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放られた手とささやかな嘘-1

 外はどこもかしこも春爛漫。庭園の花々もまるで眠りから覚めたかのように一斉に芽吹き出す朗らかな季節。そんな中、庭園脇の通路では春の陽気さながらの弾んだ声が聞こえてくる。


「で、その人が言うにはどこかの国では4月1日は嘘をついても良い日っていうのがあるんだって!午前中にだけ嘘をついてー……午後にネタバラシってな感じ!」


 昼食時に同僚から聞いた話を意気揚々と語るのは昨年春にこの城に勤続し始め、勤続開始からもうすぐ一年になる衛兵、エスタ・ヴィアンだ。もちろん話し相手は彼が日頃から目に掛けているルイである。


「エスタさん、そういうの好きそうですよね」

「おぉ、さっすが弟くん!俺、こういう楽しそうなイベントとかめっちゃくちゃ好きなんだー。てなわけで!俺もとびっきりの物を考えておくから当日は楽しみにしてて!」

「えっと……はい、楽しみにしておきます」


 4月1日は約一週間先だ。張り切るエスタにルイは『事前に宣言するのは趣旨と異なるのでは……?』と思うも、エスタ本人が楽しそうにしているのであたたかい目で見守ることにした。



 だがそんな彼にとんだ不幸が舞い込む。





「やっぱり熱出てるな。よくある風邪だ」

「クルベスさんも嘘ついたりするんですね……もしかして事前に考えてました……?」

「正真正銘、マジもんだ。もう一回言うぞ。エスタ、お前はいま風邪を引いてる。ほら、この通りしっかり熱も出てる」


 3月31日。待ちに待った日を明日に控えたその日。だが昼頃から何やら体が重く、心なしか体が熱い。

『気のせいかな……気のせいだと思いたいけれど念のためクルベスさんに確認してもらおう。お医者さんに診てもらうのが一番手っ取り早いし。うん、大丈夫。多分きっと大丈夫』と自分に言い聞かせながら王宮専属医師であるクルベスに体の不調を相談した。


 診察を受けている間にも体の倦怠感は増していき、最終的にソファに寝かされた状態でクルベスの診断結果を待つ。


 そしてその結果――クルベスが手にしている体温計を目にするとエスタは「うわぁ、すごぉい」と痛みを訴える喉を無理に動かして返事をした。なお、クルベスが見せてきた体温計の数値は誰がどう見ても発熱していることが一目瞭然の値を叩き出していた。


「クルベスさん、明日のために本物そっくりの体温計まで用意してるなんて嘘に気合いが入ってますね……すごいなぁ、オモチャにしては良く出来てる……」

「嘘じゃない。これは本物の体温計でお前はいま正真正銘、熱を出してんの。分かったら今日はもう帰れ。なんだったら親御さんに迎えに来てもらえないか連絡入れておくから」


 体温計を片付けて電話で連絡を入れようとするクルベス。そんな彼を横目にエスタは火照った頭を揺らしながら起き上がる。



「たぶん電話繋がらないと思います……二人とも今日から旅行行っててー……メールならたぶん気が付いたら読むんじゃないかなぁ」

「ちょっと待て。いま家に誰もいないのか?」


 クルベスの質問にエスタは「はい」と汗びっしょりの顔で笑顔を見せる。ソファを支えにして、普段よりも圧倒的に鈍い動きで立ち上がるエスタをクルベスは慌てて引き留めた。


「帰り支度は一旦やめだ。今日はここに泊まれ」

「えぇー……そんな大袈裟なぁ……だーいじょうぶですって。一人で帰れますし、ちょっと寝たらすぐ治りますよぉ。もおー、クルベスさんったら心配性なんだからぁー」


 エスタはからかうように力無く笑うがもう真っ直ぐ歩くことすら難しいらしく、ふらふらと今にも倒れそうな足取りで扉に激突する。そのままよろけて倒れ込みそうになったがそれを察知したクルベスが慌てて抱きとめた。


「帰んな!そんな状態で帰らせるわけねぇだろ!」

「あっはっは、クルベスさんに止められるなんて、これが本当のドクターストップってやつですかぁ……?ところで診察代ってどれくらい掛かるんですかね……」

「掛かるわけないだろ。ほら、まずはその服を着替えるぞ。来客用のパジャマがあるから」


 テキパキと動くクルベスにエスタは「来客用のパジャマとか初めて聞いた」と呟くのだった。





「クルベスさん……なんでウチの親が二人とも留守にしてんのかなーって思ってたりします?」


 パジャマに着替えて、そのまま流れるように医務室のベッドに寝かされたエスタは天井をぼんやりと見つめながら口を開いた。


「一応ね、誤解のないよう言っておくと、今日いないのは俺が関係してるっていうか……俺が衛兵になってから一年経つってことで『一年オメデトー、これからも応援してるよー』ってな具合で何か良い物を買いに行ってるらしくて。中身は何かはお楽しみーってやつ。……あ、俺がこの事を知ってるってことは内緒ですよ?二人がこっそり話してるのを偶然聞いちゃったから……俺が聞いてたってこと、たぶん二人とも知らないと思う」


 ケホッと咳き込み「だから……」と言葉を紡ぐ。


「だから……俺のこと考えてくれていて……決して冷たくされてるわけじゃなくて、むしろその逆で……逆?この場合の逆ってどういう意味になりますかね……」

「もう寝ろ。お前の親御さんが優しい人だってのは分かったから」


 薬が効いてきたのかエスタのまぶたが段々と落ちていく。その目元を覆うようにクルベスは手を被せた。

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