軽い気持ちでコックリさんをやったら、謎の狐耳美少女に取り憑かれたんだが!?
「なあなあ棚橋」
「コックリさんやらない?」
「……え?」
とある放課後。
クラスメイトの安住と杉村さんが近寄ってきて、唐突にそう提案してきた。
コックリさん?
「コックリさんって、あのコックリさん?」
「そうそう、あのコックリさんだよ!」
「安住くんと話しててね、面白そうだから三人でやってみようってことになったの」
「へえ」
正直高校生にもなってコックリさんに興じるのはどうかという思いもよぎったが、まあ、ここで断るのも逆に子どもっぽい気がするしな。
「面白そうだな、やってみようじゃないか」
ホントは別に面白そうだとは思ってないが。
「おっ! ノリいいな棚橋! じゃ、早速やろうぜ。杉村さん、紙と10円玉用意してくれた?」
「はーい、用意したよーん」
杉村さんは一枚の紙を俺の机に置き、その紙に書かれている鳥居マークの上に10円玉を乗せた。
紙には他にも、『はい・いいえ』の文字と、50音が書かれている。
「よし、始めるぜ」
安住が人差し指を10円玉の上に乗せたので、俺と杉村さんもそれに倣う。
「じゃあ俺がせーのって言ったら、みんなで『コックリさん、コックリさん、おいでください』って言うんだぜ?」
「はーい」
「了解」
「いくぜ。せーの」
「「「コックリさん、コックリさん、おいでください」」」
――!!
その瞬間、俺の背筋をゾクリと冷たいものが走った。
い、今のは!?
「ん? どうかした棚橋くん?」
「い、いや! 何でもないよ」
多分ただの気のせいだろう。
気のせいだと思いたい……。
「さて、これで無事コックリさんもおいでくださったことだろう。じゃあ最初の質問は俺がさせてもらうぜ。コックリさん、コックリさん、杜若先輩に好きな人はいますか?」
ああ、さては最初からそれが聞きたかったんだな。
杜若先輩は安住が片想いしている三年生の先輩で、成績もスポーツも常に学年トップなうえ、漫画のキャラみたいな美貌を持つ、ステータスカンスト系女子だ。
「あ、あれ!?」
「きゃっ!?」
「なっ!?」
その時だった。
俺は一切力を入れていないのに、10円玉が勝手に動き出した――。
これは……!?
そしてそのまま10円玉は、『はい』の位置で停止した。
「マ、マジかよおおおおお!!!! 俺の初恋がああああああ!!!!」
「き、気を落とさないで安住くん! ひょっとしたら杜若先輩の好きな人は、安住くんかもしれないじゃない」
「そっか! 確かにそうだよね! うおおおおお、テンション上がってきたああああ!!!!」
「……」
今のは、二人のうちどっちかが10円玉を動かしたのか?
だが、どちらがやったにしても、言動に違和感があるな……。
「……ん? ――!!!」
危うく心臓が止まりかけた。
いつの間にか俺の隣に、見知らぬ女の子が座っていたのだ。
その子は俺たち同様、人差し指を10円玉の上に置いている。
誰ッ!?!?
うちの学校の制服を着ているが、こんな子見たことない……!
日本人形を彷彿とするような、無表情だけれど、どこか妖艶な顔立ちをしている。
そして何より異様なのは、頭に狐のような耳が生えていることだ。
時折耳がピクピク動いていることからも、本物にしか見えない……。
俺がガン見していることに気付いたのか、狐耳美少女も俺のほうを向いて、バチッと目が合った。
その瞬間、先ほどと同じく俺の背筋を冷たいものが走る。
「? 棚橋くん? 何だか顔色悪いよ、大丈夫?」
「オイオイ、まさかお前ビビッてんじゃねーだろーなー」
「っ!?」
二人には見えていないのか……!?
つまりこの子は――幽霊!
