シーラ植民地軍
騎士会支部の食堂にて、俺たちは盛大な歓迎を受けることとなった。案内されるがままに着席すると、目の前に見慣れぬ東方料理の数々が現れる。ルネスタンの一流料理ほど盛り付けの華やかさは無いが、見たことのない魚介料理、とりわけ生魚の切り身には少しばかり驚かされるのであった。
円卓には騎士会のローブを纏った数名の他、恐らくサマンダルの軍人であろう軍服姿の男も複数見受けられた。皆左胸にバッジをつけており、それなりの階級であることが見て取れる。
「リズ王女、お目に懸かれ至極光栄に存じます。サマンダル帝国陸軍所属、シーラ植民地軍司令官のカナヤマと申します。隣におりますのは高級参謀の……」
カナヤマと名乗る男は、自らの身分を明かした上で部下の紹介を終え、リズの前で深々と頭を垂れるのであった。
「……何故、私たちに協力してくれるのですか?」
リズの疑問は極めて率直なものである。俺自身も、まさかサマンダル帝国軍の上層部に与する人物が協力してくれるなんて思いもしていなかった。
「その話は少々込み入ります故、一先ずお食事を先に……」
そう言ってサマンダル陸軍の軍人たち、そして騎士会のメンバー数名が席に着いた。
「ここでは本国の新鮮な食材が手に入りませんので、多少味は劣りますが。一応腕のある料理人に作らせましたのでね。お楽しみ頂けると幸いです」
俺は向こう側の人間が料理に手を付けるのを確認してから、恐る恐る魚の切り身に手を伸ばした。サマンダル人が使用しているのは『箸』と呼ばれる二本の棒である。彼らはこれを器用に動かしながら、料理を摘まんで口に放り込む。有難いことに、俺たちの目の前にはスプーンとフォークが置かれている為、その不思議な道具に触れることは無かったのだが。この国ではナイフを使用する文化すら無いらしい。全ての料理は小分けに用意されており、一口で食べられる食材が数多くの小鉢に盛り付けられている。
「こりゃ絶品だ。ちとフォークじゃ食べにくいが……」
アランは夢中になってサマンダル料理に舌鼓を打っている。その様子を見て、カナヤマは満足げに頷いた。
「ご満足いただけ誠に嬉しく存じます。いやはや、実は皆様の慣れ親しんだ西方料理をお出しすることも出来たのですが、きっと王女様はじめ上流階級の皆様は一流の西方料理をご存じでしょうからね。ならばいっそ、こちらは一流の東方料理でおもてなしするべきと判断致した次第にございます」
まあ確かに、少なくとも俺やリズはユトダイン王国の上流階級に位置する人間である。とりわけリズは国王の娘なのだから、毎日宮廷で一流の西方料理を口にしている筈だ。俺だって、実家にいた頃は使用人の作る上級の料理を食べて育った。まあ家を出てからは、食うものにも困る生活を一定期間続けてきたから、今やどんな飯でもありつけるだけ有難いと感じられるようになったのだが。
「それで、そろそろこちらの疑問にお答えいただけると有難いのですが。一体どういう訳で、サマンダル帝国陸軍の高官が、俺たちに協力して下さるのでしょうか?」
通訳の耳打ちを受けて、シーラ植民地軍司令官のカナヤマが次のように答える。
「……先日発生しましたユトダイン王宮爆撃事件。皆様もご存じでしょうが、あれには我がサマンダル軍が関与しております。我が帝国の陸軍中央は、既に貴殿らの国と剣を交える意思を固めています」
「飛行爆弾だな。確かにあれはサマンダル帝国製だと発表されていたが、やはり情報は本当だったということか」
「ええ。バーバス王国軍をけしかけて、王宮攻撃を決行させたのも全てサマンダルの策謀です」
「一体あんたらサマンダルは何がしたいんだ? 俺たちユトダイン王国を攻撃して何のメリットがある?」
実際、この質問は俺の純粋な疑問であった。今現在、サマンダル帝国は大陸連合を脱退しているとは言え、世界有数の軍事強国である我々ユトダインと戦争するメリットなど、どこにもないはずだ。
するとカナヤマは険しい表情を見せ、次のように語るのであった。
「私も同意見です。我が帝国にメリットなどありません。だから貴方たちに協力するのです。キンジョ―から聞きました……。貴方たちは平和の使者であり、世界に平和をもたらす為ここへ来たと。……私はサマンダル帝国の軍人ですが、ユトダイン王国との戦争を望みません。ユトダインとの戦争はすなわち、ヘルト帝国、ルネスタン共和国との戦闘を意味するからです。それはつまるところ、世界の全てを敵に回すに等しい行為です。しかし我が帝国の政府はそれを理解していません」
カナヤマは一息入れて、再び次のように言葉を紡ぐのであった。それは彼の痛切な決意であるように思われた。
「私はサマンダルの軍人です。当然、サマンダルの為に全てを捧げる心積もりです。貴方たちに協力するのも、全てはサマンダル帝国生存の為なのです。ユトダインとの対立は、結果として我々が全てを失う危険性をはらんでいる。ですが今現在、我が帝国の政府も、軍中央も、その危険性を理解していないのです。いえ、理解しているのかもしれませんが……。歯車は……最早止まらないのです……。止められないのです……」




