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赤ずきんパロ-2

 ――コン、コン。


 控えめなノックの音が響きます。赤ずきんのお父さん(ジャルア)は暇つぶしに読んでいた本から顔を上げました。


「入っていいぞー」

「すみません、遅れました。ちょっとトラブルがあって……」


 急いで来たのか少し息を切らした狼さんが扉を開けます。


「おおかたティジだろ。また迷子になったか」

「……はい」


 お父さんにはお見通しのようです。呆れるでもなく「あれはもうどうにもならん」と立てた膝に頬杖をつきます。


「多分クルベスが送っていくと思うんであとは大丈夫かと……」

「そっか。あいつがいれば大丈夫か。……大丈夫、か?」


 これ以上何かあったら終わるのが夜になってしまうので大丈夫だと信じたい。



「まぁティジのことはあいつに任せるとして……ほら、するんだろ」


 ん、と手を前に差し出します。


「いまからでも変えられないですかね……」


 狼さんはロープを取り出しながら凄ーく嫌そうな顔で呟きます。


「俺のことを食うって方向に?出来んのか?」

「いや、それは流石に出来ないから手を縛って拘束するってことになったんですけど……てか出来るわけないでしょ。そんなこと」

「そうなったらお前、最終的に腹裂かれるもんな」


 狼さんの返しに赤ずきんのお父さんは楽しそうに笑います。普段は忙しくてこのような催し物に参加する機会もないので楽しくてしょうがないのでしょう。


「残酷な表現しかないじゃないですか……何で童話ってこんなの多いの……」


 狼さんはげんなりとした様子で呟きます。赤ずきんのお父さんは「言われてみればそうだな」と首をコテンと傾けます。


「シンデレラとかも義理の姉が足切って無理やりガラスの靴に足突っ込もうとするもんな。まぁもしそれで嫁にいけたら歩かなくてもいいぐらい裕福な生活が手に入るって思ったんだろうけど、いくらなんでも限度があるわ」

「うわぁ……」


 想像したら鳥肌が立ったようで狼さんは肩を震わせます。


「ラプンツェルもそうだぞ。残酷表現はそんなに無かっ……いや、終盤にあるな。あと性的表現もあるぞ。かなり婉曲的だけど。聞くか?」

「……もういいです」


 聞いているだけでお腹いっぱいのようです。



「今挙げた二つの話は厳密に言うと童話じゃなくて民話なんだけどな。それを子どもにも読みやすいようにアレンジしたのが童話になったり……おっと、こんな話してる場合じゃなかった。はやくしないとあいつらが来る」

「じゃあ……すみません。失礼します」


 そう言って狼さんは赤ずきんのお父さんの手首にロープを巻いていきます。相手は国王なので心臓はバクバクです。


「遠慮なくやっていいぞ。昔は時々さらわれたりして結構きつめに縛られたこともあったから慣れてる」


 狼さんはその『赤ずきん』という世界観からかけ離れた物騒な発言には触れないでおきました。赤ずきんのお父さんも結構苦労したようですね。


「あ、いっそのこと何か手伝おうか。ここに一回通したらほどけにくくなるー、とかそういうの色々知ってるぞ?」

「いえ、クルベスから手順書を渡されてるんで間に合ってます。てか何でそんな知識つけてるんですか」


 なおも楽しそうにしている赤ずきんのお父さんが不思議でしょうがない様子。事前に渡された(猟師のおじさんが夜なべして書き上げた)手順書を見ながらぎこちない動きで縛っていきます。



「またさらわれたりした時に備えて。少しでも知識あったほうが自分で抜けられる可能性もあるだろ?……っ、と出来たか」

「あ……っ!すみません、痛かったですか!?」


 少し顔を歪めた赤ずきんのお父さんを慌てて気遣います。


「いや大丈夫……おぉ、すごいな。腕動かしてもびくともしない。いま襲われたらひとたまりもないな」


 赤ずきんのお父さんはカラカラと笑って言いますが、そんなことになったら一大事なのでそこは対策済みです。


「えっと……この伸びてる紐をねじるようにして引っ張ると抜けるそうです。もし危ないことになりそうだったらそうしろって……」


 狼さんは手順書に赤字で書かれている事項を読み上げます。


「ここか?これなら口でくわえればイケるな。あ、でも今やったら縛り直さないといけなくなるからやめとくか」


 結構ワイルドなことをやろうとするも、すんでのところで思いとどまります。



「一応確認したほうがいいんじゃないかと……」

「大丈夫だろ。手順書、クルベスが書いたんだろ?あいつのなら信用できるし。にしてもこの仕組み上手く作ったなぁ。……あぁ、そういえば俺が最後に縛られたのってあの時か。ならここまで慎重になるのも無理ないわ」

