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花と望遠鏡  作者: 山椒ひかり
ユトダイン王国編
17/25

戦争の危機

 世界は崩壊へと向かっている。


 2606年に発生したサマンダル・シーラ紛争の結果、五大国の一員であったサマンダル帝国は大陸連合を脱退。かくして連合組織は新たな局面を迎えることとなった。力による支配の時代が、再び世界を覆い始めているのだ。


 「紛争の背後には大国の駆け引きが存在した。サマンダル、サルデーニャの両国は、国際秩序の現状変更を武力行使により実現しようとしている。既にサマンダル帝国は新たな軍事改革に着手しているようだ」


 ランカスターの言う通りである。大陸連合を脱退したサマンダル帝国は軍備増強に邁進しており、また海を挟んだ隣国シーラを完全なる支配下へ置くことに成功していた。一方サルデーニャ王国軍は昨2607年、南方のアナンセム大陸進出の足掛かりとしてガーラ国へと兵を進め、同地を占領した。これによりアナンセム大陸の独立国はボスタニア王国を除いて消滅し、世界情勢は極度の緊張状態へと陥ったのだ。


 「今年に入り、世界情勢は一時的な平穏を取り戻したかに見えた。サマンダルもサルデーニャも目立った軍事行動は起こしていないし、連合を脱退したサマンダルの外交官も度々オブザーバーとして連合会議に参加している。未だに大国間の協調関係は継続しているのだ。しかし……」


 サマンダル・サルデーニャ両国は国際社会の現状変更を望んでいる。そして恐ろしいことに、サマンダル帝国はつい最近、未知なる大量破壊兵器の開発に成功したとの報を全世界に向け発信したのである。


 「未知なる大量破壊兵器……。一体どんな?」


 「詳細は明らかにされていない。だがサマンダル側の発表によると、その兵器は一度の攻撃で都市一つを壊滅させられるほどの威力を有するという。そんなものが使われたら……いよいよ世界は崩壊してしまうだろう……」


 あまりに大きすぎる話の展開に、俺は思わずめまいを起こしそうであった。


 「戦争は止められないのか? サマンダルやサルデーニャは、本気で現状を変更しようと企んでるのか?」


 するとランカスターは軽く笑みを浮かべ、次のように発言するのであった。


 「止める為に、君たちの力が必要なのだよ。レオン・ロビンソン……。かつて君の父が、我が王国の危機を救ったようにね」


 俺の親父が、この国を救った……。恐らくランカスターは、2588年に締結された『テオドナ協定』のことを話しているのだろう。ユトダイン王国はこの協定により、隣国バーバスの一部権益を獲得し、また同国領土内における軍の駐兵権をも手に入れた。更に我が王国は、この協定を境に宿敵ヘルト帝国と急速に接近することとなったのだ。


 現ヘルト帝国外務大臣のイゴール・トレチャコフ。父ニックは、この男と協力関係を構築することにより、長年敵対し続けてきたヘルト帝国との関係改善を実現させたのであった。これはユトダイン王国の歴史上類を見ぬ偉業であり、かくして父の名声は一気に高まることとなったのである。


 「……今度は一体何をさせようってんだ?」


 王太子の執務室には、俺の他にリズとステラ、ピリアス騎士会のアラン・リッチー、ユトダイン女王側近のダレン、そしてキール社員のトムとフローレンス、加えてタクシー運転手のマイケルが固唾を飲んで、ランカスターから発せられる次の台詞を待っている。


 「リズ、ステラ、そして私の三名は、大いなる神の意志を受け継いでいる」


 「神の意志……だと……?」


 

 その時であった。後方より響く大きな音に振り返ると、ランカスターの側近らしき男が息を切らしながら室内へと飛び込んできたのである。


 「陸軍省より緊急電! バーバス王国領内より発射された謎の飛行物体が王都に接近中! 十五分以内に到達するとのこと!」


 緊急ニュースを報告する側近らしき男。その言葉に俺たちは動揺して顔を見合わせたが、当のランカスターは実に落ち着いた様子で、彼に向けて次のように指示を飛ばすのであった。


 「宮殿内の全職員に、地下室へ避難するよう命じるんだ。それと……」


 そしてランカスターは、側近の男に何やら耳打ちをするのであった。やがて側近の男は駆け足で執務室を後にした。


 「我々も地下室へ向かうぞ。ダレン、場所は分かっているな?」


 「……ああ」



 ダレンのテレポートで地下室へ辿り着いた俺たちは、既に避難を終えていた何名かの宮殿職員の、驚きに満ちた表情に迎えられるのであった。しかし彼らの反応に気を取られている余裕などありはしない。何なら俺たちも、先ほどから困惑の連続に晒されているのだから。


