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23・ようこそ矯正学舎

 殺風景な部屋でマカディオスは目を覚ます。

 しらない場所。しかもベッドじゃなくて床の上にいる。

 ぼんやりとした寝起きの頭をめぐらせる。


「クソ……ッ」


 昨夜のできごとを思い出したマカディオスは太い腕で頭を抱えてうずくまった。背中にはまだ金属の虫がくっついている。エインセル。かつて言葉をかわした少女の成れの果て。


 マカディオスがこの部屋にぶちこまれる前、正答の教導者同士で言いあうようなやりとりがあった。どんな内容かはあまり覚えていない。聞き耳を立てようと思うほど、その時は心の余裕がなかった。どうせたいしたことでもないだろう。ただのクズどもの仲間われ。


 連れてこられた部屋をぼんやりと見回す。

 牢屋ほどの威圧感はないが、宿屋というには不自由すぎる。

 家具のようなものが置かれている。机に収納に寝台。安っぽいベッドではマカディオスの体をささえきれそうになかったので、壁に背中をあずけて長い長い夜をすごした。


 立ち上がってじっくりと壁や床を調べる気力はわかない。

 今は命令を与えられていない。マカディオスは動けるはずだ。

 それでも実際に体を動かす気にならない。

 ものすごく体が重い。


「おはようございます。理想的な八時間の睡眠は確保できましたか」


 壁面の一部に女性の姿が映し出された。人形のような寒々しい面構えには見覚えがある。オオカミお姉さん。正答の教導者。エマである。


「ああ、失礼。あなたがここにきたのは午前二時三十二分でした。八時間も眠れるはずがありません」


 こちらをコケにしているのか、単にどうだっていい事実を逐一正確に言及したい性分なのか。どちらにせよ、エマの言葉はマカディオスの神経を逆なでる。


「あなたは間違って植えつけられた認識を捨て去り、正しい知見を得なければなりません。正答の教導者はその手伝いをいたします」


「……正しい? 手伝う?」


 そのために夜中に家に押しかけて、悪趣味きわまりないやり方で家族を引き離したというのか。


「あなたは最初、特に対処する必要もない魔物の一個体と見なされていましたが、教導者内でこのような意見があがったのです」


 その特異個体には研究する価値がある。生け捕りにしたい。

 声高にそんな主張をする者がいた。


「……ここは研究所かなんかか」


「いいえ。あなたがいるのは矯正学舎です。魔物の研究ではなく、問題を抱えた人間の救済を目的とする施設です」


 マカディオスは顔をしかめた。


「……めずらしい魔物だと思ったから、オレをつかまえようとしたんだろ? どうして人間あつかいする気になった?」


「そうなんですよね。私も疑問は抱いています。しかし書類の上であなたは人間になっていますので、私もそのようにあつかうまでです。おめでとうございます。罪もないのにウラにとらわれていた人間のあなたは無事に救出され、ここで再教育を受ける機会を得ました」


「救出だってのか……? あれがっ」


 マカディオスが暴れ出す気配を感知したのかエインセルがその自由を奪う。

 体を思うように動かせず、ひんやりとした床にくずれ落ちた。


「わぁ、暴れちゃダメれすよぉ。今のあなたは自分の意思で出せる力に制限がかかってるのでぇ。大人しぃく日常生活を送る分には支障はないはずれすよぉ」


 その姿は画面に表示されていないのに、ほんわかとした気の抜けた声だけが聞こえてきた。

 気遣うような声色だが、マカディオスは正答の教導者への警戒心をいっそう強めた。こちらから視認できなくとも、向こうからはマカディオスのようすが見えているということだ。

 セティノアがかくれている鳥笛も、中身がバレないように慎重にあつかわないと危険だ。


 淡々としたエマの声が頭上からふってくる。


「……考えれば考えるほど不可解です。特異個体の捕獲を提唱し、あの状況下で単身でウラ側に潜入。対魔物用の試作品まで装着させておきながら、書類には要救助対象の人間を緊急保護と書くなんて」


