協力者
「リズは必ずここに来る。それまで待って欲しい」
数時間の眠りを経て起き上がったダレンは、辛そうな表情を見せながらもそう語った。しかし納得できないのは俺だけじゃなかった。トムもフローレンスも、何より彼女と友人関係にあるステラも同様に、ダレンの言葉を信用しきれずにいるのであった。
「ここに来るって? 一体どうやって?」
眠りから覚めたダレンの言葉を信じるならば、どうやら俺たちは王都から離れた地方都市ケープタウンに連れてこられているようである。
「ランカスターから聞いただろう。彼の用意した協力者の存在を」
「ああ……しかし何者なのかは教えてくれなかった。つーか、ダレンの事じゃなかったのか?」
こちらの質問に、ダレンは静かに首を横に振る。
「僕も協力者ではあるけどね。あえて君たちだけ攫ったのは、リズをもう一人の協力者と接触させるためだったのさ」
「もう一人の協力者か……一体誰だ?」
ランカスターから受け取ったダイヤル錠付きの小箱。その中身を見たリズは、何故か俺たちに詳細を教えてくれなかった。それに加えて、ランカスターからは会社に戻れと言われたのに、彼女がタクシー運転手に出した指示は逆方面へ進むものであったのだ。果たして小箱の中身は何だったのか。何故彼女はダイヤル錠の解除方法を知っていたのか。そして、彼女は一体どこへ向かうつもりだったのか……。
「アラン・リッチー、もう一人の協力者の名だ。良く覚えておいてくれ。今リズはアランの元へ向かっている。いや、既に接触している頃かな……」
「そもそも、リズは一体どこへ向かってたんだ?」
「……ピリアス騎士会本部。そこで協力者アランと落ち合う手筈になっていたんだよ」
「手筈だと?」
「ランカスターの計画では、そうなっていた。なあレオン……実はな、ランカスターは事前に予測していたんだよ。君たちが王太子宮殿を訪れることを……。その上で彼は、とある二つのプランを打ち立てたんだ」
そう言ってダレンは、王太子ランカスターが計画したという二つのプランを語り始めた。それは実に手の込んだ計画であり、同時に恐ろしいまでのリスクを伴うものでもあった。
「一つは、リズ王女を説得して王宮へ帰らせるというプラン。もし王女が説得に応じた場合、僕は速やかに彼女を王宮へと連れていくはずだった」
これは当然の計画であろう。次期国王候補であるランカスターにとって、リズは兄の娘。即ち姪に当たるのだ。同じ王族の人間として勿論のこと、彼はリズの家出を手伝う訳にはいかないのである。しかし問題は二つ目であった。
「……二つ目のプランは、リズの逃走を手助けすること。これは彼女が説得に応じなかった場合を想定して考えられていた」
「どうして、王太子殿下がそんなことを……」
「そう疑問に思うよな? 僕も同じ気持ちだ。リズ王女はこれまでも複数回にわたり家出を繰り返している。その度にランカスターが仲裁に入っていたのだが……今回はあまりにやり過ぎだよ……」
ダレンは俯きざまにそう呟いた。どうやら彼ははランカスターの指示で動いているようだが、本心からリズの家出を手助けしたいとは考えていないらしい。
「ダレンも分からないのか? 一体ランカスターが何を考えているのか……」
「ハッキリとは分からない。ただこれだけは断言できるよ。ランカスターは、きっと何かに気付いている。国を揺るがす重大な何かに……」
そんなに曖昧な根拠でありながら、どうしてランカスターのことを信用できるんだ。ダレンはもともと父と親友であった。いや父だけでない。俺の母リリアンとも深い仲にあったはずなのだ。それなのに……。
「よく母さんが言ってた。ランカスターは信用できない男だってね。それなのにダレンは、彼のことを信じてるのか? 父さんの葬式にすら来なかった男のことを……」
「確かに君のお母さん……リリアンの言うことも間違っちゃない……。しかしランカスターが君のお父さんと親友だったことも事実だ。そして僕も同じ仲間だった」
「……俺は信用できない」
「とにかく、リズがここに来るまで待って欲しい。そろそろ到着するはずなんだ。どうか僕の言うことを信じて欲しい」
ダレンは俺が産まれた頃より面倒を見てくれたおじさんだ。勿論信頼しているし、大好きな人でもある。正直父さんより一緒に遊んでくれた人だし、母さんと同じぐらい優しい人でもあった。でも……。
「レオン!!」
聞き馴染みのある声につられて顔を上げると、廃工場の入り口に人影が二つ。一方のシルエットを確認した俺は、安心のあまり深く息を吐くのであった。
「本気で心配したぞ!」
「ごめんね……でもこうしなきゃいけなかったの。お陰で協力者を連れて来ることに成功したわ」
リズの隣に立つ男。歳はダレンと同じか、それより少し若いぐらいであろうか。顔立ちを見るに四十は超えていると思われる。大柄で筋肉質な体つきと、その体躯に相反するかのような柔和な笑顔を浮かべるこの男が、恐らく第二の協力者、アラン・リッチーなのだろう。
「君がレオン君かな?」
「貴方は……」
「ああ、ピリアス騎士会副会長のアラン・リッチーだ。よろしく」




