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おしどり夫婦のお料理事件簿〜小さな謎とダイニング・メッセージ〜  作者: 地野千塩


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アメリカ弁当の謎(3)

 焼きそばは確かに美味しい。こうして子供と交えて三人で食べていると、休日のほのぼの感がリビングに満ちる。


 窓の外からは、相変わらず綺麗な桜並木も見える。華やかなピンク色の桜の花。いかにも春らしい日和だったが。


「うちのママは、キャラ弁とか何にもできない。もう何年も日本に住んでいるのに、マカロニチーズグラタンばっかり出してくる事もあるし。ホワイトシチューも作ってくれないし。カロリー高いし、弁当は手抜きだし、最悪。何であんなにお弁当も手抜きなの?」


 春美の母は、どうやらアメリカ人のようだった。父親は日本人らしいが、今は鬱病になって休職しているという。さらりと重いプライベートの事を話す春美は、子供らしい傲慢さや視野の狭さを隠してはいないようだった。正直、こんな子供は可愛くない。決して口には出せないが、早く帰って欲しい。


「春美ちゃんのママは、お仕事してるの?」


 一方、美玖はこんな春美にも全く動じない。肝が座っている。確かに体格も堂々としてる。


「うん。英会話教室で先生やってる。最近は個人レッスンとか色々やってるみたいで忙しいみたい。嫌になるよ」


 春美は口を尖らせていた。生意気そうな子供だ。やはり、どう見ても可愛くないが、朔太郎は適当に相槌を打っていた。子供は未知の生物だ。どんな風に接するのが一番良いのか見当もつかない。作田の子供時代は近所のおじさんに注意されたり、褒められたりした。今はアニメの中でしか生息していないような、通称・雷おじさん。令和の今はこんなおじさんは絶滅してしまったようだ。


「でも、日本に外国人が住むのは大変だと思うよ。お母さんなりに苦労もあったんじゃないの?」


 美玖は優しく諭していたが、春美は頬を膨らませてぷいっとしていた。登校拒否児童というが、その理由はなんとなく察した。子供っぽくてワガママな部分が消えていない。ハーフという目立つ容姿も相まり、クラスで浮いている光景が目に浮かぶ。実際、この容姿でチヤホヤされている部分もあるのだろうが、全員が好意的なクラスでも無いだろう。目立つ故に敵も多そうだ。


「知らない。ママの事なんて。弁当も手抜きだし。皆んなはキャラ弁とか美味しそうな弁当持って来ているのに。おかげでお昼の時間は友達に無視されてるし。全部ママのせいだから」


 所詮、子供の主張だが、弁当が原因でいじめられているのも疑問だった。朔太郎だって家が貧しく、弁当を持参できない時もあったが、クラスメイトに分けて貰う事も多かった。春美のケースは、弁当は引き金で、要因は別のところにありそな印象。この目立つ容姿なら、嫉妬もあったかもしれない。


「こんな弁当なんだから。美玖さんもおじさんも見てみて。すごい手抜き」


 春美はカバンの中から弁当を取り出した。ランチバックの中には林檎が一個。まるまる一個。切られてすらいない。ジップロックの中にはクラッカーやポテトチップス。そして小さなタッパーの中には切ったチーズ。これだけだ。


 春美の登校拒否の原因は弁当のせいでは無いと思っていた。実際、春美はなかなか癖がありそうな子供に見える。それでもアメリカスタイルの弁当を見せつけられると、確かに手抜きに見えてきた。頭ではアメリカの弁当はこんなものと理解するが、実際こうして目の前に出されると、大らかすぎるというか、手抜きというか、日本人にはない太さを感じてしまうというか……。


「まあ、確かに林檎一個はどうかと思うけど、このチーズは? 食べていい? あら、チーズはいいやつよ。美味しい」


 文句ばかり言っている春美を無視し、美玖は勝手にタッパーの中身をつまんでいた。


「クラッカーにもよく合うよ。チーズ、美味しいわ」


 美玖もどちらといえば大雑把で図太いタイプだ。このアメリカ弁当を楽しんでいる様子は、妙にマッチしている。


 それに、この弁当を食べたら春美の母の想いも分かるかもしれない。祖国の文化をごり押ししているのか。日本の文化に馴染めないのかは、わからないが。


「どれどれ。私も食べてみるか」


 朔太郎はクラッカーの上にタッパーのチーズを乗せ、口に入れる。


 サクサクと咀嚼しながら、頭の中に映像が浮かんできた。

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