#53ウルフ小屋落成
お久しぶりです。本当に本職が激務の1年間で全く執筆出来ませんでした。気がつけば1年近く過ぎていることに驚き、落ち着いたタイミングで少しずつ書いていこう(再度長期休載にならないように)と気合いを入れ直したので今後とも読んでくださると嬉しいです!よろしくお願いします(*^^*)
翌朝。大量に生産したベニヤ合板を使ってウルフ小屋の内装仕上げに取り掛かる。普通よりも一回り大きな合板だから一度に幅広い面を仕上げることが出来るので、迅速に作業が進んでいくーーー。昼食を取る前には内装仕上げが完了し、昼食後2半時間ほどで木屑や端材、使った道具等の片付けも終わらせることが出来た。
「ブラックウルフの諸君!遂に寝床が完成したぞ!今日は新築祝いで乾杯するぞ!」
『『『 うぉぉぉおおーんんん!』』』
いつの間にか戻ってきていた面々も自分達の家が完成したのが嬉しいようで大はしゃぎであった。
どうやら俺の作業速度を見ていて、ジャス達も今日で完成して飲み会があるかも?っと、考えていたらしく大物を仕留めてきた。早速その獲物を見せてもらうことに。
「でっでけー…2m位あるんじゃないか?これイノシシか?」
鑑定してみるとB-ランクのアーマードボアという魔物だった。どうやらCランクのジャイアントボアが進化した種らしく、突進力に加えて鉄鎧のような外骨格で攻撃防御共に強化されているようだ。名前からも分かるように強靭な外皮には物理攻撃は効きにくく、剣や弓など斬撃・刺突系の攻撃は通らず、メイスやウォーハンマー等打撃系は幾分かの効果がある様だ。物理攻撃が効きにくい一方で、魔法での攻撃はかなり有効らしい。
「今回は私の“ライトニング”で仕留めましたわ!」
「ラミリス!その様な言い方ではお前1人で仕留めたと勘違いなされるであろう!我らが陽動、支援したから倒せたのだ!他の者たちの活躍もしかと主殿に報告しないか!」
「そうですよ!自分一人いい顔しようとしたら駄目ですよ!皆で協力したと報告しタクミ様に喜んでもらうべきです」
「まぁまぁ、その辺で。協力して仕留めてきたことは分かってるからさ。皆ご苦労様!今日は新築祝いだから、ちょっといい酒でも飲みながら今後について話そう!」
という事でそのまま飲みながら準備に突入。アーマードボアは銀音とラミリスと三人で捌いた。鉄プレートのような外骨格以外はイノシシと同じだったのでさくっと解体完了。まさかこんな所で前世の経験が役に立つとはね。
前職の時にお客さんから電話がかかってきて、野生のイノシシを誤って農機で傷つけてしまったと。同僚のおじさんに狩猟免許を持ってる人がいたので一緒に現場に行ったんだけど、息はあるが血を流しすぎててもう長くないとのこと。そのまま放置という訳にも行かないので締めて解体することになった。あの時かま初めての解体だったんだけど、なんというかやっぱり命を奪うって場面に直面して、衝撃というかやるせなさが込み上げてきて、その日は流石にご飯が喉を通らなかったよ。やっぱり普段スーパーとかお裾分けで貰う食材と違って命を頂いているんだと改めて感謝できる出来事だった。
解体した肉は食べる分は冷蔵庫、保存用は冷凍庫で寝かせてから食べた。時間を少し開けて食べたから気持ちも切りかえて食べることが出来たんだけど、思ったより臭みもなく美味しかったなぁ。
なんて昔のことを思い出しつつ、目の前の解体をこなしていった。内蔵、肉、皮、要らない骨、に綺麗に分けることが出来た。アーマードボアはあの時のイノシシと比べてかなりの量になったので、今食べる分以外はマジック収納スペースへと保管しておく。今日は焼肉にしたいと思うが手頃な網がない……どうしたもんかと考えていると、ふと庭にあった大きな一枚の石板が目に入る。
「そうだ!飲食店なんかでよく使っている溶岩プレートみたいに使えばいいじゃないか!」
その石板が使えるかどうか確認しに行くと、下の方に空間があり灰のような物があった。どうやらエル・バンカーさんも焼肉プレートみたいな使い方をしていたみたいだ。鑑定してみる溶岩石とのこと、ステーキ屋とかで肉が乗ってくる岩盤も確かこれだったはず……しかし、こんな大きさのものを手に入れるとはバンカーさんはかなりの趣味人だったのかも。
「ジャスとルストにはこの岩盤の下に火を起こしてもらおうかな。さっき片付けた端材や薪が裏手に保管してあるから適当に取ってきて火起こしをお願いしたい」
「承知しましたぞ!ではルスト何匹か伴って燃料を取りに行くぞ!」
「了解、子供たちはこの辺で遊んでいるんですよ。くれぐれもタクミ様の邪魔はしないように!」
火起こしも頼んだし、肉の切り分けは銀音達に頼んできた。俺は付け合せの野菜と肉に使うタレを何種類か作る為に母屋へ戻る。まだ日は高いうちから宴……飲み会をやるなんてな。いい身分になったもんだ。
キッチンで本格的に作業を始める前にサリーナさんの部屋を訪れる。体調の確認と今後について少し話をしようと思ったからだ。扉をノックして要件を伝え返事が来るのを待つ。入ってきていいとの事で、扉を開け、サリーナさんが寝ている横に置かれた椅子へと腰掛ける。室内だが微かにブラックウルフたちの話し声が聞こえる。