「エマさん、考えごとをつぶやくクセが出てます。そんなに悩むことじゃないれすよぉ、建前っていうのがあるんれすってば」


 昨晩の教導者同士の言い争いをふり返ってみる。会話の内容までは正確に覚えていないが、どんな雰囲気がただよっていたかなら思い出せる。

 マカディオスをとらえてオモテへと連れてきた男は、厄介な相手につかまったようだった。一定の声量で冷静に、しかし非常にしつこく理屈っぽく、ささいな話の矛盾も見逃さない相手にあれこれ質問されていた。


 ずっとうつむいていたのでマカディオスはその人物の顔を確認していない。

 けれど平坦な抑揚の女性の声だったのは覚えている。

 あれは間違いなくエマだった。




「壁際の棚。その引き出しの中に既定の衣服が入っています。着替えたらドアを開けて部屋から出てきてください」


「お前らのいうことなんてきくかよ」


 わけのわからない機械でいくらでもあやつれるくせに。

 動く絵の中に、ずいっともう一人がわりこむ。ジュリが声だけでなく姿も現した。


「ふぇ~、まぁそんなこといわずになかよくしましょうよぉ。今は落ち着かない気分でしょうけれど、私たちはべつにあなたの敵じゃないんれすよぉ。着替えてくれたら食堂に案内しますねぇ」


 信用ならない。

 食事ていどで手なずけられると軽く見られているようで腹が立つ。

 マカディオスはそっぽをむいた。


「あぁ~、今はまだ教導者への不信感でいっぱいなんれすねぇ。そうれすよねぇ、仕方がないれすよ、その気持ちわかります。そうだとしても、そこにいるだけじゃ何もならないじゃないれすかぁ? じゃあこう考えてみるのはどうれしょぉ? 自分の目と足で憎い正答の教導者の施設を探りにいくチャンスだって。そのチャンスをつかむかムダにするかは、あなた自身で決めることれすけど」


 ジュリの手の平の上で転がされている気がしないでもないが、このまま部屋にとどまっても意味がないのはそのとおりだ。

 のっそりと立ち上がる。その動きを背中の機械はいっさい邪魔しなかった。

 棚の引き出しを開けてみる。用意されていた着替えの服は比較的大きめではあったが、どう考えてもマカディオスのサイズにあっていなかった。


「小さくて着られねえよ」


「あ~、ごめんなさぁい。それが正答の教導者が提供できる一番大きなサイズなんれすぅ」


「あなたの体格が規格外なのですよ」


 形の上だけでも一応すまなさそうな姿勢を見せるジュリに対して、エマはすげなく切り捨てる。


「服にあわせて体をちぢめろってのかよ」


「はい。可能であればそうしてください。平均から大きく逸脱した体格は減点対象です」


 とんでもない場所にきてしまった。




 いつもの格好に名札だけつければよい、ということに落ち着いた。木でも布でもない奇妙な素材でできた名札だ。菌糸ブロックの手触りとも違う。

 ドアの向こうではエマとジュリが待っていた。


「はぁい。それじゃ迷子にならないでついてきてくださいねぇ」


 にこやかなジュリが先導し、背後をエマに見張られる。そんなスタイルでマカディオスの学舎見学ツアーがはじまった。

 ジュリが釘をさす。


「これはすんごく大事な話なんれすけどぉ。逃げようなんてダメれすからねぇ。どうせ敷地内から勝手に出ると動けなくなっちゃいますので。あなたへの待遇も変えなくちゃいけませぇん」


