アメリカ弁当の謎(5)
あの日以来、春美はちょくちょく家に遊びに来るようになった。相変わらずアメリカ風の弁当には愚痴っぽく、生意気な子供だったが、美玖の料理の手伝いなどもしているえらしく、笑顔を見せる事も多くなった。
他にも公民館や教会、塾なども行き、学校意外の場所でも友達を作っているという。どうやら居心地が悪いのは学校だけらしく、教会ではアメリカ風の弁当もそこそこ評判が良いらしい。教会にいる主婦達は弁当準備に疲弊している人も多く「その手があったか!」と目から鱗が落ちているらしい。教会の主婦の輪では、アメリカ弁当がちょっとしたブームという。
うるさいと思っていた春美だが、家に帰ってしまうと、ちょっとは寂しいものだ。孫や子供がいたら、こんな感じだったのだろうか。朔太郎はついついそんな想像もしてしまう。
「さくちゃん、今日は餃子よ。春美ちゃんと一緒に作ったのよ」
本日の夕飯は、餃子だった。ダイニングテーブルの中心には、大皿に載った餃子がある。表面はパリパリに焼け、美味しそうだ。確かに少し歪な部分もあるが、これは春美が作ったものだろう。
「お、うまそうだ。いただきなす」
「いただきます」
夫婦二人で向き合って、夕飯を食べ始めた。餃子はニンニクたっぷりで、皮はパリパリでジューシーな肉汁。美玖や春美がきゃっきゃと楽しそうに作っている姿の映像が見え、朔太郎の口元も緩んでいた。ニンニクは口臭が気になるものだが、明日は打ち合わせも何もない。一日中パソコンに向かって執筆なので、問題ないだろう。美玖も明日はパートの仕事も休みだった。
「もし私達に子供がいたら、こんな感じだったのかな?」
春美の事を思い出しているのか、美玖はしみじみと呟く。
「いや、我々に子供がいたら、春美なんかよりももっと可愛い子だ」
「そうかな?」
「まあ、妄想だけどね。そんな事は謎のままにしておいた方がいい」
「何でよ?」
「そっちの方が色々妄想できて楽しいだろ。答えがない謎っていうのは、楽しいんだ。ロマンがあるだろ」
「さすが作家ねぇ。あきれちゃう」
美玖は苦笑していたが、餃子を再び咀嚼し、頬をオレンジ色に染めていた。
「うーん、美味しいわ」
「今回の餃子はやけに美味しいよな。うん」
今はこうして夫婦二人で食事ができれば十分幸せだった。




