三つ星とお菓子の家-3
「出来たー!」
手を上げて全身で喜びを表現する子どもたちと拍手する保護者ならびに料理長。彼らの前には物語に出てきそうなヘクセンハウスが出来上がっていた。
香ばしい焼き色のついたクッキーにアイシングの化粧が施され、その上に飾られたマシュマロや色とりどりのチョコレートが花を添える。そして屋根に散らされたアラザンが上品な輝きにまた目を惹かれ、どこから見ても楽しめる珠玉の作品となった。
なお子どもたち三人で一つのお菓子の家を飾りつけたため少々統一感のない装飾となってしまったが、三人それぞれの個性が表れているという見方も出来るため、これもまた一興であろう。
「凄いね。まるで絵本に出てくるお菓子のお家みたい」
「うん!でも先生が『聖なる日の前になるとケーキ屋さんでも飾ってある』って言ってたけど、お店の人は食べたくなっちゃったりしないのかな」
私だったら食べたくなっちゃう、と呟くサクラにティジとルイも揃って頷く。子どもたちのそんな可愛らしい疑問に料理長が答えた。
「確かにとっても美味しそうだから、食べちゃいたいなぁって思うかもしれないね。でもお店で飾られているお菓子のお家は観賞用……見て楽しむために作られている物だから基本的には食べないかな」
「えぇー、食べないの?せっかく作ったのにもったいなーい」
ぶうたれるサクラに料理長が「そうだね」と可笑しそうに笑う。
「でもお店で飾っているお菓子のお家ってだいたい十二月初め頃に作っているんだ。それから聖なる日までの約一ヶ月飾ったままだから、それを食べるのは流石に難しいかな。食べられない……こともないかもしれないけれど、お腹を壊しちゃうかもしれないからね」
「そっか……お腹を壊しちゃったら大変だもんね」
それなら仕方ないか、とティジはヘクセンハウスに視線を向ける。納得してくれた様子の子どもたちに「だけど」と料理長が言葉を繋ぐ。
「今回キミたちが作ったお菓子のお家は美味しく食べられるように作っているからね。バニラクッキーで出来たお家にレモン汁で風味づけしたアイシング!そしてあま〜いお菓子で飾りつけたとびっきりのヘクセンハウスだ!存分に召し上がれ!」
料理長の元気な号令に子どもたちは「いただきまーす!」と元気いっぱいに言ってヘクセンハウスに手を伸ばす。その手がバニラクッキーの屋根を触れようとしたその直前、ティジはピタリと止まった。
「料理長さん。このお家、少しの間だけ置いておくことってできるかな?」
「えぇ、出来ますが……どうなさいました?」
料理長は怪訝な様子で問いかけ、ティジの様子に気が付いたサクラとルイも揃って手を止める。皆の視線が自身に向いているこの状況に居たたまれなくなったのか、ティジは「えっと……」と視線をヘクセンハウスに滑らせた。
「コレ、父さんにも見せたいなって。このままだと父さんだけ見てないから……そしたら父さんだけ仲間外れみたいになっちゃう気がして」
ティジはそう呟くと物憂げに目を伏せる。先ほどヘクセンハウスを食べようとした寸前のティジは爛々と目を輝かせて手を伸ばしていた。きっと気持ちとしては今すぐにでも食べたいのだろう。だが日頃から公務で多忙を極めている父のことを思い、自分の『食べたい』という気持ちを懸命に堪えているのだ。
幼い子どもの小さな思いやりを目にした料理長は膝を折ってティジと目線を合わせると、その大きな紅い瞳を見据えた。
「そのお心遣い、大変素晴らしいです。きっと陛下もお喜びになられるでしょう。それではホコリよけにケースに入れて……夕食の時にお持ちすればよろしいでしょうか」
「うん!お願い!」
料理長の提案にティジは表情を輝かせて大きく頷く。それにサクラが「はいはい!」と身を乗り出してきた。
「それじゃあ私は夕食の席に飾りつけする!この間、医務室を飾りつけしたみたいにキラキラした感じにする!そしたらすっごく楽しい気分になると思う!」