「ゴ、ゴメンッ! 俺、ちょっと用事思い出した! 帰るわ!」
「えっ!? 棚橋くん!?」
「オイ、待てよ棚橋!?」
慌てる二人を無視して、俺は逃げるように教室から飛び出した。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
どれだけ走っただろうか。
気が付けば、見知らぬ街並みに俺は一人佇んでいた。
だが、ここまでくれば大丈夫だろう。
ほっと息を吐き出し、ふと後ろを向くと――。
「…………」
「う、うわあッ!?!?」
狐耳美少女が無言で、じっと俺のことを見つめていたのである。
「あ、ああああ、ああああああああああ!!!!!」
俺は半狂乱になりながら、夢中で駆け出した。
「ハァ、ハァ……、ガハッ、ハァ……」
それからのことはよく覚えていない。
我に返った時には、自分の部屋のベッドで大汗をかきながら天井を眺めていた。
よかった、何とか家までは帰ってこれたか。
これであの幽霊も振り切った、か……?
「…………」
「っ!!? う、うわああああッ!?!?」
が、ふと横を向くと、そこには狐耳美少女が、無言で俺を見下ろしていた。
「な、何なんだよお前はッ!? 俺のこと呪い殺す気かッ!?」
「…………」
さっと身構えるが、狐耳美少女は俺を見つめるだけで、特に何かしてくる様子はない。
「クソッ、何なんだよ、まったく……」
大分恐怖心が麻痺してきた俺は、狐耳美少女のことは警戒しつつも、あまり気にしないことにした。
今のところ害はなさそうだし、風景の一部だと思うことにする。
……そうでなければやってられない。
「ふわぁ、おはよー」
「あっ! おはよう棚橋くん! もう、昨日急に帰ったから、心配したよ!」
「そうだぞ棚橋! さては拾い食いでもして、腹壊したな?」
「ちげーよ」
拾い幽霊はしてしまったかもしれんが。
いや、俺としては拾った覚えはなくて、勝手についてきただけなんだがな。
未だに俺のすぐ後ろに立って、無言で見つめてくる狐耳美少女に、チラリと目線を向ける。
本当にただついてくるだけで一切何もしてこないのだが、だとしたらこの子は、何のために俺に取り憑いたのだろう?
「じゃあさじゃあさ、今からまた、昨日の続きのコックリさんやらない?」
「おっ! いいねー杉村さん」
「えぇ」
俺としては、コックリさんがキッカケでこの子に取り憑かれたので、あまり乗り気はしないんだが。
……ん? 待てよ。
コックリさんが原因でこの子が出てきたのなら、もう一度コックリさんをやれば消えるのでは!?
どの道このままじゃ現状は変わらないのだろうし、やってみる価値はあるかもしれない。
「いいね、是非やろう」
「おー、いつになく乗り気だねー、棚橋くん」
「よっしゃ! 今度こそ逃げんじゃねーぞ棚橋」
「逃げないよ」
少なくとも、この子を何とかするまではな。
「「「コックリさん、コックリさん、おいでください」」」
「…………」
「っ!」
コックリさんを招いた途端、また狐耳美少女が昨日同様、俺の横に座って10円玉の上に指を置いた。
ま、まさかこの子は……!
「あのさ、今日は最初に俺から質問させてもらってもいいかな!?」
「え? う、うん、いいよ」
「マジで今日の棚橋はコックリさん大好き侍だな」
ウザい安住のツッコミは無視して、俺は狐耳美少女のほうを向きながら質問をする。
「コックリさん、コックリさん、あなたは、コックリさんですか?」
「? 棚橋くん?」
「何だその質問? ……あ、あれ!?」
するとまたしても勝手に10円玉が動き出し、『はい』の位置で停止した。
――やはりそうか。
君は、コックリさんだったんだね。
俺は狐耳美少女改め、コックリさんの顔をじっと見つめた。
「…………」
「?」
するとコックリさんは、頬をほんのり赤く染めながら、プイッとそっぽを向いてしまった。
おや?
