協力
「カナヤマさん。一つ伺いたいことがあるのですが……」
俺は思い切って質問を投げかけてみることにした。俺たちがここサマンダルの地に赴いたのは、ランカスターの語っていた「失われし七氏族」を探す為である。戦争を回避するために来たわけでも、サマンダル帝国を変革する為に来たわけでもない。
「……何なりと。お答えできる範囲であれば」
「カヤンという名を、ご存じではありませんか?」
サマンダルのカヤン。失われし七氏族の一人、この世界を創造した神々の一柱である。軍の高官とあれば学問にも精通している筈だから、もしかすると、俺たちが求めていた回答を得られるかもしれない。
「……カヤン? 貴方が何を知りたいのか分かりませんが、カヤンと言えば確か宗教用語の筈ですね。語源は存じませんが、永遠の命を表す言葉であると認識しております」
「なるほど。……いえ、我々がここに来た理由に関係するのですが。サマンダルの古代史について調査をしたいと考えておりまして」
「古代史ですか? それなら帝都に向かわれるが宜しいかと。私の個人的な友人に、古代史研究に従事する者がおります。紹介状を書いても良いですが」
「それは有難い。是非お願いしたいです」
「……不躾な質問かもしれませんが、我が国の古代史を調べて一体何を?」
まあ、そこは気になるだろう。しかしまともに答えたところで相手にされる筈がない。正直俺自身でさえ、「失われし七氏族」などといった神話的な物語など信用しきれていないのだから。
「騎士会の教義をより確固たるものにするためです。またその過程で、貴国の要人と独自のパイプを築ければと考えております」
それらしい理由をでっち上げてみたものの、やはりカナヤマは腑に落ちない様子であった。
「……なるほど。まあとりあえず、彼にはこちらから話を伝えておきましょう。かなりの変人ですが、必ず力になってくれるはずです。……それで、出発の日時は?」
「出来るだけ早い方が。そちらにとっても良いでしょう?」
騎士会支部の空き部屋に案内された俺たちは、やっと肩の荷が下りた気分でソファに腰掛けた。長きにわたる船旅に軍高官との会食。アランは割に元気な様子であったが、俺とリズは既に疲労の限界を迎えていた。
「ごめんなさい、気分が悪くて。少し寝るわ」
「ああ、遠慮しないで。ゆっくりお休み」
リズはこくりと頷くと、備え付けのベッドに潜りこんでしまった。
「流石に疲れたな。そこのマッチ取ってくれ」
背の低いテーブルに置かれたマッチ箱を指差すアラン。中央にはきれいに磨かれたガラス製の灰皿も用意されている。
「騎士会は禁煙を掲げてるんじゃなかったか?」
「知った事か。煙草でも吞まねえとやってらんねえよ」
マッチを受け取ったアランは慣れた手つきで火を灯し、実にうまそうに煙を吸い込んだ。
「お前もやるか?」
「やらないよ。まだ16だって」
「俺がそんくらいの頃にゃもう吸ってたぜ。まあ、時代が違えか……」
近年巷では、煙草の有害性を訴える声がちらほらと現れ始めている。未成年喫煙を取り締まる法律が出来たのもわりと最近のことであるし、父の学生時代にはまだ法規制など存在しなかったというから、アランの話も頷けるものである。
「……あのカナヤマとかいう男、信用できると思うか?」
「分からねえが、少なくとも俺たちに与えられた選択肢はそう多くねえ。奴の協力に乗る他に、安全な手段があるなら良いが……。最悪俺の能力でどうにかするさ」
正直俺たちは、この国について有益な情報を持ち合わせていない。サマンダルは大国だが、遠く離れた極東の島国故、西方世界における関心はさほど高くないのである。俺はジャーナリストとして、ある程度この国の事情を調べはしていたが、流石に政府の内部事情にまでは通じていない。
「帝都か……」