「とっても良い考えね。お父さん、そういう楽しい事は大好きだからきっと喜ぶと思うわ」
ね、と顔を向けるユリアにクルベスは「まぁ……そうですね。めちゃくちゃ喜びます」と苦笑する。ジャルアとは気心の知れた仲であるクルベス。彼にはこれ以上になく浮かれるジャルアの姿が容易に想像できてしまう。
和気あいあいと言葉を交わす彼らにルイがおずおずと手を挙げる。
「ぼくも……ぼく、も……その……」
「ん?ルイも何かするか?いいぞ。ルイのしたい事、何でも言ってくれ」
屈んで目を合わせて聞くクルベスにルイは「うん……えっと」とシャツを握る。
「みんなの……ジャルアさんとかティジとか、みんなの形の人形を作ろうかなって……人形って言っても紙人形だけど……。クマさんのお砂糖菓子と同じくらいの大きさで作って、一緒に並べたら良い感じになるかもって……」
徐々に声が小さくなり、最後は風にかき消えてしまいそうなほどのか細い声で終わる。言っているうちに自信がなくなってきたのか眉も段々とへたってしまっていた。
「ご、ごめんなさい。ちょっと思っただけだから気にしな――」
「それすっごく良い!ルイ、それとっても素敵だよ!」
サクラはルイの手を取ると、そのままブンブンと振る。あまりのはしゃぎ様にルイは「うわわっ」と驚くがそのままなすすべなくガクガクと腕を振られ続ける。
「本っ当に素敵!クマさんのお菓子と同じくらい大きさの父さんがいてー、母さん、兄さん、私、ルイにクルベスさんも!みーんな並んでお菓子の家の前にいるの!まるでお菓子のお家にみんなで住んでるみたい!私、自分のお人形さん作りたい!ねぇルイ、いいかな?」
「あ、うん。良いと思うよ」
「それじゃあ僕も自分の分を作ろうかな」
サクラに続いてティジも紙人形作りに加わる。わいわいと話し合う三人にクルベスが「それじゃあ」と笑う。
「俺の分はルイに作ってもらいたいな。ルイが描いてくれた俺を見てみたい」
「良いけど……でもぼく、絵は上手くないから……伯父さんを格好よく描けないよ……?」
「そんなに緊張しなくても大丈夫。それに俺はそんな格好よくなんてないから気楽に描けば良いよ」
ぽふぽふと頭を撫でるクルベスにルイは首を傾げる。
「伯父さんは格好いいよ……?」
「クルベスさんは格好いいよ」
いったい何を言ってるのだろう、と不思議そうに言うルイと何故か断言口調のサクラ、そしてその隣でコクコクと頷くティジ。子どもたちの反応にクルベスは「大げさだって」と笑うが、それに対してルイとサクラは「本当に格好いいのに……」とむくれる。だがそれも一瞬のことで、サクラはすぐに機嫌を直すとパッと手を挙げた。
「ルイがクルベスさんの分を作るなら、私は母さんのお人形さん作る!」
「じゃあ僕は父さんの!」
サクラに続いてティジも手を挙げる。その可愛らしい宣言にユリアが「ふふっ」と笑顔をこぼす。
「完成が楽しみ。母さん、夕食の時間が待ち遠しくなっちゃうわ」
「えへへ、楽しみにしててね!」
ご機嫌さんの笑顔を見せるサクラにユリアが「えぇ」と微笑む。
「それじゃあ、みんなをビックリさせるために三人で準備頑張るぞー!」
サクラの号令。次いで「おー!」とティジ、ルイ、サクラの声が揃う。そしてそのまま走り出そうとした三人に「走ったら転けるぞ!」というクルベスの声が飛ぶのであった。
8歳のティジとルイ、それにクルベスさんとティジの双子の妹サクラと母のユリアさんをまじえてワイワイ賑やかに聖なる日への準備回です。
なお第三章(7)『喧騒-7』にて触れられておりますが、クルベスさんはサクラの初恋ドロボウです。この時期のサクラはクルベスさんにしっかり惚れてます。「クルベスさんは世界で一番格好いい」と確固たる意思を持っています。ルイも常日頃から「伯父さんは格好いい」と思ってるので、その点は意見が一致するお二人です。