 矯正学舎はマカディオスの想像を上回る巨大な建物のようだ。まさかウィッテンペンの屋敷よりも広いだなんて。

 けれど豪華さなら魔女の勝ちだ。小鬼の家にあるような温かみもない。

 塗装がひびわれた灰色がかった古い壁。大勢の人が歩いてすり減ったり剥がれたツルツルの床。あらゆるものが効率重視でそっけない。


 用心深くキョロキョロしながら歩くうちに食堂へと連れてこられた。

 よそよそしく無機質な建物の中でも、食事の匂いだけは温かく優しげだった。つい気がゆるみそうになる。ここは卑劣な連中の拠点だというのに。

 そんな憎いヤツらでも、安っぽい食堂でほんわりと湯気を立てたミートソーススパゲッティや白身魚のフライをもぐもぐ食べているのが、とても奇怪で不思議な光景に思えた。


「あなたの体格から算出された一日あたりの目標摂取カロリーは8000kcalです。これも規格外ですので存在価値(スコア)の減点となります。が、食事の拒否は健康をそこなうのできちんと規定量を食べてください」


 なんなんだここは。

 頭も心もぐちゃぐちゃになる。

 立ち尽くすマカディオスをジュリはただ静かに見守るだけだったが、エマは声をかけてきた。


「わり切れないものですよね。そういう時、私も判断に迷い立ち尽くすしかありませんでした。でも大丈夫ですよ」


 まさかこの堅物からそんな思いやりの言葉が向けられるとは思わず、マカディオスは返事につまった。エマは淡々と自分の話を進めていく。聞き取りにくい早口でカタカタと言葉が飛び出した。


「8000kcalは三食でわり切ることができず非常に気持ちが悪いですが、間食を追加して数値を調整することで目標値を厳密に摂取することができます。問題ありません」


「……エマさぁん」


 そういうことではない、というマカディオスの気持ちを代弁するかのように、ジュリがぼやいてくれた。


 食べる量まで管理されるのにもげんなりするし、とてもここで平穏に食事ができる気がしない。

 むこうの席でぼんやりした顔でチキンのクリーム煮をスプーンですくっている青年も。

 お箸を使って定食の焼き魚の骨を器用に取り除いている初老の女も。

 恨みはないし、はじめて会う人たちだ。でも同じだ。昨晩いきなり家に攻めこんできたアイツと同じ服を着ている。

 消化しきれない無数の激情で腹の中が煮えくり返る。


挿絵(By みてみん)


 本当に困惑することの連続だ。あの時あんなことをしなければと後悔し続けている。怒りをぶつけられるものはどこだろう。今すぐに小鬼の家に帰りたい。それができないという絶望。

 体の中に、こんな気持ちをおさめておける場所はどこにもない。


 怒りの火を消そうと水を少し飲んだ。

 飲まず食わずで弱るのは自分だ。感情を抑制して注意深く食事をとるのが、きっと合理的な判断というものなのだろう。わかっているが、そこまで冷静になれない。

 しぶい顔でコップを手にしたマカディオスを見てエマがつぶやく。


「良いですね。水分摂取は重要です。固形物を食べられなくても水分が確保できれば約一ヶ月は生存できるといわれています」


 ため息が出る。

 情報としてエマの言葉は間違っているわけではない。ないのだが、どうもチグハグな違和感が大きい。根本的なズレがある。




 教室はここ。運動場はあっち。トイレはむこうの角を曲がったところで、その隣に医務室。屋上と地下は立ち入り禁止。さっきの食堂とは別に、小さなカフェやパンなどをあつかう売店もある。

 施設内を回って、戻ってきたのは最初の殺風景な個室。


「明日から矯正指導がはじまりますからねぇ。指導といっても、そんなこわいものじゃないんれすぅ。ここでたくさんのことを学んで、ぜひ世の中に役に立つ人になって矯正学舎から旅立ってくださいね」


