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Teobroma-2 ~マンディアンを摘まみながら~

「はい、俺からの感謝の気持ち。ありがたく受け取れよー」


 気を取り直し、一日遅れの感謝の日の贈り物を片手で差し出すエスタ。我ながらすごい雑な扱い方だが、まぁ気持ちが込もっていればいいだろ。


「あとこれからも勉強見てください」


 これに便乗して切実なお願いも付け加える。見放されたら冗談抜きでまずいので内心必死だ。


「いいけど……お前はもう少し自分で努力しろよ」


 善処しまーす、と生返事で応えながら箱を渡す。レイジはそれを若干戸惑った様子で受け取り、律儀に礼を言いながら箱を開ける。

 中にはナッツやドライフルーツなどで鮮やかに彩られた一口大のチョコレートが十個ほど入っていた。


「……なんだこれ」


 快とも不快ともとれない声で聞く。ていうかただ純粋に疑問に思っただけか?


「マンディアンってやつ。知らない?」

「知らない」


 人から物もらっておきながらすっげぇ愛想のない返しするな、お前は。



「お前の好きな物とか分からなくて、まぁこれなら色々乗ってるからいいだろって選んだの。……もしかして甘い物とか苦手だったりする?」

「苦手じゃない。普通に食べる」


 そう言って早速一つ摘まんで口にするレイジ。その様子から甘い物が苦手じゃないのは本当なんだろうなと窺える。


「……おいしい」


 何だか雰囲気が和らいだ様子。


「そう?お気に召したなら何より」

「……人から物もらうのって初めてだ」


 ひとまず一つ食べ終わると残りのチョコをまじまじと見つめて感慨深そうに呟いた。


「え、うっそだぁ!お前絶対モテてただろ!女子から貰ったりとかさぁ!」


 それこそ俺が昨日貰ったような、ああいう可愛いものを抱えきれないほど貰って『こんなに沢山……どうやって持ち帰ろう……』とか嫌みでも何でもなく言っちゃうタイプだ。偏見でしかないけど。もちろん俺にそんな経験はない。



「知らない奴からは貰わないようにしてるんだよ……立場上、なんか入ってたら危ないし」

「立場上?」

「あ」


 聞き返すとレイジは『口が滑った』とばかりに口元に手を当てる。


「……今の忘れろ」


 忌々しそうに呟く。自分に対して大変な憤りを感じてる様子。ていうか何事も無かったように流せばいいのに何でわざわざ言及しちゃうのかなぁ……。そういうとこ案外抜けてる。


「はいはい、忘れまーす。もしかして王室のご親戚だったりしてーとか思ったけど」

「なんでわかっ――」

「え」


 息を呑み『信じられない』といった様子で見られる。冗談で言ったつもりだがもしかして当たってしまったのだろうか。そしてレイジは俺が冗談で言ったのだと気づくと自身の失言に再び口元を覆った。


「しまっ……」


 う、うわぁ……今にも倒れそうなぐらい顔真っ青にしてる……。

 弟くんも『レイジが魔法使える』ってことをうっかり言ってしまう、という出来事があったが……お前もそういうとこは一緒なんだな。俺はお前のことが心配でしょうがないよ……。



