第2話 「苦痛」
母さんが死んだその日、母さんの死体は外に放り出されて、その横で俺はリンチにあった。
仕事を丸一日ほっぽって、花を摘んでのこのこ帰ってきたお仕置きだ。
この農地を仕切る3人の男が思い思いに俺をいたぶる。もちろん、3人は俺たちを支配する権限を持つ、 緑の髪をしている。
一人が俺の腹を足でえぐりあげる。あまりの衝撃に、胃液を吐く。なにも食べていないのに、空っぽの腹からさらに胃液まで出され、究極の空腹感に襲われた。だが、四方八方から飛んでくる3人の成人男性の拳や足蹴りにより、空腹感はまぎれた。
「おい、もうこいつ母親もいないんだし、死ぬまで痛めつけようぜ。行きつけのバーの子に振られて腹立ってんだ」
「ああ、あの子? あんなに貢いでたのに振られたんだ」
飲み屋で談笑するみたいに、平和に、そいつは俺の頭を踏みつけながら、振られた男の話に耳を傾けていた。
「ま、殺してもいいんじゃね? 奴隷なんかまた買えばいいんだし」
男たちは目を合わせ、にいっと同時に笑う。
その目は、肉食獣のようだった。
「やめてください!お願いします!」
懇願する俺に冷笑を投げかけ、男が俺の伸びた爪をつまむ。逃げたいが、他の男が俺の腕を地面にしっかりと押さえつけている。8歳児が成人男性にかなうはずがない。
「どうせ死ぬんだから、爪なんていらないだろ」
男は片方の手で指を抑え、もう片方の手で一気に__
ぶちっ
爪が剝がされる。一瞬では剥がれず、まだ根本の部分が頼りなく指にひっついている。
「ああああああああああ!!!」
指先が熱くなる。夜風が吹いてきて爪があった場所を撫でる。それだけでびりびりと痺れるような痛みが襲ってくる。
だが、これは地獄ではなかった。まだ地獄の門をノックしただけだったのだ。
何度泣いても、許しを乞うても男たちはゲラゲラ笑いながら俺の爪を一枚一枚丁寧に剥がしていく。
痛みに耐えるために奥歯を嚙み締めすぎて、顎が痛くなる。死んでやろうと舌を噛んでも、舌は案外固くゴムべらのように歯を跳ね返した。
右手の爪を全部剥がされ、指先に咲いた真っ赤な花を眺めた。
腕を抑えていた男は空いてる方の手で近くにあったオイルランプの扉を開いた。ランプの中心では火がぼうぼうと踊っている。
まさか
男は間髪入れずに爪を剥がした俺の手をそこに突っ込んだ。
「いたい! ごめんなさい! いたあああああああああああ!」
あまりの痛さで一瞬意識が飛ぶが、すぐに戻った。
熱い熱い熱い熱い熱い熱い
わけのわからないことをわめきながら泣くと、男たちが笑った。
口から白い泡が出てきて、呼吸が苦しくなっていく。
痛い痛い痛い痛い。
手は入念に焼かれ、そのあとも男たちは俺の体をまんべんなく蹴りつくし体のすべてにあざができると、あざをえぐるように蹴ってきた。
朦朧とする意識の中で、隣で放置されている母さんの死体を見る。
青白く、無機質で不気味な置物のようだった。
俺も今からこうなるのか。早くなってくれ。もうたくさんだ。
こんな世界、違う。違う。違う。
ふと、前世で死んだあと、泣いていた女の子の言葉を思い出す。
__あなたは、異世界に行って。苦しむと思う。でもそれがあなたの罪だから__
あの子は神様だったのだろうか。
なんで、俺が苦しまなきゃ。俺はなんの罪も犯していない。
なんで、痛い。苦しい。痛い。痛い。なんで。痛い。
男が俺の頭を思い切り蹴とばした。
世界が逆さまになる。