02話 夢の箱
ここは、とある国の居酒屋の中。
戦士の風貌の男や杖をもった女性など、様々恰好をした男女や種族で賑わいを見せている。
その店テーブルの席にひげ面で小柄な男が酒を片手に、仲間たちと談笑をしていた。
「ここの料理は、酒によく合って樽ごとでもいけるな」などと言っていると、赤髪でツンツン頭の青年が、店に入るや否やひげ面の男に駆け寄ってきた。
「おっさん、すごいもんを見つけちまった。こいつを見てくれ」
青年は、八重歯を覗かせながら背中にしょっていた剣を見せてきた。
燃えるような紅い剣がひげ面の男の前に差し出される。
「こいつは魔剣じゃないか。まだ数件しか発掘報告がないものを、まさかこの目でみられるとは……」
「やっぱりこれが噂の魔剣だったのか」
「その魔剣何処で手に入れたんですか?」
いつの間にか出来ていた野次馬の一人から質問が来た。
「ああ、これはな最近発見された北にあるダンジョンに修行の為に行ってた時に、たまたま見つけた箱の中に入っていたんだ」
「へぇー、あのダンジョンにそんなものがあったのか」
「私たちも今度行ってみましょう」
などと野次馬たちの声が聞こえてきた。
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うだつの上がらない冒険者の男が二人、隅のほうの席で紅い剣を羨ましそうに見つめていた。
剣士風の男が口を開く。
「なぁ、あいつの言っているダンジョン最近見つかったばかりだしまだお宝あるんじゃないか?」
「確かに見つかって間もないから可能性が高いな」と肉を食べながら、斥候風の男が答える。
「なら今から行くぞ!善は急げだ!!」
「ちょ、ちょっと、待て飯がまだおわってない」
慌てて残りを流し込むように食べると、二人は店を後にする。
ダンジョン内を探索し始めてから数時間後
「なぁ、見つかりそうか?」
剣士風の男が、斥候に尋ねた。
「行き止まりに仕掛け扉があるかもっと思ったんだがなぁ」
斥候は、そう呟きながら踵を返すと、剣士風の男にぶつかってしまった。
「おっと、すまん」
その時、『チャリーン』と何かが落ちる音が聞こえてきた。
どうやら、仕掛けがあるか探してる間に、剣士風の男がコイントスで暇を潰していたらしい。
「まってくれ~、俺の貴重なカネェェェ!!」
斥候は、『そんなに貴重なものなら投げて遊ばなければいいのに』と思いつつ後を追う。
コインが右に転がって壁にぶつかりそうになっていたので、屈みながら拾おうとするとコインが壁に吸い込まれるのに消えていった。
後を追うように剣士風の男が体勢を崩しながら姿を消す。どうやら屈まないと通れないほどの高さに入り口がある隠し部屋のようだ。
「大丈夫か?」
声をかけると同時位に歓喜の声が聞こえてきた。
「うおおおおおおおおお、遂に見つけたぞ!!」
歓喜の声に驚きながらも隠し部屋へと入っていく。
そこには、何かの金属で出来た宝箱がここにいるぞっとばかりにただずんでいた。
「こんな隠し部屋にあるんだ。絶対に貴重なものが入っているに違いない。俺たちの時代が遂に始まるぞ!!」
「よ……よし、開けるぞ!」
震える手でそっと宝箱を開く。それを唾を飲み込みながら見つめる剣士風の男。
『ギィィィィ』っと音を立てながら、希望が姿を現していく。
斥候が暫く硬直したあと、口を開く。
「…………くさ!?」
剣士風の男は訝し気に箱の中を覗き込む。中には、見たことのある草が入っていた。そう、誰しもが一度は依頼で目にする薬草である。しかもそこにあるのは、なんと枯れ果てた薬草だ。
「ハァァァァァァ⁉ 何で薬草が? しかも枯れ果てて使い物にならないじゃねぇか!!」
宝箱をそのまま、そっと閉じ二人は、落胆のあまりその場に膝をついてしまった。
暫くして気を持ち直し、二人は立ち上がる。
「あ~、何処かに小銭でもおちてないものかねぇ」と剣士風の男がぼやいた。
「目標が小さくなりすぎてるぞ」
斥候の男は、呆れ顔で答えながら、二人は隠し部屋を去っていった。
そんな二人を見つめるように、そっと閉じられた宝箱が寂しげに残っているのだった……。