第一の試練
「盟約の紋章が消えた。どうやら君たちは、見事に第一の試練を突破したようだな」
確かに、ランカスターの右手の甲に刻まれていた紋章が綺麗さっぱり消えている。彼の能力は『盟約』。二者がそれぞれ守るべき約束を立て、お互いに了承した上で握手を交わした時、両者は決してその約束を破れなくなるという能力だ。もし約束を破れば、その者は必ず命を落とすことになる。
ランカスターは、マーガレット・ダンバースとその他数名の立会人に対して盟約を結ばせた。その内容はステラの出自に関するものであった。ダンバース家の使用人の娘として育てられた少女が、実はダンバース家当主と王太子の間に産まれた子供であった。俺たちはようやくその真実にたどり着いたのである。
「……私を恨むか?」
ランカスターに視線を向けられたステラは、未だ気持ちの整理がつかない様子で、呆然と彼の姿を眺めながら次のように呟くのであった。
「分かりません。何もかも……」
使用人一家もマーガレットも、そしてランカスターも、14年に渡りステラを騙し続けていたのだ。マーガレットの娘は産まれて間もなく死んだとされていたが、真実は違った。そして、ステラを実の娘のように育てた使用人は、彼女の本当の母親じゃなかった。使用人は身籠ってすらいなかった。……本当の母親はマーガレット・ダンバースであった。
「分からない筈は無い。君は契約者だ」
ランカスターの発言に、一同は混乱した様子で互いに顔を見合わせた。そして各々ステラの方を盗み見るのであった。当のステラは青ざめた表情で、顔を伏せたまま何も答えられないでいるようだ。
「学習……それが君の能力だろう? 君は勉学における知識のみならず、目に耳に入った全ての情報を永久にインプットすることが出来る」
どうして知っているのか。ランカスターを見詰めるステラの目はそう訴えているようであった。驚きに満ちた様子で目を丸くする彼女に対し、ランカスターは次のように話を続ける。
「君の前に現れた精霊は人間の姿で、言語を操れる……。違うか?」
現在確認されている限りにおいて、言語を操る精霊の存在は一切報告されていない。これは契約者研究学会でも一致する認識である。ましてや人間の姿をした精霊の存在など聞いたことが無い。
「どうして……」
「私も同じだからだよ。そしてステラ、君の存在は世界の真理を解き明かす希望の光となる」
ランカスターの発言はまるで意味不明なものであった。それに……。
「なあ。それよりあんたにはやるべきことがあるんじゃないか? どんな事情があったかは知らねえが……。あんたの勝手でステラを苦しめたこと、理解できてないワケないよな?」
俺は遂に耐え切れなかった。正直ランカスターに対する不信感は頂点に達していた。この男の口からは、未だ実の娘に対する謝罪の一言も出ていないのだ。
「その物言い、昔のニックを見ているようだ。……懐かしいな」
「……軽々しく親父の名前を出すんじゃねえ」
「君が思う以上に、私とニックは固い絆で結ばれていたのだが……。まあ良い、今は思い出話に耽る暇もないからな。とにかく私の望みはただ一つだ。君たちの力量と行動力を見込んで、次なる活動に従事して欲しいと考えている」
「次なる活動だと?」
「ああ。私はこれまで王国の安全と世界の平和を維持する為、ありとあらゆる手段を尽くしてきた。しかしそれも限界を迎えている。……大戦の危機が、すぐそこまで迫っているんだ」




