08話 活気あふれるギルド
とある国のギルドの中。
そこでは、様々な格好をした冒険者が仕事の依頼や報告をしていた。
そのギルドの中にある提示版の前では、今まさに仕事を探す二人の男の姿があった。一人は剣を腰に携えた男。もう一人は、フードを被り、布で出来た服を纏っているが、胸の辺りの隙間から下に皮の胸当てを着けていることが窺えた。そして、腰の左右には短刀を携えている。
「はぁー、何か割のいい仕事はないもんかねー。どうしてこんなに金がないんだよ!」
剣を携えた男がぼやいた。
「それは、お前が散財するからだろう」
「そういうお前は金があるのかよ? どうせ、酒代に費やしてないんだろ?」
「うっ……その通りだ……」
二人は掲示板を眺めながら大きなため息をついた。
「なあ、前々から思っていたんだが、なんでギルドの依頼の中には魔物討伐だけでなく、草むしりやどぶさらい何かの依頼まであるんだ?」
剣を携えた男が疑問を投げかけた。その疑問にもう一人の男も疑問に思う。
「そう言われれば何であるんだか分からないな。護衛とか村の見回りなどなら分かるんだが……」
「それは、ギルドが発足された時の名残だ」
ふいに、後方から聞こえてきた答えに二人は反応して振り返った。そこには、ガタイのいい中年男性がいた。
「「ギルド長!?」」
二人の言う通り、後ろにいた男は今いる場所の長であり、凄腕の元冒険者でもあった。
「えーと、名残りとはどういったことなんですかね?」
剣を携えた男が詳細を尋ねる。
「そのままの意味だ。発足した時代には魔物なんかいなくてな。元々は何でも屋みたいなことをしていたんだ」
「何でも屋って……」
「そんなんで経営は大丈夫だったんですか?」
今度は、短剣を携えた男が尋ねた。
「その時代では元々の依頼料だけでは、足りなかったそうだ。なので、当時のギルド長が自腹である程度受注者に支払っていたようだ」
「自腹ってどんだけ金持ちなんだ……」
剣を携えた男が羨ましそうにぼやいた。
「ん? なんだ? お前たち創業者の事も知らないのか? 彼女は商会長でもあったんだぞ」
「商会長?」
「今でもある商会だ。うちのギルドにも物品を卸して貰っているところだ」
「それって……あの商会ですか?」
短剣を携えた男には、心当たりがあったらしくギルド長に確認する。
「そうだ」
「このギルドにも卸している商会? ……げっ! それって世界中に支部がある、あの商会か!?」
遅れて、もう一人の男が答えを導き出した。
「そんな商会のお嬢様が、慈善事業のようなことを始めたのがギルドの始まりだったとは……金持ちの考えることは分からないな」
「まったくだ」
二人は、首を縦に振って頷き合った。
「彼女が何を思ったのかは分からないが、手助けしたい何かがあったのではないかと私は推測する」
ギルド長は、はるか過去を思い浮かべながら語った。
「まあ、ギルドの発足についてはこんなところだ。彼女の崇高な意志を引き継いで励めよ」
そう言うとギルド長は、二人を置いて仕事場へと戻っていった。
「崇高な意志ね……俺らにはそんなことよりも目先の金だな」
「確かに……俺たち金ないもんな……」
二人は、またしても掲示板を見つめながら大きなため息をついた。
双月の晩に気をつけて『26話 六分咲き』につきましては9/29(金)の午後17時頃に投稿する予定です。