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転生ライトの罪架  作者: 平山大翔
1/4

プロローグ 案の定、異世界

プロローグ


 俺は死体の山に登った。歩くたびにぐにゃりとした肉の感覚が足に食い込む。

 頭がぐらぐらする。げほっ、とむせこむと口から赤い液体が出る。

 ダメだ。魂の負荷が強すぎた。

 死体の山の頂点に着くと、景色を眺めた。

 地獄だった。

 血と鉄のにおい、薬莢にあらゆるところで爆発が起こっている。敵の魔導地雷が次々に発動していってるのだ。

 俺に照準を向けて発砲しようとした敵兵が数人。すぐに魔導を発動して彼らを火だるまにする。敵兵はもがき苦しんだが、やがて真っ黒なかたまりになってぼとりと地面に倒れこむ。

 ぼんやりと、地獄を見る。

 数年前、俺が出て行った故郷。電車に乗って徴兵に向かう俺を、泣きながら見送ってくれた人のいる街。

 ここはもう、俺の知っている街ではなくなっていた。観光地だった時計台は瓦礫へと姿を変え、川は死体が流れていき、道には市民の死体が転がり、空は煙で見えない。



 やっと分かった。


「これが俺の罪なんだ」


 なんで今まで気づかなかった。

 違う。

 見て見ぬふりをしてたんだ。

 俺は

 俺は

 何人殺した?

 なんのために?


「もうそんなものはどうでもいい」


 楽になりたい。

 早く楽に。

 もう嫌だ。

 なんにも考えたくない。

 なんにも。

 もう。

 


******************************




 東京 某日


 特にあてもなく外をぶらぶらしていた。

道に植えられている木々は俺の気分を無視して元気そうにわさわさわさわさ草を生やしている。

陽は空の真上に君臨している時間帯。

ふと、10歳ぐらいの女の子が俺の隣まで走って来て、後ろを向き、


「お母さん!早く早く!」


なんとはなしに振り返ると、彼女のお父さんとお母さんらしき人が全然早く早く!せずに歩いてきた。女の子も、両親もにこにこしている。


にこにこにこにこにこにこ


「…………はあ」

 腹にどす黒いなにかがあふれてきたのを感じて、足早にその場を去る。


 別に俺の人生は不幸ではない。

普通の人生だ。

 普通の頭脳。普通の成績。普通の運動神経。

 だが陰キャのオタクなもので、教室の中心で運動部の仲間とわいわいする系というよりは、教室の隅のほうでアニメ同好会の仲間とニマニマする系であった。

 だからといって、女子にきもがられるわけでも運動部の陽キャにいじられるでもなく、普段は接触もなくたまに共通の話題があるとそれについて笑い合う程度だった。

 本当に、普通の学生生活なのだ。

 毎日毎日。

 学校に行き、授業を受け、教室の隅でニマニマしながら仲間と今週のアニメの展開について議論し、学校が終わると夕焼けに染まった道を歩いて・・・そしてふと思い出すのだ。


 あ、今頃弟は海外で物理学の研究チームに参加して、キャリアを積んでいってるんだな、と。


 そう、俺の弟はチートだった。

 頭脳明晰、特に物理学においては神童と呼ばれているほどの逸材。

 俺と同じ18歳なのに、弟は海外の大学を飛び級で卒業し、意味の分からん横文字が並んだ研究チームに参加し、意味の分からん横文字の論文を発表し、世界中から脚光を浴びている。

 そして圧倒的陽キャ。

 教室の中心でわいわいするタイプなのだ。

 弟とはいえ、俺とあいつは双子なのだ。

 いつぞやは産道から出てくるのが数秒早いか遅いかという差しかなかったのに、今じゃ大天才研究者と地方の偏差値普通の高校に通うオタク君という圧倒的な差が出てしまった。


 両親は弟を溺愛し、そして俺も溺愛していた。

 兄弟格差なんてものは一切なかった。社会的には圧倒的な格差があるくせに。


 舞人。それが弟の名前。

 頼人。これが俺の名前。


「舞人がね、なにやら最近発表した論文で賞をとったんだって」

「あら、頼人。テストの点数良いじゃない! お母さん嬉しいわ」

「舞人ってば、最近は研究室に籠城してずっと研究に没頭してるんだって。ちゃんとご飯食べてるのかしら」

「ほら、頼人。ちゃんとお弁当忘れてるわよ。ほら、ちゃんとご飯食べないと背大きくならないわよ」

「舞人ってば、今度ある女の人に会うからってたっかいスーツ買ったんだって。きっと良いとこのお嬢さんとそういう関係になってるのかしら。ああ、お金持ちの子と結婚して、母さんをセレブにしてほしいわぁ」



