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聖夜にグラスを傾けて-1

「てなわけでついにこの日がやってきました!待ちに待ったぁ……聖なる日!はい拍手!」

「テンション高いな。そんなに元気が有り余っているなら外でも走ってきたらどうだ。ちょうど雪も降っていることだし」

「クルベスさん、俺のこと犬だと思ってません?」


 黙々と書類仕事をおこなっているクルベスにすかさずツッコミを入れるエスタ。クルベスの言葉どおり外ではしんしんと雪が降り積もっていた。


 満を持しての聖なる日。厳密に言うと聖なる日は明日だが。とどのつまり今日は12月24日である。



「今年は俺もいるんですからね。これ以上になく盛り上げちゃいますよ。冬の寒さなんて吹っ飛ばす!」


 今年の春から衛兵に就任したエスタは声を弾ませて謎の宣言をする。聖なる日というお祭りムードに感化されて浮かれているのかもしれない。


「弟くんたちはどこです?サクラちゃんとはさっき会いましたけど」


 とんでもないマシンガントークを聞かされたことは想像に難くない。気の毒に思ったがいつものことなのでクルベスはあえてスルーした。


「あいつらならいつもの所。雪も降ってるっていうのに元気なもんだ」


 体を冷やしてしまわないか心配だが、今日は大目にみてやることにしよう。そう考えるとクルベスは雪が降り落ちる窓の外へと視線を遣った。


 ◆ ◆ ◆


「だいぶ冷えてきたな……そろそろ戻るか?」


 体を気遣うルイにティジは「まだもうちょっとだけ」と食い下がる。


 ここは城の中の庭園。お気に入りの場所である白いベンチは雪で濡れてしまっていたので庭園内を適当に歩いて回ることにしたのだ。

 冬に咲く花は少ないため、他の季節と比較してしまえば質素に映るだろう。だが雪化粧を施した植栽や降り積もった雪を踏みしめる感触はこの季節にしか楽しめない。


 吐く息が白い。ルイの言う通り、かなり冷え込んできた。彼が凍えてしまってはいけない。あと少しだけ見たら部屋に戻ろう。


 ふと、小さい頃に書物で目にした「雪玉を投げ合う遊び」を思い出したが、そんなことをしたらクルベスから大目玉を食らいかねないので断念した。代わりといっては何だが手乗りサイズの雪だるまでも作っておこう。


 ルイもティジにならって並んで雪だるまを作り出す。「こういうの、久しぶりだ」と表情が和らぐ様子からルイも幼少期にはよくこのような雪遊びに興じていたらしい。


 二人並んでせっせと手のひらサイズの雪だるまを作る様子ははたから見れば奇妙な光景だろう。でもこんな「何でもない時間」がティジにとってかけがえのない大切な時間でもあるのだ。



「――くしゅっ!」


 どうやらティジは自身が思っている以上に体は冷えていたみたいだ。鼻先が冷たい。


 かじかんだ手を見つめ、ルイの手に視線を向ける。当然だがルイの手も冷えていた。

 その手があまりにも寒そうにしていたので深く考えること無く、ティジはルイの手のひらを自身の両手で包み込んだ。


「……え?えっ、ちょっとティジ何!?どどど、どうした!?」


 ルイはぱちくりとまばたきをし、状況を理解するや否やこれ以上になく分かりやすく動揺を示す。


 ティジへの恋心を自覚してから約四ヶ月。表面上は冷静を装って関わることができるようになったものの、このように唐突な行動をされてしまうと途端にボロが出てしまう。

 ルイは『落ち着け落ち着け』と自分に言い聞かせるも顔の火照りは一向に治らない。


「手を繋いだら少しはあったまるかなって。でもどっちも冷えちゃってるね」


 とは言いつつ指を絡ませるティジにルイの頭は沸騰寸前だ。

 そんな状態になっているとはつゆ知らずのティジ。より一層密着したことで多少は温まったのか、朗らかな笑みを浮かべながら緩く握ったりスルリと指の腹で撫でたりするなどしてきた。


 そのような仲睦まじい様子の二人を離れた場所から覗く小さな人影。



「サクラちゃん、何見てるの」


 こっそり見ていることを察したエスタが声を潜めてティジの双子の妹――サクラに近づく。エスタの質問に応えるかたちで視線の先を指し、一言。


「……イチャイチャしてる」

「そ……っ、ういう言葉遣いは上品ではないと思うなぁ」


 エスタは吹き出しそうになったが寸でのところで堪えた。確かに、あの二人のやりとりは初々しいカップルのソレに見えるが。


「兄さん、あれで気付かないって逆にすごい」

「まぁ、うん。俺もそう思う」


 ルイの反応を見れば彼がティジに好意を寄せているのは一目瞭然だ。今も顔を真っ赤にしながら手を握られている状況を噛みしめている。


 サクラはルイがティジに恋愛感情を抱いていることを存じ上げている。見ていて非常に分かりやすかったため、すぐに気付いたのだとか。


「ああすればいいのか……」

「サクラちゃん?」


 サクラは「ルイの手、温かくなった」と無邪気な笑顔で告げるティジを凝視する。

 もしや婚約者との交流時に『いかにして自然に手を繋ぐか』と参考にしようとしているのか。13歳の少女なりに婚約者との時間の過ごし方を模索しているのだろう。


 サクラはそのあとも暫しの間、いつになく真剣な表情でティジたちの応酬を観察していた。

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