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ポインセチアとリンゴのチョコレート-2

 ティルジアと一緒にリンゴのチョコレートと摘んだりしながらそのような雑談に興じていると、コンコンと扉を叩く音が鳴った。


 瞬時に全神経を集中させて扉に警戒を向けると次いで「すみません。クルベスです。少しよろしいですか」という声が。その声にサフィオが「あぁ、少し待って。いまそっちに行くから」とゆったり話しながら扉へと向かう。彼に時間を稼いでもらっている間にリヴは急いでベッドの脇に身を隠した。


 隠れ場所としては不安しかないが他に身を隠せそうな場所は無い。急場しのぎで良いからここに隠れているとしよう。

 その一方、ティルジアは隠れる必要はないはずだがリヴにつられたらしくテーブルの下に隠れていた。



「突然伺ってしまい申し訳ございません。いまお時間大丈夫でしたか?」

「問題ないよ。どうしたのかな」


 扉を開けるとそこには王室専属医師のクルベスが立っていた。彼の手には毛糸の帽子が握られている。


「これを中庭で見つけまして。おそらくティルジアの物だと思われるので持ってきたのですが……いないようですね。てっきり一緒にいるかと思って来たのですが」

「あぁ、確かにあの子のだ。さっき雪遊びしていたのだけどその時に忘れたんだろうね。持ってきてくれてありがとう。これは私からあの子に渡しておくよ。そうだ、せっかく持ってきてくれたんだからお礼を渡そう。少し待ってて」


 毛糸の帽子を受け取ったサフィオはくるりと部屋の中に戻ると、リヴに渡した物と同様に小さなプレゼント用の袋にいくつか菓子を詰める。そうして出来た、リボンでラッピングされた可愛い袋を「もう少し欲しかったら遠慮なく言ってね」とクルベスの手に乗せた。


「わざわざありがとうございます。もしかして……いや、もしかしなくてもあのお菓子ってこの間アドベントカレンダーってやつを作った時の物ですよね……何度見ても凄いな。いちおう医者なので言っておきますけどティルジアたちにお菓子をあげすぎないようにしてくださいよ……って、あれ?あそこ、何か落ちてますよ」


 クルベスが指した先――ワゴンから少し離れた場所に小さな赤い包みが落ちていた。先ほどリヴが気に入って食べていたリンゴのチョコレートだ。


 厳密に述べると菓子はワゴンとリヴが隠れている場所の中間地点に落ちていた。おそらくリヴが隠れる際に彼の手が当たるなどして落としてしまったのだろう。

 リヴが隠れている場所は部屋の入り口からは見えないためリヴの存在を気付かれる事はない……はずだが、日頃から周りを大変よく見ているクルベスはその些細な違和感を見逃さなかった。



「つかぬことをお聞きしますがご来客中でしたか?気のせいでしたら申し訳ないのですが扉を叩く直前、人の声が聞こえた気がしまして」


 クルベスはあくまで質問の体を装っているがその声には警戒の色が見られる。


「気のせいだよ。ほら、私以外だれもいないでしょ」


 サフィオはそう言って体をずらし、クルベスに部屋の中を見せる。部屋の中を目視で確認したクルベスは「そうですね」と頷くが、彼のまとう雰囲気は依然として緊張したままだった。


 もしかするとクルベスは『現在サフィオの部屋には不審な輩が立て籠っており、サフィオ自身は脅されるなどして周囲に助けを求められない状態なのではないか』と推測しているのかもしれない。


 サフィオが『これはまずいぞ』と考えていた矢先に一瞬クルベスの視線が落ちた。視線が動いた先はおそらく彼が護身用に携帯している拳銃。これは確実に勘違いされている。


 この状況はよろしくない。このまま最悪な思い違いをされた状態で部屋の中を調べられ、リヴが見つかってしまったら一大事だ。誤解を解くのも一苦労の上、最悪の場合リヴの素性を話さざるを得なくなる。リヴだけでなくクルベス自身のためにもそのような事態だけは何としてでも避けねば。



「差し支えなければお部屋の中に入らせて――」

「――わぁっ!」


 その時、テーブルの下からティルジアが大きな声と共に飛び出す。まさかのタイミングで出てきた事にサフィオも目を丸くしていると、ティルジアは「えっと……えへへ」と気まずさを誤魔化すように笑った。


「かくれんぼしてたの。クーさんを驚かせようと思って……」

「そういう事なんだ。ティルジアと協力して少しイタズラをしてみようと。騙してごめんね。それはさておき、どう?驚いたかな」


 小さな子どもの策に頼るなど、なんて情けない。だがそうも言っていられない状況なのでサフィオはティルジアの嘘に便乗するかたちでクルベスに問いかけた。


「全く気が付かなかったな。まさかそんなところに隠れていたとは」

「クーさん、帽子見つけてくれてありがと。あのねクーさん。ぼく、じぃじとまだお話したいから……えっと……」


 リヴが見つかってしまうと大変困るのでクルベスには早く仕事に戻ってもらいたい。だが流石にそれをそのまま言うことは出来ないうえ、それに代わる上手な嘘も思いつかない。モニョモニョと言葉尻を濁すティルジアに、その思いを察したサフィオが言葉を繋ぐかたちで助け舟を出した。


