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おしどり夫婦のお料理事件簿〜小さな謎とダイニング・メッセージ〜  作者: 地野千塩


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じっくりことこと煮込んだ殺意(3)

 女は、ひたすら男の後を追っていた。ローカル線を乗り継ぎ、比較的大きめな都市に出た。男は駅ビルの中にある書店、雑貨屋などをふらついた後、チェーン店のカフェに入った。時計を見て、あたりを見回していたので、誰かと待ち合わせをしているのかもしれない。


 カフェは混み合っていた。おかげで朔太郎も上手く身体を隠しながら、女と男の姿を追う事ができた。女はずっと男の背中に背を向けており、意外と朔太郎に気づかない。人畜無害そうな雰囲気の朔太郎は背景に溶け込み、さほど目立っていないという事もあるだろうが。


 カフェでは一応コーヒーと袋入りのバームクーヘンだけ購入した。長い名前の甘そうなコーヒーが看板メニューだろうが、飲みたくはない。こういうチェーン店の厨房の様子や店員の想いも知っても楽しくは無いはずだ。何も購入しないでテーブルにつくわけにも行かず、一応買っただけだ。


 コーヒーも一口飲んでみた。案の定、ブラック化しているバックヤードが見えてしまい、楽しくない。店員もこれから彼氏と会う事しか考えていないようだった。味自体は悪くないコーヒーだが、苦く感じた。


 バームクーヘンは工場で作られたものらしく、添加物も大量に入っていた。これは一口齧るのも嫌な気分になりそうで、後で捨ててもいいか。一応パッケージは猫がデザインされて可愛らしいが。


 女もコーヒーだけ購入し、離れて座っている男をチラチラと見ていた。


 その視線は、どこか不安げ。憂鬱そう。本当に探偵が尾行しているのか不明だ。その割には警戒心もない。視線もまるで恋煩いでもしているかのような憂いがある。


 恋煩いか。もしかしたら女は男をストーカーのように尾行、監視しているのだろうか。そう思うと色々と腑に落ちる。ストーカーというと女も多いらしい。富沢は女のファンのストーカーにもあった事があるらしく、勝手に婚姻届も出されそうになったという。今でも自称・富沢の妹のSNSアカウントが多くあり、編集者もチェックしているらしい。意外な事だが、今の時代はSNSのチェックも仕事の一貫らしい。SNSで評判の良い作品が続刊する事もあると塩瀬も言っていた。一方、SNSで不用意な発言をし、炎上後、アニメ化が中止になった作家もいるらしい。


 作家自らのSNSの発言で炎上だったらまだマシかもしれなが、デマや噂程度のソースでも誹謗中傷に発展する事もあるという。特に編集部の悪評は証拠の無い情報でも拡散されやすいと嘆いていた。


 ネットの炎上や、SNSについて考えていると、作品のネタが浮かんできた。急いでメモ帳に書き付ける。スランプだと思っていたが、突破口があったようだ。正直もう女や男の尾行も中止しようかと思った瞬間。


 男の元に綺麗な女性が近づいてきた。親密しうだ。おそらく彼女だろう。男とこの綺麗な女性は、腕を組んでイチャイチャしながらカフェを出て行ってしまった。


 一方、女は唇を噛み締めていた。小刻みに震えてもいる。女がストーカーだとしたら、この結果は残念としか言いようがない。


 その目はもう憂いはなく、怒りのようなもので染まっていた。人でも殺しかけないような表情だった。


 遠くで見ていた朔太郎だったが、怖くなってきた。美玖はさっぱりとしたタイプだったので、女は一般的にドロドロしている事を忘れていた。


 あの女はストーカー。九割方そうだろう。こんな昼間から男を追いかけているなんて、まともな人物でも無いだろう。


 それでも殺意が滲んだような目は、ほんの少しだけ綺麗だ。黒薔薇や黒百合のような美しさだ。法律的にも論理的にもストーカー行為は許される事ではないが、女から目が離せない。これは何か作品のネタになるかもしれない。


 引き続き、朔太郎はこの女の尾行をする事に決めた。スランプは抜け出せそうだが、好奇心が余計に盛り上がっているようだった。


 女はしばらくぼーっとコーヒーを啜っていたが、カフェからでた。その後は、駅ビルの中にある雑貨店をふらふらしてうた。本屋や化粧品の店は見向きもしない。何か雑貨屋で欲しいものでもあるのだろか。


 店員に聞けば良いが、女は一回もそうする事はなかった。わざと人目を避けている印象だ。


 女は雑貨店では何も買わず、百均に入った。日本の景気が悪いせいか、レジが長蛇の列ができ、混み合っていたが、女はキッチンコーナーで包丁を見ていた。しかも数本かごに入れて、セルフレジで購入しているではないか。


 なぜ包丁? まさかあの男を殺すつもりか?


 カフェでの女に視線を思い出すと、それも十分あり得そうだから怖い。さっきまでは作品のネタになるとワクワクしていた朔太郎だったが、恐ろしくなっていた。相変わらず女の視線は憂鬱だった。それも恐ろしい。


 包丁を購入した女は、再びローカル線を乗り継ぎ、地元の駅に帰ってきた。


 気づくともう夕方になっていた。駅近くのスーパーからパートが終わった主婦集団と、ちょうど鉢合わせしてしまう。そこには美玖もいて、何をしているのか怪しまれた。


「実はあの女が……」


 美玖に手短に事情を説明する。


「本当? 包丁なんて買ってたの? それ、やばくない?」


 美玖も朔太郎と一緒に女を追う事になった。この後、カラオケに行くつもりだったらしいが、こっちの方が面白そうという。


「面白いか?」

「ええ。殺人事件が起きるかもしれないじゃない?」


 小声で言い。美玖は笑っていたが。遠くに見える女の背中を見ながら、嫌な予感しかなかった。


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