「あの時?」


 懐かしいな、と追想にふけっていた赤ずきんのお父さんは狼さんに視線を向けます。


「あれ、知らなかったか?俺が15の時――」

「父さん、お見舞いに来たよー!」


 元気な声が扉の向こうから聞こえてきました。いつの間にか話し込んでしまっていたようです。


「やっべ。悪い、この話はまた別の機会にするから」


 そう言って赤ずきんのお父さんは慌ててベッドの下に潜り込みます。今回は縛られて床に転がされているという設定でいくようです。もちろん狼さんは先ほどまで赤ずきんのお父さんが座っていたベッドに入ります。狼というより強盗みたいですね。


「よく来たね。さぁ早く入っておいで」


 狼さんは布団を頭まで被り、扉の外へ呼び掛けます。布団には赤ずきんのお父さんの温もりが残っていて正直に言うと暑そうです。ですがそこは我慢します。



「父さん、調子はどう?どこかしんどいところはある?」


 いつの間にか被りなおしていた赤いずきんを再び取り、ベッドへと向かう赤ずきん。狼さんからは赤ずきんの姿は見えないものの、その元気な声を聞いて人知れずホッと息をつきます。


「大丈夫だよ。それよりこんなへんぴなところまでよく来られたね」

「えへへ……ちょっと迷子になっちゃったけどね」


 全然ちょっとじゃないんだよな、とは狼さんは口にしません。ベッドの下で寝転ぶお父さんも『とんでもないところまで行ってたんだろうな』と考えます。ベッドを挟んで二人の心はなぜか一つになりました。



