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若芽の夢語り-3

「伯父さんと一緒に寝るのはじめてだぁ!」


 クルベスの私室にて。ベッドに入ったルイは目の前のクルベスに抱きつく。もう寝る時間だと言うのに大変元気である。日中はエスタとさんざん遊んだというのにまだまだ体力はあり余っていそうだ。


 付け加えると今夜のルイの寝巻きは以前ティジが小さくなった時と同様にクルベスのシャツだ。戻った時のことを考えての格好であるが絵面がやはり良くない。事情を知らない者が目にしたらクルベスが変質者と間違われてしまうだろう。


「ルイ、夜はちゃんと寝ないと大きくなれないぞ」


 クルベスがそうたしなめるとルイはハッとして「寝なきゃ……!」と目をギュッとつむった。



 今しがたルイをたしなめていたクルベスだが、かくいう彼も日中ルイの相手をしていた時にたびたびエスタから苦言を呈されている。


 具体的に挙げると、ルイの相手をする前にルイの好きなお菓子を大量に用意していたところを「お医者さんとして子どもに甘いもののあげすぎるのは良くないのでは……?」と言われたり。


 その他には「他のお部屋はどんな感じなの?」と城内の探検をしたそうな様子で聞いてきたルイにほだされそうになって「クルベスさんがこの中で一番年上ですし筋力も強いんですよ!あなたが暴走したら誰も止められないんで頑張って我慢してください!俺も弟くんと探検したいけども!すごくしたいけども!」とエスタから必死の説得を受けたりなど。大の大人が形無しである。



 ルイには丈が余りすぎているシャツ。その右袖がずり上がってその細い腕があらわになっていた。


「ルイ、風邪ひく……」


 袖を伸ばそうとしていた時、ふと気がついた。その腕が白く、傷ひとつない綺麗な腕をしていたことに。

 本来の年齢のルイはそこに痛々しい傷跡が残っている。八歳の時に起きた事件で負った切創痕が。


 このルイは事件に遭う前の――心身ともに深い傷を負う前のルイだ。

 事件直後、笑顔が消えて自分以外の人間に怯えるようになったルイよりも少し前の。


 誰からも害されることなく無邪気に笑って両親と兄からたくさんの愛情を受けて日々を過ごしていたルイだ。



 そう思うと胸に何かが込み上げてくる。その衝動に突き動かされるように小さな体に腕を回して、そのまま力強く抱きしめていた。


 こぼれ落とさぬように。

 離してしまわぬように。


 起きた悲劇を無かったことにはできない。

 失ったものは二度と戻ってこない。


 それでも気休めにしかならないが、あの日失われたものが少しだけ戻ってきたような気がした。



「伯父さん?」


 キョトンとした顔のルイにクルベスは震えた声で言葉を紡いだ。


「ごめん……こうしてたらさ、あったかいだろ?体、冷やしちゃダメだからな……風邪引いちゃったら大変だから……だから、少しだけこうしててもいいか……?」


 自身の異変を気取られぬよう絞り出した声にルイは「うん、いいよ」と返す。


「本当だ、ギューってしてるほうがあったかいね」

「だろ?あたたかい……あたたかいな」





 ◆ ◆ ◆



「見ないで……」


 あれから一晩経ち、朝には元の姿に戻っていたルイ。以前ティジが小さくなってしまった時、ティジは自分が小さくなっていた間の出来事は覚えていなかったがどうやら今回は違ったらしく。


 起きて早々ルイは幼い自分のいたした言動の数々に申し訳無さと羞恥心で布団を頭まで被って悶えていた。


「弟くーん、恥ずかしがることなんて何も無いよー。六歳の時の弟くんってあんな感じだったし」

「すみません……本当に……今だけ消えたい……」


 様子を見にきたエスタが呼びかけるもルイは依然として布団の中で丸まったままである。



「それで原因って何か分かりましたか」

「……収穫無し」

「あらー……」


 エスタの質問にクルベスは深いため息で返す。

 その苦々しい表情たるや『戻ったから良いもののこんな異常事態が起きながら原因を特定できなかったなんて医者としてあるまじきことだ……』という心情を如実に表していた。

 そこまで気負わなくてもよいのではないか、とエスタは思うも下手な励ましがかえって逆効果になってしまったら意味が無いので黙っておく。


「とりあえず今日はソッとしておいてやるか」

「そうですね。複雑なお年頃ですし」


 クルベスの意見に賛成してエスタは一緒にルイを見守る。あまり干渉しすぎてもおそらくルイは回復しないだろう。


 ティジも少し離れたところから心配そうにしているが、彼が近づくと「うぁああ……っ」と悶絶し始めるので迂闊に近づけなかった。

『泡沫の夢』よりももう少し後のお話。こういうのってなんぼあっても良いですからね。

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