出国
空襲警報のサイレンが鳴り響く。上空を仰ぐとユトダイン軍の戦闘機が編隊を組んで、バーバス国境方面へと向かうのが見える。
「……あれは?」
リズが指差す方向に視線をやると、王宮方面から黒煙が上っているのが見えた。まさか……。
「数発の攻撃が王宮に直撃したようです。現在陸軍航空隊が迎撃を行っていますが、全てを撃ち落とすのは不可能です」
ため息交じりにそう語る側近の男。しかし、こんなにも簡単に王宮を攻撃されるとは。どうやらバーバスはとんでもない新兵器を持ち出してきたようである。
「謎の飛行物体とか言ってたよな? 詳しく教えてくれ」
「恐らく、サマンダル帝国が独自に研究を進めていた「飛行爆弾」なる無人攻撃兵器だと思われます。なぜそれをバーバス王国が所有しているのか不明ですが……」
「飛行爆弾……だと……?」
「ええ。詳細情報は軍の解析を待つほかありませんが、どうやらバーバスが差し向けてきたのは高速で飛行する爆弾のようなもので、迎撃も困難であると言います。先ほど陸軍の高級官僚と電話で情報交換したのですが、既に我が政府はバーバス王国への宣戦布告を検討しているらしいですね」
いよいよ戦争は避けられないのか。それに、バーバスへ『飛行爆弾』を供与したのが本当にサマンダル帝国だとしたら、事は世界大戦にまで発展しかねない。
「俺たちは一体どうすればいいんだ? つーか、今どこへ向かってんだよ?」
「我々の用意した車に乗り込んでもらいます。行先はランカスター様が個人所有しているプライベートビーチ、そこから海路で目的地へと向かうのです」
「目的地ってのはまさか……」
「ええ。ランカスター様からご説明があったかと思いますが、皆さんにはそれぞれ指定の国へ渡って頂きます。七氏族の末裔を探し出す為に……」
俺はリズとアランと共に、サマンダル帝国へと向かうよう先ほど指示を飛ばされていた。強力な空間転移の能力を有し、サマンダルのピリアス騎士会員とも面識のあるアランがいれば、一先ず俺たちは安心なのであるが……。
しかし今現在、ランカスターは何者かによって誘拐されてしまっている、トムとフローレンスは、ランカスター王太子と共にルネスタンへ向かう予定であったのに、これでは計画倒れになりかねない。
「俺とフローレンスはどうすんだ? ランカスターがいなけりゃ、どうしようもねえぞ?」
トムも同じことを考えていたようで、不安げに疑問をぶつけてみせる。すると側近の男は次のように回答した。
「私が同行します。これでもランカスター王太子の側近衛兵を務めていますから、心配は無用です」
しかし、本当にランカスターの救出へ向かわなくて良いのだろうか。計画の全ては彼の発案であろうし、その発案者が生命の危機にあっては、まともに計画など遂行できないのではないか。それに俺たちはまだ彼の話を聞き終えていない。疑問点は山ほどあった。
「なあ、ランカスターが最後に言いかけてたんだが……。神の意思ってのは、一体何なんだ?」
「……私にも分かりかねます。私の任務はランカスター様の代わりを務めること。万が一彼の身に何かあった場合、私がルネスタンへと赴くよう命令されていますから。私はただ任務をこなすだけです」
どうやら本当にこの側近の男は知らされていないようだ。いよいよランカスターの真意が謎である。七氏族の末裔は、同じく七氏族の血を引く者にしか分からないのではなかったか。ランカスターが攫われた今、ユトダインの末裔である契約者が不在となった。そんな状態で、ルネスタンの末裔を探し出すことができるのだろうか。
「さあ、こちらへ」
ようやく宮殿敷地内の駐車場に着くと、そこには三台の自動車が待機していた。俺たちは先ほどランカスターに指示された三組に分かれ、各々車内へと足を踏み入れた。
俺とリズ、そしてアランは東方のサマンダル帝国へ。ステラとダレンは南方のボスタニア王国へ。そしてトムとフローレンスは、ランカスターの代理である側近の男と共に、ルネスタン共和国へと向かうのだ。
「……ダレン、ステラを頼んだわよ」
リズはそう念を押した後、ステラの身体を抱きしめた。夏休みを迎えた14歳の少女が二人。こんな事態に巻き込まれるなど、思いもしていなかっただろう。
「リズも気を付けてね」
「……こっちは大丈夫よ。さっきアランの戦いぶりを見たでしょ? 敵だったらどんなに恐ろしいことか」
襲撃者の両眼を容赦なく潰し、拷問に掛けて見せたアランの行動は、実に恐怖を覚えるものであった。だが確かにリズの言う通り、味方としてこれほど頼もしい存在もないだろう。
「マジでやべえことになって来たな……。俺たち生きて帰れんのか?」
会社の同僚であるトムとフローレンスがこちらへ歩み寄る。彼らに関しては本当に申し訳ないことをした。王室ゴシップを掴めるチャンスかと思いきや、よく分からぬままに国外出張を命じられているのだから。それも社長ではなく、王太子ランカスターによる得体の知れない指令のままにである。
「……二人ともすまない。こんなことになるなんて」
「そりゃお前も一緒だろうが。レオン、あんまし無理すんじゃねえぞ? お前たまに無鉄砲なところあるからな」
トムは俺のことを最も良く知る男である。それに、ぶっきらぼうだが人情に篤い。対して同期のフローレンスは、その挙動から、困惑を通り越してヤケクソになっている様子がうかがえる。
「もうどうにでもなれ! 私やるわよ! タダでルネスタン共和国を観光できると思えば安いもんだわ! テオドナ美術館を堪能した後、世界一のレストランでフルコース頼んでやるんだから!」
ルネスタンの首都テオドナは芸術の都であり、また食文化の発達した都市でもある。恐らくそんな暇はないだろうが、自由人のフローレンスらしい台詞でもあった。
「そうだな。俺もサマンダル帝国は初めてだ。お互い初の海外旅行だと思って楽しもうぜ」
「おーっ!!」
俺はフローレンスと固い握手を交わし、互いに抱き合った。次いでトムと目線を合わせ、決意の程を確認する。ステラは心配ないだろう。既に己の使命を自覚しているような面持ちで、瞳を
爛々と輝かせている。ダレンは……相変わらず頼りなさげな様子だが、テレポートの能力使いであることや、これまでの行動を鑑みても、絶対にステラを守り通してくれることだろう。
「冒険の始まりだな……」




