作家とはその人は相性が良かったらしい。逆にネットで評判の良い編集者も朔太郎的には、相性が悪かった事もある。一概に誰が悪人かは断言できないのだ。それに多くの編集者は読者や良い作品の為に仕事をしている。ネットのデマで叩かれている現状を見ると、恐ろしい時代になったと感じる。昔はこんなトラブルは滅多になかった。もっとも出版社に脅迫状やカミソリが直接送られてくる事も珍しくはなかったそうだが。


 自称・富沢の妹だというSNSのアカウントは、塩瀬も名指しして叩いていた。編集者の名前が直接出るのは、妙だった。これは誹謗中傷にも見え、電話をかける前から朔太郎は心配になっいた。


「塩瀬さん、大丈夫ですか?」


 電話では仕事の関する報告を終えると、この件について聞いてみた。明らかにデマだが、信じてしまうネットユーザーもいる。気に病んでなければ良いが、塩瀬の声はだいぶ落ち込んでいた。声もガラガラとしていたし、風邪も引いているかもしれない。


「ああいうネットも嫌がらせは、気にしない方が良いですよ。場合によっては、開示請求とか。弁護士の相談するとか」

「ええ……。会社の方で対処してもらってもますが……。こんな名指しで悪口言われるなんて、想像以上にダメージくらいます」


 塩瀬の仕事ぶりは丁寧だった。ネットに書かれているように、パワハラや暴言は事実無根だった。それでも塩瀬は、気に病んでいるようで、迂闊に励ますのも躊躇してしまう。やはり法的に対処するのが、一番だろう。


 まだ若い女性の編集者だ。まだなだ繊細なところがあるだろう。見かけは地味だが、こうして丁寧に連絡をくれたり、縁の下で様々なフォローをして貰っていた。そんなネットの中傷で折れてしまうのは、あなりにも勿体ない。塩瀬は朔太郎だけでなく、あの富沢のような癖の強い作家も上手く合わせて、原稿を書かせていた。これは誰でも出来る事でもないだろう。もし富沢の担当編集者だとしたら、想像しただけでも疲れてくる。


「私なんて、そんな良い編集者じゃないですよ。ネットで書かれている通り無能です」

「ちょ、塩瀬さん。本当大丈夫? 少し休んだ方が良いんじゃない?」

「ええ。実は少し有給休暇とろうかと」

「その方が良いですよ。私の仕事は今は順調ですから」

「そうですか。そうですよね。私が休んでも何も変わりないですよね」


 なぜか話題はそんな方面に転がる。地雷を踏んでしまったかもしれない。


「私なんて、みんなから残されるパセリみたいなもんですよ。必要ないんです。無能なんです」


 朔太郎はもう何も言えない。下手に励ますのも、間違っている気がした。


 塩瀬の落ち込みも休めば元に戻るだろうか。とにかく今は休んで自己肯定感を回復させる方が良いだろうが……。


 朔太郎は塩瀬が回復する事を祈る他ないようだった。

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