メシマズ嫁の愛し方(5)
あの花見の日以来、富沢夫婦はすっかり仲直りしたらしい。
宮子も料理がプレッシャーだったと正直に告白し、今はたまに外食をしながら緩くやっていく事に決めたそう。レシピブックも簡単なものに買い換え、レンジやクイック調味料、ミールキットなどを活用という。
それでも宮子は美玖と連絡を取り合ううちに、楽しく料理をしてみたいと思ったそうだ。ドライカレーも美玖からレシピを教えて貰い、干しレーズン入りのものにしているという。
「まあ、お雑煮に餡子餅とか、ポテサラに林檎とかも、まあ、いいかなって思うよな。別に死ぬわけじゃないし、雑煮も一年に一回だし。美玖さんによれば、あのドライカレーのように惣菜系に果物入れるのも別にそんなに珍しいわけでもないらしいしなぁ」
後に富沢から連絡をもらったが、もう妻の料理で悩んでいる雰囲気はない。朗らかで落ち着いたた声で、以前のような軽薄さもすっかり消えていた。
「宮子の料理は、別に今もたいして美味しくないけど、慣れてきたかもな」
「そうだよ。家庭料理ってそんなもんだよ」
「独身時代も長かったし、外食の味付けの慣れ過ぎていたのかもしれないな。きっと俺が嫁に求めるハードルが高すぎたんだよな」
富沢はそう語っていた。朔太郎が予想していた事もだいたい合っていたようだ。
「作ってくれる人がいるだけ有難いぞ」
「うん、先生の言う通りだったわ……」
こうして富沢のメジマズ嫁問題は解決した。電話を切った朔太郎は、時計を見る。もう夕方の五時過ぎでお腹が減ってきた時間だった。実際、腹から情けない音も聞こえてくる。腹が鳴る音は、どうしてこんなに弱々しいのだろうか。
急いで一階のダイニングルームに向かう。今日の夕食は酢豚だった。うちの酢豚には、ちゃんとパイナップルが入っている。見た目は豪華で華やかだが、朔太郎はさほど得意でもない。少なくともパイナップル入りの酢豚は、好物だと断言できない。
それでも、まあ、悪くは無い。ちょっと珍しいし、毎日同じようなものを食べるのも飽きてくるだろう。美玖は献立にも悩む事が多いので、たまには、こんな酢豚だって悪くない。自分の好みでない味でも、少しは面白がれる器でいたいものだ。
「さくちゃん、今日は酢豚よ! パイナップル入りで豪華でしょ?」
「ああ、うまそうだ! さっそく食べようじゃないか」
朔太郎は笑顔で食卓についていた。