「ここから出られるのか?」


 正答の教導者たちはマカディオスをずーっと閉じこめるつもりなのかと思っていた。

 ジュリは笑顔で目をそらし、エマは真っすぐこちらを見すえてうなずいた。


「自由を手にしたいのなら社会に適応する能力と人品を示す必要があります」


「この鉄の尻尾も外れるんだろうな」


「その装具は鉄製ではなく、銅を主原料とする合金で作られています」


 エマはどうでもいいことを真顔で指摘し、ジュリは何かいいたげな困ったような顔をするだけで明確な返事をしなかった。




 エマとジュリが立ち去ると、敵意で張りつめていた神経もじょじょにゆるみはじめ、虚無感と空腹がじわりと侵食する。


「……」


 情けない気持ちをごまかそうと、セティノアがひそんでいる鳥笛をそっと指先でなでる。笛の内側からコツリとかすかな振動が返ってきた。

 正答の教導者の目がどこで光っているかわからない。セティノアはしばらく笛の中でひきこもっているのが一番安全だろう。

 合金の尻尾の動力源となっているエセル、ではなくセシル、いやエインセルという魔物もどうしているのか気になった。


 廊下を歩く人の足音が近づいてきて、ノックもなしでドアが開けられた。


「おう。食堂に来てメシを喰わねえで帰ってったな。いったいどういう了見だ」


 小柄で骨太な中年の男がずかずか入ってきた。手には袋を下げている。

 もとは純白だったであろう年季の入った調理衣の上に、これまた長年愛用していると思しき深緑の上着を着こんでいる。頭のてっぺんには毛が生えていなかった。

 あの男やエマやジュリのような正答の教導者のメンバーとは着ているものが違う。食堂のカウンターのむこう側で働いている人たちが、こういう白い服を着ていた気がする。


「変わったナリしてんな。ウラじゃそういう格好が流行ってんのかい? お前さん、物心つかないガキのうちにウラの魔物にさらわれたんじゃねえかって、教導者さんらが話してたぞ。……なんかこっち側の思い出なんかで覚えてることはねえのか? なんだっていい、思い出してみろ」


 卵の中にいた時のことはあんまり覚えてないが、殻を破ってからの記憶は鮮明だ。マカディオスはずっとウラの世界の小鬼の家にいた。

 教導者の情報は間違っている。無責任な憶測が飛びかっているようだ。ウワサ話はあてにならない。


 それよりも、自分を凝視する男の目の真剣さにマカディオスは落ち着かない気分になる。悪意のようなものは感じられない。でも、見えない何かを探るような、運命が織りなす奇跡の糸にすがるような、重苦しい感情がこめられた眼差しだった。


「ウラの世界の飯なんか喰うから、そんなクソバカデカい図体にまで育っちまったんだ。オモテのまっとうなメシを喰え。喰うだろ。喰わなきゃなあ」


 マカディオスの返事もまたず、食堂で働くおじさんは小さな紙に包まれた食べものを取り出した。それをマカディオスに押しつける。受け取らない、という選択肢は考えられないほど強引に。

 なぜかおじさんの手はかすかに震えていた。覆面の巨漢に怯えている風でもないのに。


 正答の教導者たちにまじって食事をする気は起きないが、この人はたぶん彼らとは立場が別だ。

 受け取ったものをながめる。バケットとも食パンともバターロールとも違う、丸っこくて茶色いパンだ。売店にあったものだろうか。

 完全栄養食パーフェクト餡、と紙袋に書かれているのはわかったが、どんな食べものか想像がつかない。

 袋を開けて一口かじる。パン生地の中に、黒く甘いペーストがつめられていた。もしやこれは豆か。豆を甘く煮たものなのか。少し奇妙に思えたが、空腹と無力感にしみわたっていく味だ。


