04話 白虹
ここは、とある王都。
今日は、戴冠式が行われるとあってか、朝から普段以上の賑わいを見せている。
そんな中に、丁度到着したばかりの家族連れの旅行客が、都の入り口付近にいた。
「うわぁ、王都ってすごいんだね。お父さん、お母さん」
「確かに凄いわね。圧巻の景色だわ」
「いや、普段も賑わってるけど、これは戴冠式の影響だね」
「へぇー、そうなんだ」
「お、うまそうな匂いがするぞ。みんなこっちへきて。早く!」
「もう、お兄ちゃん。食い意地張りすぎ!」
「燥ぐのはいいが、迷子になるなよ」
「今行くから、そんなに急かさないで」
少年が先導し、家族は匂いの元へと辿り着いた。
噴水がある広場には、色々な出店が出ており少年が気になった匂いは焼き菓子の店だった。
「確かにいい匂いね。何か買いましょうか」
「「やったー」」
二人は、大喜びで焼き菓子の出店へと並んでいった。
「いらっしゃい、どれになさいますか?」
「んー、色々あって迷うなぁ」
「あれ? 王冠みたいなのがあるよ」
「お! お嬢ちゃん、これが気になるのかい?」
「うん」
「これはね、昔に『賢王』と称えられた偉い王様がいてね。その方が孤児院へよくこれを恵んで下さっていたことから、その王様の誕生の日や戴冠式には、コレを食べる風習になったんだよ」
「へぇ、知らなかったな」
「そんな逸話があったのね」
「じゃあ、私これにする」
「おれも、おれも!」
「はいはい、それじゃあソレを二つ下さいな。私たちは……これとこれね」
「はいよ、まいどありー。あ、そうそう、もし戴冠式を見に行くなら、もう少しで始まると思うから今から行くといいよ。場所は向こうだからね」
店主は、場所を指示した。
「丁度、行こうと思っていたんです。態々有難う御座います」
「いえいえ」
家族は、店主が指示してくれた、戴冠式が行われる会場付近へと辿り着いた。
「うおおお、何この壁でけぇ!」
「うわー、天まで届きそうな高さ」
「ふふふ、本当ね」
「さあ、ここの門を潜れば神殿が見えてくるはずだぞ」
人の流れに沿うように、家族は壁の中へと入っていった。
中に入ると、人が大勢集まっており、その人だかりの中央には神殿が建っていた。
「うわー、何あれ? お城みたいなのがある」
「あれはね、神殿って言うんだよ。あそこの二階にあるバルコニーで戴冠式が行われるんだよ」
「そうなんだ」
「もう少し近くに寄ってみましょうか」
「そうだな」
「あっち空いてるよ」
家族は、空いている場所へ移動すると……。
「お、そろそろ始まるみたいだぞ」
「そういや、今回の王になられるお方は、賢王の再来と呼ばれているらしいな」
そんな声が聞こえてきた。
家族は移動後、バルコニーを見つめていた。
開幕の合図と共に、王と王子が姿を現し、歓声が上がった。
暫くすると王子が跪き、王が王子の頭の上に王冠を被せた。
そして新王が立ち上がり、腰に下げた剣を抜く。
「何あの剣かっこいい!」
少年が、目を輝かせながら言った。
「ああ、あの剣は、王家に伝わる水属性の宝剣なんだ。元は確か……さっき、お店で出てきた話の『賢王』と呼ばれた方の愛剣だったはずだよ」
「へえー、水属性の宝剣か。俺もいつかあんな剣を持って冒険してみたいな」
「お兄ちゃん、英雄のお話好きだもんね」
「ほら、あなた達あれを見て」
新王が、剣を晴れ渡る空へと掲げていると、空に薄く霧が広がっていく。
そして……。
「え? 白い虹だぁ。何てきれいなの」
「す……すげー! 宝剣はあんなことまで出来るのか!」
「あれはね、霧虹または、白虹と呼ばれるものでね。山でも見れることがあるんだよ。それを宝剣を使って意図的に発生させる習わしになっているんだ」
「習わし?」
「そう、習わし。これまた『賢王』時代からの習慣らしいんだ」
「賢王様って凄いんだなぁ」
暫くすると戴冠式が終わり、観衆が散り散りになっていった。
「私、疲れちゃった」
「俺も……」
「そうね、そろそろ宿に行って休みましょうか。観光の続きは、また明日にしましょう」
「そうだな」
家族は、宿へと歩いていく。
こうして、晴れやかな空の下で行われていた、戴冠式の一日は幕を閉じていった――。