何か初めて人間味のあるリアクションをしたな?(人間じゃないけど)
「おおー、今日もコックリさんは絶好調だな!」
「じゃあさ、今度は私が質問させてもらってもいいかな?」
「ああ、いいよ」
さてと、これでこの子がコックリさんだということは判明したけど、これからどうしたもんかな。
「いくね。……コックリさん、コックリさん、棚橋くんと運命の赤い糸で結ばれている女の子は誰ですか?」
「え?」
何その質問?
そんなのいるわけないじゃん。
「あっ! 動き出したよ!」
「おお!」
「――!」
が、予想に反して、10円玉はずずずと動き出した。
だが、さっきまでと違い、明らかに人為的に動かしているような感覚がする。
心なしか杉村さんの指がプルプル震えているようにも見える。
――10円玉は『す』の位置でピタリと止まった。
「あ、あれ?」
その時だった。
グイと10円玉が凄い力で引っ張られ、鳥居の位置に戻ってしまった。
見れば今度は、コックリさんの指がプルプル震えている。
「ふんぬぬぬぬぬぬ……!」
杉村さんが顔を赤くしながら、指をプルプルさせる。
「…………」
そんな杉村さんに対抗するように、コックリさんも指をプルプル。
「ふんぬらばああああああ……!!!」
杉村さんは血管がキレそうなくらい顔を真っ赤にして奮闘するも、妖怪であるコックリさんのほうが力が強いのか、10円玉はピクリとも動かない。
「なあ棚橋、何が起きてるんだ今、これ?」
「……さあな」
こっちが聞きたいくらいだよ。
結局この後10分近く両者の鍔迫り合いは続いたが、最後は人間である杉村さんの体力が尽き、この場はお開きになった。
「な、何で……、いったい何でなのよ……」
「…………」
四つん這いになって打ちひしがれている杉村さんに対して、コックリさんは無表情だがどこか誇らしげだった。
「ハハ」
いつの間にか俺の中に、コックリさんに対する恐怖心はまったくなくなっていた。
「ねえコックリさん、明日の天気ってわかったりする?」
その日の放課後の帰り道。
定位置である俺の真後ろにいるコックリさんに、世間話がてら話し掛けてみる。
「あ、でも、あの紙と10円玉がないと答えられないか。……ん!?」
その時だった。
俺の背中を、つつつと何かが這う感覚がした。
何だ!?!?
「コ、コックリさん!?」
慌てて後ろを向くと、コックリさんが俺の背中に指を走らせていた。
『はれ』
「――!」
コックリさんは俺の背中に、『はれ』という文字を書いた。
……なるほど、俺の背中を紙と10円玉の代わりにしたというわけか。
そこまでするなら直接口で教えてくれればよさそうなものだが、それもコックリさんとしてのプライドなのだろうか?