「外が騒がしくてすみません、体調はどうですか?」
「まだ戦闘は難しいですか、激しく動かなければ普通に行動出来る程度にはなっています」
彼女はそう言うと両手でシーツを腰へと固定しながらベットへ腰掛け、そして立ち上がって見せた。両足でーーー。
「え!?サリーナさん尾ひれはーーー?」
思わずまじまじと脚部を見てしまう。人間の足ではあるが所々鱗のような紋様がみえる。綺麗なタトゥーにも見えるのでこれはこれでアリだなと思ってしまった。
「“人化の秘術”を使いました。1度発動すると10年は元に戻ることは出来ませんが、国に戻るためには陸を横断しなければなりません。下半身が魚の尾では目を引いてしまうでしょう?」
「まぁ、確かにこの世界でも人魚は珍しい存在みたいですし。それでも10年は………長いですね」
「私はどうしても国に戻らねばなりません。人魚であるが故に道中物珍しさで要らぬ邪魔が入るの時もあるはず。少しでも早くたどり着くためにはこれが一番の選択のはずです」
サリーナさんからは強い使命感を感じた。騎士団長という役職であるというのもあるだろうが、彼女自身がとても正義感に溢れで民思いなのだろう。
このまま彼女をここに留まらせるのもまずそうだ。突然居なくなるなんて事もあるかもしれない
「分かりました。サリーナさん、遅くても7日後にこの街を離れられるように準備します。その間は引き続き身体を休めてもらって、その間に俺が街へ行って情報を仕入れてきます。くれぐれも先走って俺たちを置いて行かないでくださいね」
俺がそう言うとサリーナさんは何かを諦めたかのような顔でポツリと質問してきた。
「なぜ見ず知らずの私にそこまでしてくれるのですか?あなたにとって私は見ず知らずの他人どころか人間ですらない。奴隷商にでも連れていけば一生遊んで暮らせるだけの金が手に入ったでしょうに...私の思惑を読んでいるかのように先制される。何故そこまでしてくれるのか、教えてください」
俺は返答に困って暫く考え込む。何故かって聞かれると何故なんだろうな。元々あまりお願い事を断れるタイプでも無いし、困ってる人をみかけるとスルーする罪悪感に耐えられないから結局声をかけてしまう。いい人って訳ではなくて、後ろ指を差されたくない一心なんだよね。
「確かに俺はサリーナさんとはここで初めて会ったし、赤の他人の人魚さんです。でも、関わってしまって、事情を知って、はい、さようならってのは余りにも後味が悪くて...俺自身が今後、今回の事を思い出して嫌な思いをしたくないんです。様々なことを天秤にかけて考えた結果、貴女を手助けすることに決めました」
サリーナさんは目を見開いて俺の返答に驚いたようだった。まぁー逆の立場だと確かにこいつ何言ってんだ?って感じかも。
「くくっ。まさか罪悪感で助けてくれるとは。これ程おかしな話ないーーー無いが理解出来ない訳では無いですね。大なり小なり罪悪感は抱くもの。貴方の場合はそれが人一倍強いのでしょう。善人気取りで同行を願い出てくるなら、夢見がちな人間と割り切って黙って出ていくつもりでした。しかし...まさか罪悪感で私を助けてくれようとしているなんて、改めて考えると本当におかしな話ーーーふふふっ」
サリーナさんは何故かツボに入ったようで、声に出さないように肩を震わせながら堪えている。
「サリーナさん???笑いすぎですよ!いいじゃないですか!罪悪感で人を助けたって!俺はいい人になりたいんじゃなくて、後で絶対モヤモヤするのが分かってるから、少しでもマシな方を選択してるんです!」
「くくくっーーーいや、すまない。なんというか今まで生きてきて、本当にドン底まで突き落とされた気分でいたんだが、案外まだ何とかなるのかもしれないな。世の中は広い、罪悪感で不安定な国を救おうというのだから」
「あっ!あれは冗談ですって!サリーナさんを元気づけようとして言ったんですよ!」
そんな感じで暫くギャギャー主に俺だけ騒いで、サリーナさんは笑顔になった。話の内容はともかく元気になって良かった。
「タクミ殿。ありがとう。私は貴方を信じます。どうか私を、マーレを救う為に力をお貸しください」
「もちろんですよ。俺はそこまで戦闘は強くないですが、仲間が強いので!大船に...というか水中だから大型潜水艦?、とにかく任せておいてください!あと、話は変わりますが、今しがたブラックウルフ達の小屋が完成したんですよ!新築祝いをこれからやるんですが体調宜しかったらどうですか?」
「なるほど、それで外が騒がしかったのですか。先程も言いましたが、歩き回る等の日常動作には問題ありません。改めて皆さんにもお礼を言いたいので是非参加させて頂きたいです」
という事で、この家にいる皆で新築祝いをすることになった。サリーナさんの中回復祝いも兼ねることにし、肉以外にも残っている魚も調理することにしよう。