「あー……家族にも黙っとくから……とりあえず落ち着こ?」


 肩に手を置き、落ち着くよう促す。いつもならば速攻で手を払い落とされるのにそうする素振りも見せない。


「いま、の……冗談……だから……」


 青ざめた顔でバレバレの嘘つくな。お前が冗談言うタイプじゃないって自分でも分かってるだろ。


「……一応確認しておくけど、これまでと同じ付き合い方で良い?」

「できれば……そうしてくれ」


 よかった。今さら態度変えるのって難しいし。

 それにしても俺たち、人に言えない秘密を共有しすぎなのでは?もう実質ベストフレンドじゃん。なんだ、実質ベストフレンドって。……俺も結構混乱してるな。



「はぁ……」


 レイジは『やってしまった』といわんばかりに深い深いため息をつく。その深さは母なる海より深い。


「もう知っちゃったんだしさ。少ーしだけお話聞かせてほしいなー……なんて」

「……気ぃ遣って聞かないでおく、ってできないのか」


 ジトリと睨まれる。でもその眼光は普段と比べるとキレがない。


「いや、まぁそれもそうだけど……中途半端に知ってるってのも何をどう接したらいいか分かんなくて気まずいっていうか……」


 実はめちゃめちゃやんごとなき御方だったらどうしよう。てかレイジがそういう感じだと弟くんも似たような立場ってことか。事実は小説より奇なりってやつ?


「……親に聞いてくる」


 レイジはそう言うや否や少しふらつきながら立ち上がる。見てるこっちのほうが心配になってしまう。


「それもそっか。お前だけの問題じゃないんだし……むしろ俺もついていって経緯話したほうが良くないか?」

「そう……するか……?」


 まだ混乱しているようだ。「とりあえずその方向で行くか……」と一階のリビングへと降りるレイジを追いかけた。あと本人はそこまで気がまわっていないのか何故かマンディアンの箱を持ったままだ。……あれは相当動揺しているなぁ。




「あ……」

「……ん、あぁレイジ。エスタ君も。どうした?」


 リビングに降りると少し疲れた様子のクルベスがソファに座っているのを見つけ、レイジが声を漏らす。その隣にクルベスの弟であるセヴァも寄り添うように座っている。ルイは母親とシンク越しに話しているのが見えた。


「さっきはごめんな。腕、本当に大丈夫か?」


 クルベスはこちらを気遣うように視線を向ける。


「いえ、大丈夫です……俺のほうこそ、何か不快にさせてたならすみません」

「いや、君は悪くない……これは俺個人の問題だから」


 レイジは何があったのか聞きたそうにしていたが、何も問いただすことなく口を閉ざした。



「それでレイジ。お友達と一緒に降りてきてどうしたの?……何かあった?」


 珍しく気まずそうな顔を見せるレイジにセヴァは目をみはる。


「その……ごめん、なさい。口、滑らせた……王室とのこと」


 レイジはおずおずと前に出て、俺をちらりと横目に見た。


「……気、抜いてた」


 マンディアンの箱を持つ手に力がこもる。

 もしかして初めて人からプレゼントを貰って気が緩んでしまったり?もしそうだったらレイジには申し訳ないが結構嬉しい。……いや、そんなことで浮かれちゃうような奴じゃないか。


「……どこまで?」


 セヴァはレイジに怒ることもなく問いかける。


「親戚ってこと……」

「正しくはレイジが自分からばらしたわけじゃなくて……その、俺がちょっと余計なこと言っちゃってそれでうっかり……」


 俺はそれに頬をかきながらレイジの説明を補完した。



「う、そっかぁ……えーっと……じゃあもう説明しちゃったほうが……いや、でも……?」


 セヴァはどうしよう……とクルベスに視線を送る。そういえばこの人ってレイジの伯父か。じゃあ……あれ?この人も王室の関係者?


 セヴァの問いかけにクルベスは少し考え込むように呻く。


「まぁ、言っちゃったもんはしょうがないし……いいんじゃないか。サフィオじいさんたちには俺から話しとくよ。それにしても珍しいな。お前が口滑らせるなんて」

「……っ」


 クルベスの言葉にレイジは何も言い返さない。クルベスの発言は決して彼を責め立てる意図で言われたわけではないが、レイジは唇を引き結び、相当悔やんでいる様子を見せている。

 それはそうと『サフィオ』ってどっかで聞いたことあるような……。



「んー……俺から話したほうがいいか。あ、あとで誓約書書いてもらうけど良いよな」

「あ、はい。大丈夫で……誓約書?」


 聞き間違いかな。いまクルベスの口から物騒な文言が聞こえた気がしたが。


「他の奴に話されたらほどほどに困るから、一応な」


 まぁそれはまた後日、と付け加えるクルベス。

 え、俺いまから何聞かされるの?ていうか未成年なのに誓約書って書けるもんなの?