「じゃあさ、コックリさんの好きなものも教えてよ」
「…………」
コックリさんは、恥ずかしそうにちょっとだけ俯いて狐耳をピクピクさせながら、俺の背中にこう書いた。
『あぶらあげとじんじゃ』
「ああ、油揚げと神社ね」
ふふ、いかにもコックリさんらしいな。
「よし、そこのスーパーで油揚げ買ってこう」
「…………」
相変わらず無表情のコックリさんだが、その瞳が若干いつもよりキラキラしているような気がした。
「はい、これあげる」
「…………」
そして近所の人気のない稲荷神社に来た俺たちは、ベンチに腰を掛ける。
隣に座ったコックリさんに、先ほど買った油揚げを渡した。
コックリさんは相変わらず無表情を装っているが、明らかに内側から滲み出る高揚感を抑えきれていない。
狐耳もいつになくピクピクしている。
ふふ、意外と可愛いところもあるじゃないか。
「遠慮しなくていいから、お食べ」
「…………」
コックリさんはほんのり頬を染めながら少しだけ頷くと、ソワソワしながら袋を開け、油揚げに小さな口でパクリと齧りついた。
「…………」
もにゅもにゅと油揚げを咀嚼するコックリさんは、依然として無表情なものの、パァーッという効果音が出てるんじゃないかってくらい、幸せそうに見えた。
うんうん、喜んでもらえたようで俺も嬉しいよ。
――俺はそんなコックリさんを、油揚げが食べ終わるまで微笑ましく見守っていた。
「ところで昨日から気になってたんだけどさ」
「…………」
油揚げを食べ終わったタイミングで、コックリさんに話し掛ける。
コックリさんは「何?」とでも言いたげな無表情で(言いたげな無表情?)、俺を見つめてくる。
「コックリさんは何でうちの学校の制服を着てるの?」
俺も妖怪に造詣が深いわけじゃないが、一般的にはコックリさんみたいな日本の妖怪は、和装をしてるイメージがある。
「…………」
コックリさんは俺の肩を掴んで、グイと背中を向けさせた。
あ、やっぱ回答は背中に書くんすね。
コックリさんは俺の背中に指を走らせる。
『あのがっこうでよびだされたからこのふくになった』
「へえ」
呼び出された場所によって、服装が変わるシステムなのか?
それにしても、この毎回背中に指で字を書かれる感覚は、何ともむず痒いな。
「てことは、プールで呼び出してたら、水着だったかもしれないってこと?」
我ながら自分の天才的な発想力が怖い。
顔を赤くしながら頬をぷくーと膨らませたコックリさんは、俺の背中にこう書いた。
『ばか』
「ハハ、ゴメンゴメン」
おっと、ここは話題を変えよう。
「じゃあさ、これもずっと気になってたんだけど、何で俺にだけコックリさんが見えるの?」
「…………」
この質問をした途端、コックリさんの顔が過去最高に真っ赤に染まった。
あ、あれ?
俺何かやっちゃいました?
「…………」
コックリさんは暫し考え込むような仕草をしたが、やがてゆっくりとこう書いた。
『ひみつ』
「あ、そうですか」
よくわからんが、秘密だというなら無理して聞き出すこともあるまい。
――こうしてこの日から俺とコックリさんは、俺の背中を通して、毎日いろんなことをお喋りしたのだった。
コックリさんと一緒に過ごす日々は、戸惑うことも多かったがとても刺激的で、いつしか俺の後ろには、コックリさんがいるのが当たり前になっていた。
「はぁ~、結構遅くなっちゃったね。じゃ、帰ろっか杉村さん」
「う、うん、そうだね」
とある放課後。
今日の日直は俺と杉村さんだったのだが、思いの外仕事に時間が掛かってしまい、夕陽に染まった教室には、俺と杉村さんだけが取り残されていた。
まあ、例によってコックリさんはいるのだが。
俺が杉村さんと日直の仕事をしている様子を見つめるコックリさんは、何故かいつもより不機嫌そうに見えたのだが、気のせいだろうか?
「あ、あの、棚橋くん!」
「……え?」
その時だった。
杉村さんがいつになく真剣な表情で、帰ろうとする俺を呼び止めてきた。
ギュッと握った拳は僅かに震えており、目元には薄らと涙も浮かんでいる。
す、杉村さん……?
「……うん、何かな」
流石の鈍い俺でも、この後杉村さんが言おうとしていることは、何となくわかった。
「……わ、私はずっと……、棚橋くんのことが…………、好きでした」
「――! ……杉村さん」
杉村さんの瞳から、ポロリと大粒の雫が、一つ零れる。
「どうか私と……、付き合ってください!」
「……」
肩を震わせながら、杉村さんは祈るように俺に頭を下げた。
……杉村さん。
「あ、あれ?」
その時だった。
いつも背中に感じる気配が急に消えたので慌てて振り返ると、そこにコックリさんの姿はなかった。
コックリさん!?
どこに行ったんだ!?
