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花と望遠鏡  作者: 山椒ひかり
ユトダイン王国編
12/25

作戦開始

 「これからダンバース邸に乗り込むの。マーガレット・ダンバースとの直接対面はステラと私が担当するわ。レオンとトム、それにフローレンスも一緒に来て欲しい」


 そう息巻くリズに対し、ダレンは訝し気な表情を見せている。


 「てことは……」


 「うん。ダレンとアランは契約者でしょ? 隠密に適した能力を持つ二人には、ダンバース邸内の捜索をお願いしたいの」


 確かに、リズの提案は理に適ったものである。己の身体と触れたものを同時に移動させることができるという、テレポートの能力を有するダレン。そして、目視した対象を移動させる『空間転移』の能力を有するアラン。両者は共に空間を操る能力者なのであった。


 ダレンは自分の身体を転移させることができる代わりに、遠隔で対象を動かすことはできない。逆にアランは、手を触れずとも見たものを移動させることができる。その代わり、自分の身体を転移させることは出来ないのである。


 「驚いたね。僕以外に空間移動系の契約者がいるとは思わなかった……」


 ダレンが感心した様子でアランを見る。


 「そりゃこっちの台詞だぜ。あんたと俺が組めば敵無しだな」


 不敵な笑みを溢すアラン。まだ出会ってさほど経ってないが、どうやらこの二人の間には信頼関係が生じているらしい。


 「で、俺たちの目標は何だい? ダンバース邸を物色して何を探し出そうってんだ?」


 アランの疑問にリズが答える。


 「マーガレット・ダンバースの子供について、何か証拠となるものがあればいいんだけど……例えば日記とか、何でもいいから見つけてほしいの」


 「なるほどな、承知したぜ」


 活発な印象を感じさせるアランの頼もしさと言ったら。それに比べるとダレンは線が細く多少気弱なところもあり、二人はまるで対照的な人物のように目に映る。


 「ところで、そこの坊ちゃんは……」


 アランがこちらを向いて目を細める。流石に俺とは初対面の筈だが、もしかすると親父の知り合いかもしれない。


 「レオンです。レオン・ロビンソン」


 「ああ、ニックの息子か。通りて似てるわけだ」


 「……あの、父を知っているんですか?」


 先ほどアランは『ピリアス騎士会副会長』と名乗っていた。ピリアス騎士会とは王都を中心に活動する秘密結社のことであり、今や会員数200万人を超える巨大組織である。そういえば父の盟友であったイアン・スペンディングと言う陸軍将校は、このピリアス騎士会と密接な関係を有していると聞いたことがある。であるならば当然、父もこの騎士会と何らかの関係を持っていたと考えて良いだろう。


 「一度だけ会ったことがある。どうにも不思議な人だったよ。初めて会うってのに、何故か懐かしさすら覚えたんだ。向こうもまるで俺を知っているかのような口ぶりでな。「久しぶり」なんて言うもんだから驚いたぜ」


 ……同じ話は母さんからも聞いたことがある。父と母が初めて出会った時、父はまるで昔から母の事を知っているかのような態度で接してきた。そして母は動揺すると共に、父ニック・ロビンソンという男に密かな恋心を抱くようになったのだと。正直両親の馴れ初めなど、当時は気持ち悪くて聞きたくもなかったが、思い返してみれば不思議な話である。


 「どうやら父にはそういう癖があったみたいですね。同様の話を父の関係者から聞いたことがあります。それに、母からも……」


 「やっぱりそうか。こう言っちゃ何だが……君のお父さんと話していると、全てを見透かされているような気分に陥ってな……。いや、決して悪い意味じゃないんだ。なんつーかな……表現が難しいんだが……」


 「そんなに気を遣わなくていいですよ、アランさん。別に父のことが大好きだったわけじゃありませんから。俺もジャーナリストやってて、父に関する色んな噂も耳にしてますからね」


