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泡沫の夢-3

「すぐ戻るからね」と言って、書庫へ向かうルイの背を見送るティジ。その背が見えなくなり、完全に離れた頃合いを見計らうとティジは再び自室の扉を閉めた。


「誰かがお掃除したのかな……ま、いっか」


 自分のお部屋のはずなのになんだかいつもとは違う感じがする。本棚にある本も難しい物が多い。魔法……魔術?そういう本がたっくさん。でもどれも面白そう。今度じぃじに読んでもらおうっと。



 そんなことを考えながらさっきのお兄さん――ルイさんが手を伸ばしていたお花の図鑑を引き出した。

 目当ての物はその本が入っていた空間の奥。本棚の天板の裏にこっそり貼り付けてある封筒。その中に手を入れてソッと中の物を取り出した。


「えへへ……」


 大好きな人からもらったとっても大切な物。


 こうして暇さえあれば取り出して眺めているけど、大好きなあの人のことを思い出して自然と笑みがこぼれる。

 その大切な物――しおりを裏返してそこにつづられたメッセージを読み上げると、殊更(ことさら)に頬が緩んだ。



 さっきは危なかった。

 もしこれをルイさんが見つけてしまっていたら、ぼくがみんなに内緒であの人とお話してるってことがクーさんやお父さん、じぃじにも知られてしまうところだった。

 そしたら多分クーさんにはすっごく怒られるし、じぃじやお父さんも心配させちゃう。


 本当は話したいのに。あの人のことをみんなに紹介したい。優しくて物知りなあの人のことをみんなに話したいのになぁ……。



 それに今日はお外に出られないのも残念だ。お父さんやクーさんにお願いしたけど「絶対ダメ」って言われちゃった。


 うぅ……あの人に悪いことしちゃった。また今度お外に出た時に「この間は会えなくてごめんなさい」って言おう。あの人はたぶん「気にしてないよ」って言ってくれるだろうけど、ぼくのほうが申し訳ない。


 とりあえずコレは元の場所に戻しておこう。失くさないよう大事に仕舞っておかないと。


 しおりを封筒に入れて本も元あった場所に収める。それだけしかしていないのに何でかホコリだらけだ。そんなに長い間お掃除してなかったっけ?うーん、今日は変なことが多いな。


 うむむ……と頭をひねっているとカチャリと小さく音が鳴る。音がした方角――窓に顔を向けるとそこには見知った人の姿があった。



「妖精さん!」


 久しぶりだ。あまりに嬉しくてその人に呼びかける。


「どうしたの?今日はじぃじ、お仕事だからいないよ?」


 いつもはじぃじと一緒にいる時にしか会えないのに。もしかしてじぃじに何かお話したいことがあったのかな。


 でも妖精さんはいつも通り窓からお部屋の中に入るとすごく慌てた様子でぼくに駆け寄った。


「本当に戻ってる……なんで?これも僕の血が関係してる?どうしよう、とにかく何でこうなったのか調べないと……!」


 妖精さんはなぜか今にも泣きそうな声でぼくの頭や手首に触れて、何かに集中するように目を閉じる。

 とりあえず大人しくしていると、やがて妖精さんは大きく息を吐いてぼくの目を見た。



「とりあえずグチャグチャになってた体内の魔力構成はある程度戻したから大丈夫かな……ティルジアくん、体に変な感じはない?」


 質問の意味は分からなかったけど、いつになく真剣な表情の妖精さんに「大丈夫」と頷く。


「良かった……もう大丈夫だからね。ずっと見てた。今回もきみの様子を聞いてすぐ見に行った。でも僕はあまり姿を見られてはいけないから、きみとこうして二人きりになれる機会をうかがって……こうして運良く人がいなくなってくれて本当に良かった」


 妖精さんは『運良く』と言うけれど、実のところ『あの人からもらったしおりを見たくて、わざとこの部屋から出てもらえるよう仕向けた』とは言い出せなかった。


 それにしても何だろう。グチャグチャになったって……ぼくはどこも怪我してないのに。



「たぶん今から言うことは理解はできないと思う。でも明日には元に戻っているから。それまで安静に……大人しくしていて。僕がある程度元の状態に戻したとはいえ、まだきみの体は不安定なんだ。少しの揺らぎが命取りになりかねない。今回の件については僕からちゃんと説明しておくから」


 頭にたくさんのハテナマークを浮かべるぼくに妖精さんは「とにかく」と肩を掴む。


「今日一日、魔法や魔術の類いには触れないこと。もし触れたり、当てられたりしたら……具合が悪くなっちゃう。ティルジアくん、僕との約束守れるかな」

「えっと……うん。約束する」


 でもそうなるとレイジさんの使う氷の魔法も見たり近づいたりしちゃダメってことか。あの魔法、綺麗で好きなんだけどなぁ……。



「それじゃあ僕はもう行くね。ティルジアくん、また会えて……こうしてお話できて嬉しかったよ」


 ばいばい、と手を振って窓から飛び出してしまう妖精さんに手を振り返す。


 妖精さんはいつもそう。

 どこかへ行って、次に会えるのはいつになるかは分からない。妖精さんのお話も、大好きなあの人のお話みたいに自分の知らないことがいっぱいで面白いのに。もっといろんなお話をしたいのにな。


 でもそう言うと妖精さんは「ひと所に身を置くのは良くないから」と難しいことを言ってしまう。じぃじに言っても「彼が決めたことだからね」と少し寂しそうに笑うだけ。

 少しションボリしちゃうけど、ぼくがどうにか出来ることでも無さそう。



 そのまままた一人きりになったお部屋でルイさんを待つ。コテンとベッドに寝転がりながら色んなことを考える。


 妖精さんのことはじぃじとの秘密。クーさんやお父さんにも内緒のこと。

 じぃじに「何で言っちゃダメなの?」って聞いても「妖精さんが困っちゃうから」ってだけ。


 あ、そうだ。じぃじが帰ってきたら「妖精さんが来てたよ」って伝えておかないと。



 大好きなあの人と会ってお話していることは、ぼくとあの人だけの秘密。


 だってみんなが知ったらとっても怒るから。もしかしたらお外に出るのも禁止になっちゃうかも。



 ぼくって内緒にしていることが多いなぁ。頭がパンクしちゃいそう。でも何だかスパイみたいでワクワクする。


 いや、大好きなあの人のことはみんなにお話しないといけないんだけど。

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