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赤ずきんパロ-1

 むかしむかし、あるところに好奇心がとても旺盛なティジという子どもがいました。


「子どもって言ってももう16なんだけどなぁ……」


 16歳はまだ未成年なので子どものうちに入ります。その子はいつも赤いずきんを被っていることから「赤ずきん」と呼ばれていました。そんな赤ずきん、今日はお父さんのお見舞いに行くそうです。


「いいか、ぜっったいに寄り道するんじゃないぞ。ちゃんと案内板どおりに進め。何があっても他のことに興味持ったりするな。お前は、父親の、お見舞いに行く。それだけだ。分かったか?」


 何故か出かけるときに猟師のおじさん(クルベス)に肩を掴まれて言い聞かせられます。赤ずきんはその並々ならぬ気迫にたじろぐもとりあえず頷きました。ていうか猟師のおじさん、何でもう出てきてんの?



 何はともあれお見舞いの品となるワイン……はお父さんの身体年齢的にダメなのでブドウジュースと新鮮な果物をカゴに入れ、森の中へと入っていきます。


「でも確か原作では果物じゃなくてケーキだったような……」


 常温でケーキなんか持ち歩いたら大変なことになるでしょうが。ナマモノだぞ。

 そのことに赤ずきんはそれ以上気にする様子もなく「まぁいっか」と呟き、歩いていきます。


 テクテクと軽快な足取りで森の中を歩いていきます。森の中を歩くことなどないので全てが新鮮に映るようです。

 木の上でさえずる小鳥に気を取られそうになりますが猟師のおじさんの(尋常じゃない)気迫を思い出し、自分を律して進んでいきます。


「それにしても、こんな赤いずきんなんてわざわざ被らなくても十分目立つ見た目してるのになぁ……」


 確かに白い髪に紅い瞳って目立つけどそれはそれ。案内板を頼りに進んでいきます。


 森の中なのになぜ案内板があるのかは考えてはいけません。どこぞの猟師のおじさんが天性かつ無自覚の方向音痴の赤ずきんを心配して立てた、なんて当の本人は知る由もありません。具体的に言うと50mおきに立てられています。


 森の中は入りくんでいるとはいえさすがにやりすぎでは?という疑問もあがるかと思います。手厚すぎるサポート。



「あれ、なんか違う……?」


 それでも迷子になるからなぁ……。


「おかしいな。なんでだろ……とりあえず来た道を戻って……」


 赤ずきんが後ろを振り返るも頼りの案内板はどこにも見当たりません。


「えーっと、じゃあこっち……?」


 右側に体を向けます。そちらにもないので「それなら後ろか」と振り返る。迷子になったときに一番やっちゃいけない行動です。何故かって?それは――


「……ていうか俺、どっちから来たんだっけ」


 こうなるからです。良い子は決してマネしないように。



 先ほどまで聞こえていた鳥のさえずりは消え、ザワザワと風に揺れる木々の音だけがその場を満たします。まるで大きな生き物の中に飲み込まれてしまったような感覚に陥り、どんどんと不安が増長されていきます。


「ど、どうしよう……いつもだったら携帯で連絡とるけど……でもここがどこなのかも分からないし……だけど何でもいいから、とにかく連絡したほうが……あれ、ない。え、置いてきた……?」


『非常時以外は出すんじゃないぞ。赤ずきんって世界観的に持ち込んだらダメな物だから』と持っておくように言われていた携帯も何故か見当たりません。どうやらお見舞いの品を詰めるときに入れ忘れてしまったようです。

 万事休す。まだ狼も出てないのに絶体絶命のピンチです。



「――いた!ティジ!」


 おっと、噂をすれば。息を切らした狼さんが赤ずきんに駆け寄ります。


「ルイぃ……」


 赤ずきんは心細かったのか弱々しい声で狼さんを呼びます。まぁ森の中で遭難って洒落にならないからね。


「はぁ、よかった。怪我は?」

「ない……ごめん、いつの間にか全然知らないとこに来てて……」


 もう役そっちのけで普通に会話をし始めます。


「この赤いずきんのおかげで遠くからでも見つけられたよ。本当に、無事でよかった……」


 ここにきて赤いずきんが役立つとは。狼さんはその赤いずきんを下ろし、顔に傷がないかも確かめます。木の枝で擦ってる可能性も捨てきれないからです。


「怪我もないみたいだし……うん、赤いずきんもよく似合ってる」


 その感想いる?おそらくホッとして自然と口から出てしまったのでしょう。多分あとで猟師のおじさんにめちゃくちゃからかわれますが、そんなことはいま関係ありません。


「あ、りがとう……ルイも似合ってる。そういう感じになったんだね」


 赤ずきんは少し照れくさそうにはにかみ、狼さんの格好も褒めます。ていうか普通に名前で呼びあうのそろそろやめようか。


「そうか?この格好けっこう恥ずかしいんだけど……」


 まるで本物のようにクオリティの高い付け耳としっぽに触れます。ちなみにこちらの二点は猟師のおじさんが吟味して選んだ逸品です。


「結構ふさふさしてる。本物みたい」

「ちょっ、あんまり触ると取れるって」


 赤ずきんはよほど気に入ったのか、なおも撫でるように耳に触れます。作り物なので動くことはありませんが、もし本物だったら狼さんはすごい勢いでしっぽを振っていることでしょう。狼っていうより犬ですね。