「ほら、もう少し近くに来てその……か、顔を見せてほしいな」


 本来の台詞は『その可愛い顔を見せてほしいな』だったのですが、恥ずかしかったようで少し変えてしまいました。


「父さん、なんで布団を頭まで被ってるの?暑くない?」


 進行上定められた台詞とはいえ、狼さんは「めちゃくちゃ暑い」と返してしまいそうになります。


「まだちょっと寒いんだ。そんなことより、ほら。もっと近くに」


 この後の段取りは知っているので赤ずきんはすすんでベッドに近づきます。


「父さん、なんか体おおきくない?」


 赤ずきんのお父さんと狼さんの身長は10cm以上も違うので体格も変わってきます。


「そうかな?きっと気のせいだよ」

「それに耳?もなんか違う」


 そっと触れられ狼さんは思わず肩が跳ねてしまいます。いや、だって進行には『耳を触る』なんて書いてないもの。よほどその触り心地が気に入ったんでしょうね。


「気のせい、だって」


 さわさわと撫でられてなんだかむず痒い気持ちになる狼さん。触っている当の本人は狼さんがそんなことになっているなど露知らず。本物みたいだぁ、と楽しそうです。


「ねぇ父さん――」

「う、わぁああ!」


 このまま触られ続けているとなんか変なことになりそうだと判断し、予定を繰り上げて赤ずきんに飛びかかります。あくまで飛びかかるふり、です。そのつもりでした。


「えっ、あ!?」


 払い除けたはずの布団が狼さんの足に絡まります。突然のことになす術なくバランスを崩し、そのまま床へと一直線。


「――あぶない!」


 目をぎゅっと閉じて衝撃に備えようとした直前、鋭い声が聞こえた気がしました。




「い、たく……ない……?」


 何か自分の下にある。引っかけた布団かと思い、狼さんはゆっくりと目を開けます。


「ぅ、ルイ……大丈夫?」


 赤ずきん、ていうかもうティジでいいか。狼さんもといルイはティジが自分の下敷きになっていることに気付きました。


「――っ、ごめん!ティジ、まさか俺をかばって……!」

「大丈夫、ルイは怪我ない?」


 それにルイは首を振って応えます。今にも泣き出しそうです。


「ごめん、俺のせいで……」

「ううん、ルイのせいじゃないよ。それよりルイに怪我がなくてよかった」


 ホッと安堵の息をはき、怪我がないことを確かめるようにルイの頬に手を添えます。



「それにしても、やっぱりルイのほうが俺よりちょっと体大きいんだね」

「え」


 そこでようやく気付きます。

 今の体勢、端から見るとティジのことを押し倒しているようにしか見えないということに。



「あれ、ルイどうしたの?」


 みるみるうちに真っ赤になっていくルイに首を傾げます。


「ごめ……え、俺、ティジのこと、押し倒、そんなつもりじゃ、ちが、え、え?」


 初心なルイには少し刺激が強かったようです。――あ。


「わ、ルイ!?鼻血出てるっ!」


 ボタボタと真っ赤な血が滴り落ち、ティジの服に染みていきます。これではどっちが襲われるほうなのか分かりません。


「ごめ……ほんとに、だいじょぶ、へいき、だから……ほんとにごめ……っ」


 ルイは手で押さえますが鼻血は止まらず、顔色はどんどん悪くなっていきます。赤くなったり青くなったり忙しいですね。



「おい何かあった、って本当にどうした!?」


 なかなか合図が来ないなと疑問に思ったクルベスは家の中の惨状に慌てます。


「お、結構似合ってるな」


 ジャルアはベッドの下から這い出ながらのんきにクルベスの猟師の格好を褒めます。


「なんか、ルイが転けそうになったから庇ったら、こんなことに……どうしよう、どこかぶつけたのかも……っ!」


 ティジは床から半身を起こし、ひどく動揺しながらクルベスのほうを振り返ります。ルイは全然大丈夫じゃない様子で「大丈夫、大丈夫……」としきりに呟いています。


「とにかくほら。ルイ、落ち着け。それじゃあ止まるものも止まらん」

「ごめ、ほんとに……そんな、つもりじゃ……」


 とりあえずティジをルイの下から退かせ、ルイには鼻をつまみながら下を向くよう促しました。



 10分ほど経ち、ようやく鼻血が止まったことを確認したクルベスが口を開きます。


「で、何があってこうなった?」


 その問いにまだ血色の悪い顔のルイはぼそっと呟きました。


「……押し倒した」

「は?」


 ルイの発言にクルベスは慌ててティジを見て、ジャルアに視線を送ります。どちらも大丈夫そうな様子を見て、事の次第を詳しく聞き出しました。




「……つまり、転けそうなったところを庇われて、ティジの上に倒れ込むかたちになった。そういうことだな?」


 ルイは小さく頷きます。それにクルベスは「頭動かすな」と注意しました。


「……ごめん」


 ルイは申し訳なさそうに謝ります。


「お互い怪我もなかったんだからそんなに謝らなくても大丈夫だよ」


 ティジは少しでも落ち着くようにと笑ってみせるもルイは泣きそうな表情のままです。


「もうこれじゃあ続けるのは無理そうだな……仕方ない、お開きにするか」


 クルベスはルイの背中を優しく擦りながら提案します。ルイのメンタルが限界状態なので無理もないでしょう。

 いつの間にか拘束を解いていたジャルアは口にくわえたロープを床に落とします。結局ワイルドなほどきかたをしたんですね。


「俺ほとんど出れてないんだけど」

「そもそもお前の役はそんなに出番ねぇぞ」


 クルベスに雑に返されてジャルアは少し不満そうです。



「いつかまた皆でこういうことやればいいんじゃないかな。あ、でも父さんは忙しいから難しいか……」


 自分で言って落ち込んでしまったのか、シュン……と肩を落とすティジ。彼自身も父親とこうして一緒のことをして過ごす機会などめったにないので楽しみにしていたのでしょう。


「またやるなら時間ぐらいいくらでも空けるぞ。だからまた、いつかしような」


 それを聞きティジはパッと嬉しそうに顔を上げます。ジャルアは愛おしそうに微笑み、ティジの頭を撫でました。


 そんな温かな家族団欒(だんらん)を傍目に『次はこんな事態ならないといいんだけど……』と一人不安に思うクルベスでありました。




~幕引き後 保護者たちの反省会~


「……ほんっっと今日は疲れた……」

「お疲れ」


 ぐったりとソファに体を預けるクルベスにジャルア淡々と労いの言葉を告げた。


「……お前さ、本当にそう思ってんなら少しは気持ちを込めろよ」


 込めてるつもりなんだが、とこれまた不満そうにふてくされるジャルア。しかしすぐに気持ちを切り替えて「それはさておき」と万年筆の軸を拭いながら声をかける。


「ティジの送り迎え、大変だったろ。あいつすぐ色んな物に興味持つから」

「まぁ……花畑出た後もあっちへフラフラこっちへフラフラ、蝶か何かかあいつは」


 おかげで余計に時間くった、と非常に疲れた様子で額に手を当てて天井を仰ぐ。


「おまけにルイのあれ……心臓止まるかと思ったわ」


 今思い出してもゾッとする、とクルベスは一人ごちる。


「まぁあれには俺もびびった。死ぬかと思った」

「やめろ。お前が言うと冗談にならない」


 悪い、と全く悪びれた様子のないジャルアに深いため息をこぼす。



「でも結構楽しかったろ?」


 そう言ってジャルアはいたずらっぽい笑みを浮かべた。


「……まぁ。ああいうはっちゃけた事ってそんなにしないからな」

「じゃあこれから次回に向けての反省会だ。次は上手くやるぞ」


 ふふん、と何故か得意げに笑うとジャルアは意気揚々と書類を取り出す。


「……やっぱりやるのか?」

「当たり前だろ」


 その手にある『今回の流れをまとめた表』を目にしたクルベスは「……わかったよ」と両手を上げて降参せざるを得なかった。

 エイプリルフールです。一度はやりたかった童話パロディをノリと勢いだけで書きました。今回はティジのお父さん、ジャルアがよく喋ります。

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