 ◆ ◆ ◆


 とりあえず二人とも椅子に座るよう促され、俺にも理解しやすいよう噛み砕いて説明された。

 どうやらレイジたち一家が王室と親戚関係だということはマジだったらしい。俺ほんとうに冗談で言ったんだけど……。


 クルベスとセヴァの父(つまりレイジとルイの祖父にあたる人)が先代国王サフィオと兄弟だったらしく。つまりクルベスとセヴァは現国王ジャルアと従兄弟。その息子のレイジとルイは現国王の子ども(名前は明かされなかった)と『はとこ』なのだという。

 へぇ、はとこって名称あるんだぁ……と思考は現実逃避をし始める。いや、情報量多いって。



「まぁそんなわけだから、王室とは結構近い関係なんだ。だから……分かってくれるかな?」


 両手を組んだクルベスは理解を促すように首を傾ける。


「誰にも言いません」

「うん。理解が早くて助かる」


 笑顔が怖い。何がどう怖いのかは言い表せないけど、とりあえず怒らせちゃいけない気がする。


「……ほんとに、ごめん」


 (うつむ)いて意気消沈した声で呟くレイジ。まだ反省しているようだ。


「大丈夫だよ。エスタ君もいたずらに人に触れ回るような子じゃなさそうだし、これから気をつけていけばいいから。だからレイジ、顔上げて」


 なおも首を振り、顔を上げようとしないレイジにセヴァは困ったように眉尻を下げる。ふと、その手に持っている箱に目を留めた。



「あれ、レイジ。これどうしたの?」

「……エスタからもらった」

「お兄ちゃん、それなぁに?」


 ルイが興味津々にレイジに近付き、箱を見る。


「チョコレートだよ。マンディアンっていうんだって。ルイも食べるか?」

「いいの?」


 チョコレートと聞き、ルイは目を輝かせる。


「うん。一つ食べてみたけど美味しかったよ。ルイも気に入るんじゃないかな」


 相変わらず弟くんには優しい笑顔を見せる。


「結構うまそうに食ってたもんな」

「……文句あるか」


 つっけんどんに返されるが、否定しないあたり美味しかったとは思っているようだ。「選んだかいがあるってもんよ」と鼻高々に言うと睨まれてしまった。



「レイジ、それ食べたのか」

「え、はい。あげたらすぐに。おいしいって言ってたよな」


 クルベスが驚いた口調で聞いてきたので「なぁ?」とレイジに声を掛けたが、プイと顔を背けられてしまった。気が緩んだのを思い出したのか、なんだか気恥ずかしそうにしている。素直じゃないなぁ。


「俺の記憶が正しければレイジが人から物を貰うのって初めてのはずだよな。それを躊躇(ためら)いなく食ったのか」


 あれ、本当だ。しかも『立場上何か入ってたら危ないから』って言ってたのにコレは何の躊躇(ちゅうちょ)もなく口にしてた。よく考えたらおかしい。


 レイジもクルベスに指摘されて初めて気づいたようで、途端にカタカタと体を震わせ始める。……心なしか何か赤くなってるように見えたのだが。



「レイジ、それで嬉しくなってうっかり言っちゃったの?」


 セヴァはそう言って小さく笑う。『そういえば口滑らせたのってその後だったなー』と逸らした顔を覗きこもうとするも頑なにこっちを見ようとしない。レイジの首が心配になってきた。


「嬉しくなっちゃったの?」

「……うるさい」


 セヴァの発言を復唱するように問いかけると短く返される。その表情は見えなかったが耳まで真っ赤になってるのを見つけてしまった。


「レイジさ、確かもうすぐ誕生日だったよな。何かほしい物ある?」

「なに笑ってんだ。蹴るぞ」


 相当お恥ずかしい様子。ほーんと素直じゃない奴。ここまでくると一周まわって可愛く見えてくるな。

 エスタ君は多分、義理チョコとかあげやすいタイプ。

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