 お母さんが言及する俺と舞人の成果の差はあまりにも大きすぎて、そのたびに俺の心で黒いものが煮えくり返る。

 弟ができすぎる。それだけが原因じゃない。

 できすぎる弟が、世界を変えるかもしれない。

 そのことについてなぜかどうしようもなくわびしい気持ちに、置いてかれてる気持ちになる。

 くそ平凡な俺がそんなこと考えるなんておこがましいもいいところだ。

 そんなことを心の中でぶつくさ言いながら、俺はぶらぶらと歩いて行った。あてもなく、ぶらぶらと。

 目的に向かって一直線に進んでいく舞人とは真逆に。

 そのときだった。


 どす。


 鈍い音と共に衝撃がした。背中が突然熱くなり、数秒して熱さが激痛に変わる。


「ああああああああああ!?」


 振り返ると、黒いフードを深くかぶった人が立っていた。男か女か、年齢も、顔も、なにもかも分からない服装。そして手には血まみれの包丁。包丁についてる血は、元をたどれば……………………俺の背中から。

 俺は膝から崩れ落ちる。べしゃっと地面に頬をつけ「いたい・・・うう、ああ」とうめく。痛すぎて叫ぶこともできず、手足をばたつかせて宙をかく。



 痛い。熱い痛い痛い痛い痛い痛い。

 痛い痛い痛い。熱い。死ぬ。

 てかなんだよこいつ、通り魔?

 無差別殺人?

 よりによってなんで俺なんだよ

 なんで、なんで、なんで

 嫌だ!

 死にたくない。死にたくない。死にたくない!

 なんで俺なんだ、なんで俺だ。

 俺じゃなくていいだろ。




 くそ平凡な俺より、チートな弟が殺されるほうが世の中平等ってもんだろ。




 心の中でそう呟いて、自分の性格の悪さに反吐が出て、かと思えば口から血を吐き出して。


 ああ、俺、死ぬんだ。


 通り魔は無言だ。

 人を迎えに来る死神ってのはこういうのなんだろうな。いや、もしやこいつは本当の死神…………


 通り魔は包丁を振り下ろした。


 死ぬ。




********************************






「グスッ、グスッ・・・ひっぐ、うう」


 誰かが泣いている。

 鼻をすする音が聞こえる。


「違うの、私は、ただ」

 女の子とも女の人ともとれる声。


「ごめんなさい、ごめんなさい」


 そんな謝んなよ。つーか泣くなよ。

 童貞の俺の前で泣かないでくれ。どうしたらいいかわかんないから。

 ああ、なんか俺も泣きたくなってきた。

 こういうとき、舞人だったら自然に声をかけて泣き止ますんだろうなぁ。

 あいつ彼女いたっぽいし。なんなら中学生のとき、あいつの部屋からそういうことを彼女と致している声が聞こえてきたし。

 あの日、隣室から聞こえてくる喘ぎ声を聞きながら俺は泣いた。

 あのときの空虚感といったら。なんで同じ環境で生きてきて、あいつと俺でこんなに違うんだって。


 女はまだ、泣いている。


「ごめんなさい。私はただ、ただ、あなたたちに…………いえ、あなたに希望を見出すしかないの。どうすればいいか分からないの。私は、あなたを選んだ。あなたがよかった。あなたしかいなかった」


 なに言ってんだ。

 もういいから。

 泣き止みなよ。

 俺はもういいから。

 刺されたんだから。

 だから…………


「あなたは、異世界に行って。苦しむと思う。でもそれがあなたの罪だから」


 女はそういって、また鼻をすする。




 ん?異世界?

 つーかあんた誰?

 普通刺されたんだから救急車とかが来るべきだろ。なんであんたが来るんだよ。救急車呼べよ。


「でもあなたは進むしかないの。それがあなたの運命だから」

 だからなんだよ。


 意味分かんねーよ。


 意識が途切れた。





**************************






 カッ!