「……うまいか?」


「ん! はじめて食べたけどおいしいな、これ!」


 男の目が見開かれ、絶望に染まっていくのが見えた。へなへなとくずれ落ちる。


「はじめて食べたか……そうか、アンパンはうまいか。よかったな」


 言葉とリアクションが不一致すぎるだろう。明らかにさっきのマカディオスの言葉がきっかけで心が折れたようすだ。かじったパンを片手にマカディオスはうろたえた。


「いやいやいや、どう見てもよかったなって感じじゃねえだろ。どうしたよ、おじさん」


「……バカげた希望を抱いちまった報いだな。いや、わかってたさ。気にすんな。……ずっと昔に、息子が魔物にさらわれたってだけだ」


 男の親指は、目頭をぐっとおさえこんでいる。


「ちっぽけなクツが片っぽ落ちてたが、まだ体は髪の一房だって見つかっちゃいねえんだ。だから、つまりよ、無事なんだ。今も生きてんだ、アイツは。ちゃんと肉や野菜も喰えっつってんのに甘いもんばっか食べたがるしょうもねえガキだったさ。だれに似たんだか骨太で厳つい小僧でよ、ちっこいくせに抱き上げるとこれまたずしりと重てえんだ」


 マカディオスは手にしたパンに視線を落とすしかなかった。


「俺は何を期待してたんだろうな。ずっと昔のことなのに。……いきなりこんな話して悪かったな。お前さんは、俺の倅とはまったく無関係の赤の他人だってのによ。さっさと忘れちまってくれ」


 落胆の足どりでドアへと向かう背中を呼び止めた。


「俺はマカディオス。名前を教えてくれ。おっちゃんと、その子の。もしもウラの世界で会った時に気づけるように」




 一人息子のアンジを失った男、ジョージはさみしげな笑顔で手をふって、部屋から立ち去った。ドアが閉まる前に有益な情報を教えてくれた。


「定食の主食はパンか白米か麦飯か選べっからな。それから無料で大盛りにできる」


「そうなんだ。ありがと」


 静かになった部屋でジョージにもらったパンを味わって食べていく。

 ものすごい悲劇に直面したのは自分たちだけだと思っていた。

 周りはだれも助けてくれないし、自分以外はいつもと変わらぬおだやかな日常を送っている。そんなようすにささくれだった心は逆立った。

 恨みが世界中の人々にまでふくれあがっていた。


 この忌々しい金属の尻尾が外れたら。

 その時は思いっきり暴れてやろうとマカディオスは決めていた。太陽だって叩き落してやるくらい。みんなめちゃくちゃにこわしてやろう。そう怒りをつのらせていた。


 食堂のおじさんの話を聞いてマカディオスも気づく。自分だって他者の悲劇をしることもなく、のどかな平穏を満喫していた一人なのだと。


 ふりかかった災難も、やりきれない気持ちも消えたりしない。

 でもだからって世界をほろぼすこたあねえな、とマカディオスはおじさんからもらったパンをかじりながら考え直す。この甘い豆のパンはきっとアンジが好んだ味なのだろう。

 腹の中へとすっかりおさめる。


 心の奥で恨みが燃えさかったとして、むやみにその対象を広げる意味はない。

 とはいえグツグツとたぎる強大な憎悪から目をそむけ続けるなんてムリな話だ。この傷が癒えるのを時間だけに丸投げする気はない。


 絞りこめ。見きわめろ。狙いすませ。

 討つべき相手を。そのための手段を。

 力を封じられたが、終わりではない。


 無関係の相手に憎しみをふりまくなんて復讐心の浪費だ。本当に許せない相手に力を集約した方がずっといい。

 筋トレも同じである!!!

 鍛えたい筋肉を狙って負荷をかけるのが肝心なのだ。


 復讐は、打ちひしがれた心をふるい立たせる当面の目標でしかない。あの男への報復のためにマカディオスは自分の人生を投げ打つ気はない。より己を高めるための糧にしてやる。より良い自分になるための通過点。ベンチプレスのバーベルにすぎない。憎しみにとらわれるあまり、自分の中でのあの男の存在をむやみに大きくしたくはなかった。


 最優先するのは自分と家族の幸せを取り戻すこと。

 積極的で前向きな復讐者マカディオスは、小鬼の家を襲撃したあの男をコテンパンのボッコボコにしてやろうと心に決めた。

 ヤツがゴミのように土足で踏みにじっていった尊厳を再び輝かせるために。

 どこにあるかわからない監視の目を警戒しながら、セティノアがかくれひそんだ鳥笛をそっとにぎりしめた。

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