 「思っていたより早かったな。しかし、見事なタイミングで仕掛けてくれたものだ。もし君たちと合流する前だったら、非常に面倒なことになっていただろう」


 「……一体何がどうなってるんだ?」


 「大方、バーバス王国の反ユトダイン組織が攻撃を仕掛けてきたといったところだろう。恐らく新兵器だ……」


 「……新兵器?」


 「航空機による攻撃であればそう報告するはずだ。しかし飛来しているのは謎の飛行物体だと言うじゃないか」


 確かに。攻撃機や爆撃機が迫っているならその通り報告が来るだろう。


 「まあ、そう怯える必要はない。どうせ我が軍の飛行隊が撃ち落としてくれるだろうからな。しかしバーバスが攻撃を仕掛けてきた以上、我々に残された時間は無い」


 こちらの疑問をぶつける暇もなく、ランカスターは矢継ぎ早に指令を繰り出した。


 「リズ、レオン、そしてアラン。君たち三人はサマンダル帝国へと向かってくれ。かの国にはピリアス騎士会の支部が置かれている。副会長のアランが口利きすれば、ある程度の保障は受けられるだろう」


 サマンダル帝国。大陸連合の元常任理事国であり、連合脱退後の今も尚、五大国の一角を任じ続ける大国である。またサマンダル帝国は東方世界最大の軍事大国であり、近年領土拡大政策に邁進する、我が国の「仮想敵国」でもあった。


 「騎士会のサマンダル支部ですか。そりゃあ俺なら顔も利きますが、王女様を連れてくってのは……。いよいよマズいんじゃないっすかね……?」


 アランは、我が王国最大の秘密結社「ピリアス騎士会」の副会長であった。そして現在、騎士会は国内のみならず世界各国に会員を有する巨大組織へと成長している。彼らの活動理念は庶民の救済と社会的道義の徹底にあるのだが、忠誠心や名誉、真の友情を重んじる騎士会の活動は、世界中で多大な支持を集めつつあったのだ。


 とはいえ、ユトダイン王室の一人娘であるリズを、勝手に国外へ連れ出そうものなら、最早俺たちに未来はないだろう。王族へ危害を加えたとみなされ、死刑になる可能性だって十分にあり得るのだ。しかしランカスターは譲らない。


 「リズは絶対に必要だ。この話は後で詳しく説明する。ともかく三人は目下事態の収束次第、早急にサマンダル帝国へと向かうんだ。……それとは別に、ダレンとステラ。君たちにはボスタニア王国へ行ってもらいたい」


 ボスタニア王国……南方世界アナンセム大陸における唯一の独立国である。かの国がこれまで他国の侵略を一切受け付けず、独立を保ち続けられる理由は未だ明らかにされていない。


 かつて西方世界の大国は、アナンセム大陸において壮絶な領土収奪戦争を繰り広げていた。そして同大陸の土地はその殆どが大国の植民地となったが、唯一ボスタニアだけは独立を保ち続けたのである。


 一説によるとボスタニア王国には数多くの呪術師が存在し、大国の使者はその力に魅せられて、遂には侵略を諦めたとも言うが……果たして真相は闇の中である。ちなみに現在我がユトダイン王国はボスタニアと国交を結んでおらず、渡航は全面的に禁止されている。


 「ボスタニア……あの未開の国か。一体どうやって入国すれば……」


 ダレンが神妙な表情を浮かべながらランカスターを見る。


 「君のテレポートがあればどうとでもなるだろう。所詮は南方の非文明国だ」


 「確かにそうだけど……」


 不安げな様子を見せるダレンを横目に、続いてランカスターはキール社の社員、トムとフローレンスに視線を移す。王太子に見据えられた二人は背筋を伸ばし、怯えた表情で顔を伏せる。


 「君たちは一般人だ。今すぐここを出て職場へ帰れ……と、言いたいところだが……」


 二人は畏怖と驚きに満ちた顔でランカスターを見据えた。しかしながら、あの喧嘩っ早いトムですら口を堅く閉じ、ランカスターの発言を待つような姿勢を見せている。


 「矢は弦を放たれた。君たち二人とて後戻りはできない。トムと……フローレンスだったか? 君たちは私について来るんだ。一緒にルネスタン共和国へと向かい、とある人物の捜索に協力して欲しい」


 「あのー、えーと……。とある人物と言うのは……」


 恐る恐る、緊張気味の上目遣いで尋ねるフローレンス。その質問に対して、ランカスターは意を決したように目を見開き、そして次のように口を開くのであった。


 「サマンダル帝国、ボスタニア王国、そしてルネスタン共和国。諸君らをこの三カ国に向かわせるのには理由がある。君たちには探してほしいのは『失われし七氏族』の末裔だ。そして……今ここに、既に三名の末裔が集っている……」

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