「あっ……っと、そうじゃない。えーっと……赤ずきん、こんなところで何をしているんだい?」


 ひとしきり撫で回された後、ハッと我に返ったように赤ずきんに問いかける狼さん。それに赤ずきんは首を傾げています。


「ルイ、急にどうしたの?」

「ティジ、ちがう。話。赤ずきん」


 小声で流れを引き戻すよう呼び掛けます。それにようやく思い出したのか赤ずきんは「あ、そうだった」と声をあげます。


「これから父さんのお見舞いに行くんだ。……ちょっと道に迷っちゃったけど」

「それなら少し歩いたところに綺麗なお花畑があるから寄っていくといい。お花を持っていったらきっとお父さんも喜んでくれるよ。確かあちらのほうに……いや、そこまで案内するよ」


 本来なら狼さんは方角だけ教えて立ち去るのですが、そこはアドリブでお花畑まで同行することにしました。また迷子になられたらたまりませんからね。


 迷子にならないように手を繋いで歩きます。『森の中で二人。手を繋いで歩く』ってそれはもうヘンゼルとグレーテルでは?


 ◆ ◆ ◆


「着いた。ほら綺麗なところだろう?それじゃあ俺はここらへんで。気をつけて行くんだよ」


 そう言って狼さんはそそくさと退散していきます。少し離れると狼さんは即座に携帯を取り出しました。


「クルベス。ティジはいま花畑にいる。たぶんあと10分は離れないと思う」

『分かった、すぐ向かう。本当ごめんな。色々大変だったろ?あいつ、なんで案内板があるのに迷うんだ……』


 電話の向こうで大きなため息が聞こえます。よほど苦労させられているのでしょう。


「結構入りくんだ場所にいた。……あれ獣道を二、三本は入ってる」

『ほんとにあいつは……多分そんな道に入ったって自分でも分かってないな。お、いたいた。じゃあ切るぞ。そっちも頑張れよ』


 狼さんは通話の切れた携帯をしまい、赤ずきんのお父さんのところへと急ぎます。




~幕間 ティジとクルベス合流~


「ティジ。お前何やってんだ」


 名前を呼ばれたティジは後ろを振り返る。


「あ、クーさん。いまお花見てるとこだよ。進行には『花を摘んで持っていく』ってあるけど、せっかく綺麗に咲いてるのに摘み取っちゃうなんてできないから」


 そう言って小さな花に手を触れるティジ。クルベスは花には詳しくないので何の花なのか全く分からなかった。


「ここでは時間をつぶすことが目的だからそれでも良いけど……そうじゃない。俺言ったよな?ちゃんと案内板どおりに進めって」

「ちゃんと案内板通りに進んだよ?」


 全く反省した様子もないティジにクルベスはため息を漏らす。


「じゃあ地図と照らし合わせるぞ。ほらこっちが本来のルート。そんで、ルイが言うにはお前はここら辺で見つかったそうだ」


 地図を取り出し、丁寧に指で示しながら説明していく。天性の方向音痴にも分かるようにゆっくりと丁寧に。



「結構……離れてるね」


 気まずそうな声で呟くティジ。ようやく理解してくれたようだ。


「もう一度聞くぞ。ちゃんと、案内板通りに、進んだか?」


 言い逃れなどさせない、と言わんばかりにその紅い瞳を真正面から見据える。するとティジは「えーっと……」と少し考えたのちに告げた。


「……そういえば、最初に見た案内板ってどこかの村を指していた気がする」

「最初から間違ってたってわけか……」


 そもそも森へ入る道を間違えていたら元も子もない。こちらの想像を軽く凌駕する、一種の才能とも言えるソレに頭痛がしてきた。


「ちゃんと案内板通りには進んでたから……」


 言い訳をするように付け加えるが、ティジが立ちすくんでいたあの場所は周辺に案内板など存在しない場所だ。言ってしまえば野生動物の住み処。一歩間違えば童謡の『森のクマさん』が流れる事態になる。冗談じゃない。こんなの獣道を二、三本入ったどころじゃ済まないぞ?


 一際大きなため息をつきティジの手を掴む。


「よし分かった。俺がジャルアのところまで送っていく。ほら、ほどほどに時間も経ったしもう行くぞ」

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