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07話 聖剣伝説

 ここはとある王国の城下町。

 聖剣伝説で有名な国でもあるこの町に今しがた到着したばかりの六人が楽しそうな声をあげている。


「よし、着いたぞ! ここが君たちが見たいと言っていた聖剣がある国だ」


 赤髪の青年が振り向き、少年たちに説明した。


「ここが聖剣がある国なのか」


 剣を腰に携えた少年が目を輝かせながら町並みを見回す。


「へー、ここが絵本にもなっているあの国なんですか」


 メイスを携えた少年が興味津々に城の方を見ている。


「ここの流行は何かしら」


 流行りの服を纏った少女が行き交う人々を観察する。


「腹減ったな。何処かに飯屋ないかな」


「同じく腹減ったわ。飯にしようぜ!」


 弓を背負った少年が腹を抑えながら店がないかと辺りを見回し、槍を背負った少年は、相槌を打った後に皆に呼びかけた。


「お前ら見事なまでにばらばらだな……いや、二人だけは一致しているのか」


 赤髪の青年は、呆れた顔をしながら笑っている。


「いやいや、ここに来たらまずは聖剣を見るのが先だろ!」


「聖剣は今は見れないはずだな」


「えっ!? なんでなんだ?」


「聖剣は国王が所持しているから、催し物の時か謁見の時くらいしかお目にかかれることはないぞ」


「そ、そんなぁー」


「あー、なんかすまん。そうだ! 模造品なら城下町に売ってるはずだぞ!」


「なんだってー! 早速探してくるわ!!」


「ちょ、ちょっと一人で勝手に……」


 少女の制止も聞かずに、剣士の少年は模造品を求めて走り去ってしまった。


「さて、どうしましょうか」


「俺は久々に知り合いのところにもで顔を出すとするかな。それじゃ、またな!」


 赤髪の青年は、そう言った後にいずこかへと歩いていく。


「なー、自由行動でいいんじゃないか? 俺らは飯食いたいし」


「それなら私は服屋巡りでもしようかな」


「では、僕は城の庭を遠目から眺めて見ますかね。ふふふ、初代国王の父の要望で残した森がどんなものなのか気になりますし」


「城の庭に森なんかあるんだ……なんか変わってる国なんだな」


「気になりますか? 一緒に見に行きますか? その森はですね……」


 メイスを携えた少年が早口で捲し立てる。


「いや、俺は腹減ってるから! 今すぐ食べたいから!」


「そうですか……」


 弓を背負った少年の返答に対して、先ほどまで熱弁していた少年は寂しそうな顔をしながら言った。


「じゃあ、俺らは行くから! ギルドで集合な! 行こうぜ!!」


「あ、ああ!」


 飯組の二人は逃げるように、その場を後にした。


「それじゃあ、私も行くわね」


「分かりました。では後ほどギルドで会いましょう」


 残った二人もそれぞれ目的の場所を目指して歩き出す。



 ◇



 一方その頃、模造品を求めて走り出した少年は武器屋に訪れていた。


「これが聖剣か」


 少年は樽の中に乱雑に置かれている模造品の内の一つを取り出し、まじまじと見つめる。その様子を見ていた店主が声をかける。


「それは土産物の観賞品だ。実用品はこっちの棚にある」


「おっさん、それを持ってみてもいいか?」


 少年は素早く店主の元へと駆け寄ると、目を輝かせながら尋ねた。


「お、おう、別に構わんが……」


 店主は気圧されながらも、棚から模造品を取り出して少年に手渡した。


「これが聖剣の重みか! なんだか力が漲ってくる気がするぞ」


「馬鹿を言え! そこらにある鋼の剣と同じ素材を使った物にそんな効果があるものか」


「そうなのか……こんなにカッコいいのにな……」


「まぁ、装飾に関しては本物と一緒だがな」


「えっ!? それはつまり本物を見たことがあるってことなのか?」


「当たり前だろう。見なければ模造品など作れん」


「なあなあ、本物はどんな感じだったんだ?」


「分かったから、少し離れろ」


 いつ間にやら、興奮した少年の顔が店主の目の前まで迫っていた。


「で、どんな感じなんだ?」


 少しだけ距離を取った少年が再度尋ねた。


「そうだな。一言で言うなら訳が分からないだ」


「……? つまりどういうことなんだ?」


「ああ、すまん。これじゃ分らないよな。刀身が淡く発光していて何の材質で出来ているのか分からないんだ」


「なんだそれ、まるで魔剣みたいだな」


「魔剣か。確かにそれに近いかもしれんな。噂じゃ光るだけじゃなく活力まで取り戻せる効果まであると言うしな」


「そんな効果まであるのか!」


「まぁ、噂だから本当かどうか分らんがな」


「なんだ、本当かどうか分からないのか。じゃあ、聖剣が空から降ってきて王様を助けたっていうのも当てにならないな」


「いや、それは本当だぞ。建国記にも載っているからな」


「マジかよ。俺にも降ってきてくれ」


「今降られたら天井に穴が開いちまうから勘弁してくれ。んでだ、俺が知る限りでは聖剣ってやつは集落を助けるために戦った少年の元に降ってきたってことと、材質は不明だってこと。これが俺の知る聖剣についてだ。ところで模造品は買うのか?」


「もちろん買う! そしていつか俺は英雄になってみせる!」


「ははは、未来の英雄か。よし、気に入った。少しだけ安くしてやろう。未来の英雄様に投資ってやつだ」


「本当か? おっさん、ありがとう」


 店主は代金を受け取ると、少年に疑問を投げかけた。


「ところで坊主は一人なのか?」


「ん? ちゃんと仲間がいるぞ! ってしまった! 聖剣のことだけ考えてたせいで完全に忘れてた……」


「……はぐれたならギルドにでもいるんじゃないか?」


「そうか! ギルドか!」


 そう言うと少年は慌てたように店から出て行った。店主は呆れ顔で入り口を見つめながら呟く。


「頑張れよ、未来の英雄」

『双月の晩に気をつけて 22話 五分咲き』は、明日(9/23)の午前8時頃にアップする予定です。

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