 俺は目を見開き、自分がよだれを垂らしていることに気づく。

 あー、刺されて長い間眠ってたのか。

 瞬間的にそう考えて、瞬間的に疑問を持った。

 天井汚くね?


 そう。

 俺は刺されて運ばれたのだから、きっとここは病院に違いない。なのに、目が覚めて俺の視界に入った天井はあまりにも汚すぎた。見たこともないでっかい蜘蛛の巣が部屋の四隅を陣取っていて、かびた木でできている天井は今にも崩れてきそうなぐらいボロボロだった。

 なんだここ。

 とりあえずよだれ拭こ。

 よだれを拭くべく腕をあげると、自分の腕が視界に入る。



「・・・は?・・・は!?」



 俺の腕はちぎりパンのごとくむちむちで「あらかわいいぇ」と叫んでしまいたくなるほどちっちゃかった。まるで赤ちゃんの腕だ。いや、これは赤ちゃんの手だ。


 え?

 は?


 手をぐーぱーぐーぱーと開いたり閉じたりする。まごうことなき俺の手だ。


「ありゃりゃあぇああぇあ」


 あらかわいいぇと叫んでみると、こんな情けない滑舌の、赤ちゃんの声が俺の口から出てきた。


 そのとき、意識を失う前に聞いた女の声を思い出した。


____あなたは、異世界に行って。苦しむと思う。でもそれがあなたの罪だから____


 え?

 てことは俺。

 え?まじで?


「いぇあいえんえんいたぇおおぉ!?(異世界転生したってことぉ!?)」



 そのときだった。

 バタンとドアが開き、女の人が入ってきて、


「エンドゥルッセンダ、ハアエェン!?」


 と訳の分からん叫び声をあげてきた。

 彼女はボロきれ同然の服ともよべない布に身を包んだ女性が立っていた。30代後半といったところか。ぼさぼさの金髪に、灰色の目。やせ細っていて、目の下にはくっきりとクマがある。ぐったりしていて、顔は怒りに満ち満ちているが、俺を見下ろすその目は死んでいた。まるで、ここではないどこかを見ているような、この世界のどこにも希望を見出していない目。


 どうやらこの人が俺の母さんらしい。


 普通、異世界転生した先でのお母さんってのは巨乳のおっとり美人って相場が決まっているもんだが、現実はそううまくいかないようだ。

 いかんせん俺は赤ん坊なもんだから起き上がることもできず、横になったまま辺りを見回す。

 俺は床の上に敷いたぼろ布の上に寝かされている。俺をくるんでいる布はぞうきんのような色で、ぞうきんのようなにおいだった。実質ぞうきんだ。

 どうやら家計は火の車のようだ。

 貧困も貧困。

 異世界転生っていったら、貴族の生まれとかになることがけっこう多いのに。

 まあいい。



「ああ、おんぎゃ、うう」



 俺は母親に向かって手を伸ばし、あうあうとうめく。

 喜べぇと思っての行動だったが、母親は鬼のような形相になり、



「アギットゥルメ!アンリャ!バッチェ!」



 怒鳴られた。かなりご立腹のようだ。

 しかし困った。まったく母さんの言葉が理解できない。1からこの世界の言語を覚えなくちゃいかんのか。

 まあ、自力で動けるようになるまでは母さんに言葉を教えてもらって、5歳ぐらいから元いた世界の知識を使って無双するとするか。

 そう考えながらあうあううめいていたそのとき、


 パンッ!


 母さんの平手打ちが俺の頬にショットインした。衝撃の数秒後に、頬がジンと熱を帯びてくる。

 赤ちゃんだからか、条件反射で泣いてしまう。

 泣き声が耳障りだったのか、再び母さんが俺の頬を打つ。

 まじかよこいつ。

 この世界では虐待が日常茶飯事なのか?

 いや、というかこの貧困具合と家や服の状況的に、母さんは金銭面でかなりの精神的ストレスを抱えているのか。

 でも大丈夫。俺には元いた世界の知識があるから、それを活用して兵器なりなんなり作ってがっぽり儲けてやる。

 早く俺が世紀の大天才として大金を稼いであげなくては。


 ああ、前の人生のほうがよかった。





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