表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おしどり夫婦のお料理事件簿〜小さな謎とダイニング・メッセージ〜  作者: 地野千塩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/57

じっくりことこと煮込んだ殺意(1)

 富沢の件も無事解決し、朔太郎は仕事に追われていた。パソコンに向かい、原稿を書き続けていたが、何となく雲行きが怪しくなってた。プロット通りにいかないかもしれない。ネタも尽きるかもしれない。いわゆるスランプ時期に入りそうな悪寒もした。


 長年の経験からこういう時は考え過ぎるのは良くない。身体を動かすと自然と頭も働き、突破口も見えたりする。一応担当編集者の塩瀬には進捗を報告してした後、明日からでも散歩でもしてみようと決めた。


 気づくと時計は十七時過ぎていた。お腹も減ってきた。美玖もパートから帰ってきた事だろう。


 散らかったデスクの上を片付け、一階に向かう事にした。夕飯を食べるのは、楽しみだが、今は少し胃も痛い。おそらく精神的なものが原因だろうが、早めにこの危機から乗り越えないと。


 ダイニングルームの窓からは、薄曇りの空。もう夕方で色も変わってきたが、最近は天気もよくない。せっかく桜の花びらは満開だったが、天気で台無しになっていた。


 そんな事を考えていたら、キッチンから良い香り。みりんや醤油の甘い臭い。これは肉じゃがか。


 肉じゃがは思ったより家庭でもない。少なくとも美玖は一年に数回しか作らない。原因はじゃがいもだ。意外と取り扱いが面倒な野菜だという。確かに良い皮を剥いて、芽も取るとなると面倒だ。もやしの方は色んな面でコスパも良い。


「ぎゃー、やってしまった!」


 キッチンから美玖の声がした。この声は良くない事だろうと思い、急いで朔太郎もキッチンへ向かった。


 そこにはエプロン姿の美玖がいた。コンロの上の鍋は、確かに肉じゃがだ。匂いは全く問題はない。むしろ美味しそうだったが、汁っぽくぐずぐずになっていた。


「美玖、どうしたんだ?」

「いや、今日は久々に肉じゃがを作ったんだけど、煮崩れてしまったわ……」


 肉じゃがは落とし蓋を終えたら、中火にして一気に水気を飛ばすと美味しくできるらしいが、弱火で煮込んでしまったらしい。


「まあ、大丈夫だよ。別に味自体は悪くないんじゃない?」


 水っぽい肉じゃがだが、食べられない事はなさそうだが。


「あ、でもカレーにアレンジしちゃおうかな?」


 ちょっと落ち込んでいた美玖だったが、何かを閃いた顔をし、菜箸でぐるっと肉じゃがをかき混ぜた。


「カレー? この状態からカレーなんてできるのか?」


 朔太郎は全く意味がわからないが、煮崩れた肉じゃがにカレールウを入れ、調味料で味を整えていた。鍋の中はどう見ても普通のカレーだった。


 まるで手品でも見せられたよう。失敗した料理が別のものに変わっている。大変身と言っても良いかもしれない。美玖はまるでマジシャンのようにも見える。


「まあ、和風のカレーだね。カレーうどんにしても良いかも?」

「美玖、よく失敗した料理からアレンジできたな……」

「こんなの主婦は朝飯前だよ。煮崩れた肉じゃがはチーズ乗せてグラタンにしても良いし、潰してコロッケに変えてしまうのもアリ」


 自信満々に語る美玖は、ベテラン主婦としての貫禄があり、実に頼もしいものだった。和風のカレーの匂いを感じながら、朔太郎の不安もとれてきた。


 実際、今日の夕飯はカレーになったが、美玖の頭の良さも感じられて、余計に美味しく感じられた。


 仕事中で感じていた不安感も少しは軽減されていた。もう全く胃は痛くない。


 主婦はすごい。いや、美玖がすごいのか?


 朔太郎は改めて美玖を尊敬の眼差しで見てしまうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