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花と望遠鏡  作者: 山椒ひかり
ユトダイン王国編
14/25

潜入

 「いよいよ王都に入るぞ!」


 十人が乗れる大型車にも拘わらず、運転手のマイケルは途轍もないスピードを出しながらハンドルを握りしめていた。


 「社用車潰した分はキッチリ払って貰うからな! それと今後の仕事も斡旋してくれねえと!」


 「そこは何とかするから! 今は運転に集中して!」


 リズの台詞に、マイケルは舌打ちをして前方を見据えた。流石は元レーサーと言うべきか。王都に入り、車通りが多くなってもスピードを緩めない。しかし問題は……。


 恐らく俺たちは、既にシャーリーの感知圏内へと突入している。今頃王宮では衛兵達が出動準備を整えていることだろう。


 「ダレン! それにアランも! もし衛兵の襲撃があったら、二人とも頼むぞ!」


 アランは俺の声を聞くや、自信満々に右拳を突き上げた。


 「当然だ。その辺の契約者如きにゃ負けねえぜ。ダレン、お前もそうだろ?」


 「あ、ああ……」


 相変わらずダレンは不安げな表情を浮かべている。無理もないだろう。王宮には百名以上の王室衛兵が控えているのだ。中には王国有数の精鋭だって存在する。もしその精鋭たちが既に派遣されていたとすれば、流石の二人も対処できるか分からない。


 「今から兵士を派遣したって遅いわ。王宮にテレポートを使える契約者はダレンしかいないし、そのダレンは今私達と一緒に行動してる。どんなに頑張っても追いつけないわよ!」


 「だと良いんだがな……」


 リズの希望的観測に縋る他ない。とにかく、今はマイケルの運転を頼りにダンバース邸へと向かうだけだ。


 にしても、一体どうしてこんな事になっちまったんだろう。父が死んで、幼馴染のリズが俺の部屋にやって来た。そこから全てが始まったのだ。何だか夏休みの冒険を前にした時のような、妙な高揚を覚えた俺は、リズの家出に協力することを宣言したのである。


 事は俺の務めるキール社を巻き込み、王太子を巻き込み、そして王室全体を巻き込んで今に至る。俺たちに協力したダレンは、自身の妻シャーリーと対立する結果に陥った。ピリアス騎士会副会長のアラン・リッチーも協力を申し出た。無関係のタクシー運転手マイケルも、なし崩し的に俺たちへ力を貸してくれている。まさかこんな大事になるなんて……。事態は、まるで予想だにしなかった方向へと発展しているのだ。


 「ダンバース邸に着くわ! ダレンとアランは作戦準備に入って!」


 あの常におどおどしていたステラが、鬼気迫る表情で声を張り上げ、的確な指示を飛ばす。俺はそんな彼女の姿に少し見惚れながらも、決意を固めて深呼吸した。


 王都郊外に位置するダンバース邸。その外門前に停車した瞬間、車内から契約者二名の姿が消えた。ダレンのテレポートで、二人は邸内へと侵入したのである。いよいよ作戦開始だ。まずは門番を説き伏せて、マーガレット・ダンバースとの面会を実現させる。その後は……。


 「マーガレットと面会できたら、どうするんだ?」


 「分からない。ランカスター叔父様は、ただダンバース邸へ向かえとだけ伝言を残した。とりあえず門番に掛け合ってみるわね」


 そう言ってリズが車を降りると、傍に座っていたステラも後に続こうとする。


 「私も行く。ここダンバース邸は私の実家だし、門番さん含め従業員とは顔見知りだから」


 ステラの言葉に、リズは大きく頷いた。本当は俺も同行したいところだが、二人に静止され大人しく車内で待機することになった。リズとステラ、二人の姿を見た門番は驚いた表情を見せ、やがて門は開かれた。


 「……行けたのか?」


 「うん。ステラが上手く掛け合ってくれたわ。どうやら、マーガレット・ダンバースも会ってくれるみたい……」


 まさか、こんなにあっさりと事が進むとは。上手く行き過ぎていて逆に恐怖を覚えるぐらいだ。残る問題は、マーガレットがどこまで真相を語ってくれるのか。そして、恐らく現段階で近付きつつある王宮衛兵の存在である。


 「急ごう。衛兵に捕まったら全て終わりだ」


 外門が開かれ、一同を乗せた車がゆっくりと前進する。ユトダイン王国一の大貴族、ダンバース家の敷地に、とうとう俺たちは足を踏み入れたのである。


 遥か前方に巨大な城が見て取れる。あれがダンバース家の居城なのだろう。この目で直接見るのは初めてだ……。


 今からおよそ100年前に建てられたという、豪華絢爛な装飾の施された大建築。その中世風の外観とは相反して、意外と新しい建築であるところが一つの魅力でもある。それはダンバース家が今のように衰退の道を辿る以前の話であり、最後の輝きを誇っていた栄光の時代に、この城が完成したのであった。


 「実は、既にダンバース家にはこの城を維持する財力がありません。きっとそう遠くない未来に、マーガレット様はこの城を手放すことでしょう」


 車を降り、城内へと入った俺たちは、案内人の後に続き廊下を進んでいた。その時隣を歩いていたステラが、小声で俺にそう耳打ちをしたのだ。しかし俺はその言葉を受けて、実に耐えがたい苦痛を感じるのであった。

 

 「……それは、親父のせいだろうな」


 元内閣総理大臣であった俺の親父は、その在任中に民主化政策を推し進めた。大多数の反対を押し切り、多くの貴族特権を廃止した父の政策は、結果として貴族の没落を招くだけでなく、その没落貴族に対する中途半端な救済措置を取ったことで、父は貴族階級の一部から激烈な非難を浴びせられたのだ。


 「政治のことは良く分かりませんが……。少なくともマーガレット様は、これも時代の流れだと受け入れていらっしゃいますよ?」

 

 そう耳打ちするステラの声に、俺は何故だか少しだけ救われたような気がした。民主化政策や貴族特権の廃止は親父が推し進めた政策であり、別に俺には関係ない話なのだが、どうしてかステラの言葉に感動を覚えたのである。


 「……そうか……いや、その、ありがとう」


 「安心して下さい。マーガレット様はとても聡明で優しく、慈悲の心に満ち溢れたお方です」


 慈悲の心……か……。ダンバース家の使用人の娘として、常にマーガレットと関わってきたステラが言うのなら間違いないのだろう。しかし彼女は真実を語ってくれるのだろうか。マーガレット・ダンバースからジェームス国王に宛てられたラブレター。そして数々の噂に加え、ランカスターの証言により発覚した新事実。マーガレットは、ランカスターと恋に落ち、彼の子をその身に宿したという衝撃の事実に関して、果たして彼女はどこまで語ってくれるのであろうか……。

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