 アランはそれ以上何も言わなかった。俺や父のことを良く知っているダレンも、気まずそうに俯いている。


 すると暫く様子を窺っていたリズが、コホンと咳ばらいをして注目を集める。


 「あのね、ランカスター叔父様からの伝言を預かってるから、良く聞いてほしいの」


 ランカスター王太子からの伝言。もしや宮殿を出る時に受け取った、あのダイヤル錠付きの小箱に入っていた謎のメモ用紙のことであろうか。あの用紙を見た瞬間、リズは急に方向を変えてタクシーに乗り込んだ。そして車内にダレンが現れて、俺たちはリズと離れ離れになったのである。


 俺たちがダレンのテレポートで攫われている間、リズは一人でピリアス騎士会本部に向かい、そして協力者アランを連れてきた。これらの状況を合わせ見れば、恐らくリズの行動は全てランカスターの指示通りである筈だ。当然ダレンもランカスターの指示で動いている。


 「必要なところだけ読み上げるわね。……君たちがもし本当に、私の提示する第一の試練を乗り越えることが出来たなら、君たちは大いなる世界の真理に挑む権利を獲得する」


 それだけ言うとリズは顔を上げ、固唾を飲んで見守る俺たちの様子を見回した。


 「……他にはないのか?」


 俺は思わずそう聞き返していた。王太子の考える計画の詳細が知れると思いきや、リズの口から出た言葉はあまりに抽象的で、まるで何を言っているのか分からないものだったからだ。


 「そうね。もちろんここに至るまでの指示は書いてあるけど。あとはダンバース邸に向かえ、とだけ……」


 第一の試練。大いなる世界の真理。一体何のことを指しているんだ。ランカスターは『盟約』の能力により全てを話せない。しかしそれは、マーガレット・ダンバースとの間に産まれた子供に関する話で、別に試練だとか世界の真理だなんて話は一切していなかった。


 「良くわかんねえけどよ。とりあえず王女様の言う通りダンバース邸へ向かうしかねえだろ。俺だって、ここまで来たら後には引けねえからな」


 傍から話を聞いていたトムが、意を決したかのように拳を握りしめた。


 「なんかワクワクするね! もういっそ行くところまで行っちゃおうよ!」


 同期のフローレンスは相変わらずだ。つい先ほどまで不安げな表情を見せていたと言うのに、リズの話を聞いて俄然やる気になっている。


 「……あの、ダンバース邸周辺の地理なら分かります。人に見つかりにくいルートも知ってるので」


 ダンバース家の使用人一家として育ったステラがおずおずと案内人を申し出る。確かに彼女なら邸宅の内外を詳しく知っていることだろう。初めて会った時は内気で頼りなさげな少女だと感じたが、やはり彼女も決意を固めているようだ。


 「んじゃ、俺とダレンは邸内の捜索と。でもあれだな、ダレンはこの人数抱えてテレポートできるのか?」


 アランの問いに、ダレンは申し訳なさそうに首を横に振った。


 「できない。とりあえずダンバース邸付近までは公共交通機関か、車でも使うしかないかな……」


 「なるほどな。それなら出来るだけ見つからないようにしねえと」


 「いいや、それも無理だ」


 そう断言するダレンの額には脂汗が滲んでいた。そして、俺は彼の懸念をすぐさま察することができた。恐らくダレンが恐れているのは……。


 「シャーリーがいる。彼女の追跡から逃れることは不可能だ」


 このシャーリーという名の女性を知る人間は王室関係者、それも一部の人間にのみ限られる。彼女はこの国で最も強大な力を有する感知系の契約者であり、また亡き父の良き友人であり、母の親友であり、俺も良く知る人物である。そして……。


 「そのシャーリーってのは一体何者なんだ?」


 アランがそう尋ねると、ダレンは口ごもりながら次のように答えるのであった。


 「……僕の妻だ。彼女は一度視認した対象の位置を特定することができる。その感知領域は半径15キロメートル、加えて彼女は感知対象の思考を覗くことも出来てしまう。少なくとも彼女と関わりのある僕とレオンは既に感知対象だ」