「ついでで頼まれてほしいのだけどこのお菓子をジャルアたちにも渡しておいてくれないかな。きみにだけお菓子をあげたと知られたら不公平だと思われてしまう」


 サフィオは茶目っ気のある笑顔で言うと慣れた手つきでジャルアとその妻ユリア、そしてティルジアの双子の妹サクラ、計三人分のお菓子を用意する。そうして出来上がった三袋をやや強引だが「お願いね」とクルベスに持たせた。


「多分ジャルアはそういうの気にしないと思いますけど……分かりました。すぐには渡せないかもしれないですが夕食までには確実に渡します。それじゃあこれで。失礼します」


 両手いっぱいに持たされたお菓子に苦笑したクルベスはそれを落とさぬよう注意しながら頭を下げる。そして最後に「ティルジア、お菓子は食べすぎないようにするんだぞ」とだけ言ってクルベスはようやく立ち去った。




「……もういいかな?」

「うん。リヴ、もう出てきて大丈夫だよ」


 ティルジアに頷き、サフィオがそう声を掛けるとベッドの影から深いため息と共にリヴが這い出てきた。


「危なかったぁあ……気付かれなくて本当に良かった……。ティルジア君、ありがとう。まさかきみに助けられるとは……」

「えへへ、ぼくもドキドキした。でも頑張って妖精さんを助けたよ!」


 リヴに「よく頑張ったね。偉い偉い」と頭を撫でられてティルジアも大変得意げである。


「あのチョコレートだけで勘付かれるとは思わなかったよ。あれで気付く人なんてサフィオ君の護衛君ぐらいだと思ってたのに……」

「まぁクルベスはその護衛君から直接いろいろ教わってるからね。この王宮に従事している衛兵たちと同等……それ以上と言っても過言じゃないほど注意深いし有事の際にはすぐに動けるよ」


 それを聞くとリヴは「彼から直接……!?」とおののく。そんなリヴにサフィオは「あぁ、それとね」と追い討ちをかける。


「きみが言ってる護衛君、もしも彼だったら部屋の中を見た瞬間に気付くよ。私とティルジア以外にもう一人、別の人間が潜んでるって」


 彼なら確実にきみを見つけただろうね、と告げるサフィオにリヴは「ひぇ……っ」と自身の肩を抱いた。ティルジアは『サフィオの護衛役』について知らなかったため『きっとすごい人なんだろうなぁ』とぼんやり考えながらとりあえず物知り顔で頷いておいた。



「でもまた人が来たら大変だから今日はこのあたりでお暇させてもらおうかな。それこそ先ほどの彼が戻ってきたら今度こそ見つかってしまう」

「妖精さん、帰っちゃうの?次は?次はいつ来る?」

「ティルジア、無理を言ってはいけないよ。気持ちは分かるけどこればかりはね」


 ねぇねぇ、と返事を求めるティルジアをサフィオがなだめる。それにティルジアはぷくーっと柔らかな頬を膨らませて不満を示した。


「ごめんね。次はいつ来るか、という約束はできないんだ。こればかりはどうにも難しくて」


 リヴの言葉にティルジアは膨れっ面で俯く。だがそれ以上駄々をこねないあたり、リヴの事情も頭では理解しているのだろう。


 その時、まるで帰りを急かすかのように時計が鳴る。「そろそろ行かないと」と呟くリヴの腕を、ティルジアの小さな手が引き止めた。



「妖精さん……また来た時には、今日みたいに一緒にいてくれる……?今日みたいに一緒にお菓子食べたり、いろんなお話してくれる……?」


 そう見上げてくるティルジアの瞳には涙が浮かんでいた。『行かないで』と目で訴えているがティルジア自身はそれを言葉にしない。

 幼いながらも自分の思いを抑え込むその子にリヴは膝を折って目線を合わせた。


「うん。また会えた時には今日のように一緒にお菓子を食べたり、いろんなお話をする。ティルジア君がワクワクするようなお話をたくさんしてあげる。約束するよ」


 次はいつ会えるかという約束は出来なくとも、せめて次に会えた時にすることだけは。


 そう優しく微笑むリヴに、それまで陰っていたティルジアの瞳に光が差し込んだ。


「約束……うん!約束だよ!ぼくの知らないお話、いっぱい聞かせてね!ぼく、それまでちゃんと待ってるから!」

「良い返事だ。それじゃあぼくはもう行くね。くれぐれも風邪を引かないように。サフィオ君、きみも体には気をつけるんだよ」


 リヴは元気を出したティルジアの頭を撫でると窓へと向かう。窓から飛び出して行こうとする背中にティルジアが「妖精さん!」と呼びかけた。



「ぼく、妖精さんが来るの楽しみに待ってるから!いい子で待ってるから!だからそれまで――またね!」


 懸命に声を張り上げるティルジア。リヴはそれにコクリと頷くと「じゃあね」と手を振る。


 窓から風が強く吹き込み、その冷たさにティルジアは思わず目をつむる。

 次に目を開けた時にはまるで風にさらわれてしまったかのようにリヴの姿は消えていた。

 本編は第二章『光降り注ぐ窓辺』や第四章『雪花』、番外編では『泡沫の夢』と何度か登場している妖精さん。実はじぃじ(サフィオおじいさん)も彼に会えることを毎回心待ちにしている。「年甲斐もなくはしゃいでしまうよ」とワクワクのうきうきでお菓子を準備しております。健康のためにもほどほどにして頂きたいものです。

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