こんなことはコックリさんに取り憑かれてから初めてだったので、俺の頭は真っ白になる。
とにかく探しに行かなきゃ!
……いや、待て。
その前に杉村さんに、ちゃんと返事をしなきゃだろ、俺。
「……杉村さん」
「は、はい!」
ビクンとしながら顔を上げた杉村さんは、期待と不安が入り混じった、複雑な表情をしていた。
……クッ。
「ごめんなさい、杉村さん。――実は俺、好きな子がいるんだ」
「――!」
俺は姿勢を正し、杉村さんに深く頭を下げた。
「杉村さんの気持ちは本当に嬉しいよ。……でも、……でも、…………ごめん」
今の俺にできるのは、精一杯誠意を込めて謝ることだけだ。
ごめん――。
本当にごめんね、杉村さん――。
「ふふ、だと思った」
「えっ!?」
予想外の返答がきたので驚いて顔を上げる。
が、杉村さんの表情は、夕陽が逆光になってよく見えない。
「最近の棚橋くん、いつも後ろのほうの何もない空間を眺めて幸せそうな顔してるんだもん。きっと好きな女の子のことを考えてるんだろうなって、ずっと思ってた」
「……杉村さん」
依然として逆光で、杉村さんの表情は判別できない。
「でもありがとう、ちゃんと振ってくれて。お陰でやっと、棚橋くんのこと、諦められそう」
「……」
そう言う杉村さんの声は、少しだけ震えている気がした。
途端、心臓を握り潰されたみたいに、胸が苦しくなる。
「――棚橋くん、棚橋くんも、ちゃんとその子に告白してね」
「――! 杉村さん……」
「きっとその子も、棚橋くんの言葉を待ってると思う。思いは言葉にしないと伝わらないよ。後悔しないためにも、ね?」
「……」
杉村さん――。
「うん、ありがとう杉村さん。俺今から、その子に告白してくるよ」
「ふふ、いってらっしゃい」
「――いってきます」
最後まで杉村さんの表情は、夕陽に隠れてわからなかった。
だが俺が教室から出て扉を閉めた直後、教室の中から杉村さんの嗚咽が聞こえてきた。
――俺は胸の痛みに必死に耐えながら、とある場所へと走った。
「やっぱりここだったんだね」
「…………」
コックリさんはいつもの稲荷神社のベンチに一人、ポツンと腰掛けていた。
相変わらず無表情だが、どこか気まずそうに見える。
俺はコックリさんの隣にそっと座り、ふうと息を吐き出してから、口を開いた。
「……杉村さんの告白は断ったよ」
「…………」
コックリさんは目を大きく見開き、意外そうな顔で俺を見つめてきた。
「俺には他に、好きな子がいるからさ」
「…………」
途端、コックリさんが耳まで真っ赤にしながら、綺麗な瞳をうるうるとさせる。
ハハ、コックリさんて常に無表情なのに、本当に表情豊かだよな。
「――俺が好きなのは、コックリさん、君だよ」
「…………」
コックリさんは頭から湯気を噴き出しながら、スカートをギュッと握って俯く。
「四六時中、ずっと君のことだけを考えてる。もう君なしの人生は考えられない。――どうか俺と、付き合ってほしい」
「…………」
コックリさんの真っ赤な狐耳が、ビクンビクンと激しく揺れる。
「コックリさんは俺のことをどう思ってるのか、それだけでも教えてくれないかな?」
「…………」
俺のことをチラチラ覗いてくるコックリさんだが、覚悟が決まらないのか、ずっとモジモジしたままだ。
あ、そうか。
「ゴメンゴメン。背中に書かないと、答えられないよね」
俺はコックリさんに、そっと背中を向ける。
――その時だった。
「――えっ!? コックリさん!?」
コックリさんが俺の背中に抱きついてきて、左の頬を背中にピトリとつけてきたのである。
――そしてボソッと、こう呟いた。
「すき」