 その通り。ダレンとシャーリーは夫婦関係にあり、また両者とも現王妃アナスタシアの側近を務めている。実はダレンだけでなく、彼の妻シャーリーも俺の父とも仲が良く、俺は幼少期より彼女に可愛がられてきた。


 しかし先述の通り、シャーリーはダレンと共に王妃の護衛を務める人物である。今現在ダレンは俺たちに協力してくれているが、どうやらシャーリーはそうでもないらしい。


 「そりゃ強力な契約者だな。でも君の妻なら、俺たちに協力するよう説得すりゃいいじゃねえか?」


 アランは不思議そうに首を傾げたが、ダレンはまたしても項垂れて次のように口を開く。


 「無理だよ。彼女はアナスタシア王妃を心から慕ってる。その王妃の娘であるリズ王女が家出したわけだから当然、全力でリズを連れ帰そうと動く筈だ。いや、既に動いてる……。それが分かっていたから、ランカスターは僕だけに応援を要請したんだろう」


 「なーるほど。女同士の結束は固いってわけだ」


 だからダレンは俺たちを捕まえて、王都から遠く離れた地方都市、ここケープタウンまで連れてきたのであろう。シャーリーの感知領域から抜け出すために……。どちらにせよ俺やダレンの思考は覗かれている筈だから、今頃俺たちを探すため多数の王室衛兵が動員されているだろうが。


 しかし不思議な点が一つある。どうしてダレンはリズをそのままに、俺たちだけテレポートで連れ出したのか。強大な感知能力を有するシャーリーは、一度視認した対象の位置と思考を把握することができる。そして彼女は現王妃の側近をつとめているのだ。当然王妃の娘であるリズの位置も特定できる筈だし、その思考を読むことも可能である筈。しかしダレンはリズを連れ出さなかったのだ。


 「なあダレン。もちろんシャーリーはリズの思考も覗けるし、位置も特定できるんだよな? それじゃあどうしてリズは無事だったんだ? どう考えても逃げ切れるとは思えないんだが……」


 「いや、彼女はリズの思考を覗けないし、位置も特定できないよ」


 その返答に、俺の頭は益々混乱した。つまりシャーリーは、リズの感知だけ例外的にできないとでも言うのだろうか。幼い頃、俺はリズと二人でこっそり王宮を抜け出したことがある。結局すぐに王室職員に捕まってしまったのだが、その時俺たちの居場所を特定したのがシャーリーであった。


 「何故だ? リズは毎日のようにシャーリーと顔を合わせているはずだろう?」


 すると今度はリズが首を横に振り、神妙な表情を浮かべながらこう語るのであった。


 「ダレンの言う通りよ。理由は分からないけど、何故か私は感知されないの。それだけじゃないわ。私にはどんな契約者の能力も効かないの。だからタクシーに乗ってる時、ダレンは私を連れ出さなかった。いえ、連れ出せなかったのよ。ダレンは直接触れた対象も同時にテレポートさせることが出来るけど、私はそれも弾いてしまうの」


 その発言を聞くや、アランがリズの身体に向けて右手をかざして見せた。一同は驚いてその様子を注視したが、暫く経っても何も起こらない。


 「……少し移動させてみようと思ったんだが、どうやら王女様の証言は事実のようだな。俺の空間転移もまるで通じない」


 「生まれつきこうなの。だから、ダンバース邸付近までは車で行くしかないわ」


 しかしシャーリーは、少なくとも俺とダレンの思考と位置を把握できてしまう。王都に入れば必ず彼女に捕捉されるだろう。そうなれば王室衛兵も向かってくるだろうし、一体どうやって逃げ切るというのだろうか。


 「車って言っても……」


 「安心して。とっておきの運転手を捉まえたんだから」

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