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農機整備士の異世界開拓ライフ  作者: ミャーク
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#52ベニヤ板の製作②

30分程仮眠を取った後引き続きエーテルグリップの練習を開始した。時間を追う毎に失敗する回数もどんどんと減って行き、ついにその時が……。


「はい!そこまでで結構です。速度はまだ遅いですが、澱み無く発動できるようになってますので合格!一日でここまで出来るようになるのは本当に凄いですわ」

「ふぅー、ありがとう!ラミリスの教え方が上手いからだよ。発動速度だけどこれは使ってれば自ずと身に付くだろうし、今は取り敢えずベニヤ板が作れれば問題ないから良しとしよう」


しばしの休憩の後、ラミリスと共に銀音の所へ移動する。そう、いよいよベニヤ板製作に取り掛かるのだ。


「銀音ーちょっと相談があるんがあるんだけど、原木を桂剥きのように薄く表皮を剥いでいけないかな?これくらいの切れっ端くらいの厚みで!」

「タクミ様、桂剥きとはどの様な技なのでしょうか?」

「あっ!そうだよね!ごめん、ごめん、ちょっとまっててね〜……っとこんな感じなんだけどーーー」


俺はスマホで職人が均一に途切れることなく桂剥きを行っている動画をググッて銀音に見せる。動画内では大根で行われているが、これを直径60cmの原木でやれって少し無茶があるような……最初は魔法ならなんでもできるっしょ!なんて甘い考えをしていたが、これは頼んでおいて出来ない気がしてきたぞ。


「そうですね。出来なくは無いと思いますが恐らく先程見せていただいた切れ端の薄さは難しいと思います。それに均一に同じ厚みを維持するのは無理です」

「だよねーうーんどうするか。実際には原木を回転させて側面に刃を当てていく感じなんだけど、2人ともなんかいいアイディアない?」


暫し3人であーでもないこーでもないと議論を繰り広げたが上手く出来そうな魔法は出てこなかった。


「もういっその事全てを魔法で行うのではなく、道具を作りそれに切断に特化した魔法をかけ続けるのはどうでしょう?」


ラミリアからそんな助言が出て、俺は衝撃を受けてしまった。何故今まで道具を作るという発想が出てこなかったのだろうか?無ければ作ればいいーーー整備士として農家の為に簡単なものではあるが、今までも作ってきたじゃないか!なんでもかんでも魔法で解決出来るって頭になっていた。今後は気をつけないとな……。俺は急いで家からメモノートとペンを取ってきた。そこに絵を描きながらイメージを共有する。


「例えばこの帯鉄に何かしらの付与を与えて鋭利な刃物のように出来るかな?」

「それならば可能ですが、魔法を付与する材質によって切れ味が多少変わります。その時は込める魔素量を増やせば問題ないですがかなり効率が悪いですね」

「あと、あれもですよね銀音様。確か切断面が面か傾斜が着いているかでも切れ味が変わりますよね?」

「ええ、ラミリスの言うように素材の末端が鋭利な程効率が上がります。私達が狩猟で使う“ゲイルファング”も尖った牙を用いることで良り効果的なダメージを相手に与えているのです」


成程付与する対象物の強度と面取りしてるかで込める魔素量が変わって燃費に直結すると。しかも聞くところによるとこういう単純な事は魔導の領分らしい。魔法はある程度のことは実現可能だが、魔導に比べかなりの魔素を扱うこともあるようだ。

でも、今回は取り敢えずベニヤ板を作るのが最優先なので魔導付与を行ってもらうのは次にして魔法で解決しよう。


「じゃあ俺の頭の中にある桂剥き機を作ってくるから銀音のやってた作業を2人で続けててもらえる?」

「分かりました。タクミ様の発明を楽しみに待っております」


俺は頭の中でイメージをより具体的にしながらガレージへ向かう。

まず、どうやって均一に原木を桂剥きするかだが、皆さんご存知のキッチン用品で大体のご家庭にはあると思われる時短調理の代表格、“スライサー!”、あれを参考にしようと思う。スライス、千切り、ツマ切り、おろし、etc.各社が様々な工夫を施して販売している商品だが、今回はそのスライス部分に着目する。台座より僅かに高く設置された刃によって、同じ厚みで切断されているから原木に対しても同じ要領でできる筈だ。

つまりは切断する為の刃と原木をセットして回転させる回転部、刃を原木の側面へとあてがう駆動部の3つを作ればいい。回転させる力と切れ味を上げるのは魔法で行えばいいので、俺は面取りした帯鉄をセットする駆動部と原木をセットして回転させる周動部を作ればいいはず。何かいいアイディアが無いか桂剥き機でググッてみると意外に多くの製品が発売されていることに驚いた。成程、業務用以外はほとんどが手動式で、クランクで大根を回し側面に刃をあてがっている。これなら俺でも自作できそうだな。

写真や動画を参考に木材を切り出し、早速エーテルグリップで接着しながら更にビス止めしていく。見本があるのでサクサクと作業は進み本体は完成した。今回は最大4.5トーメルまでの原木がセット出来るように作った。次は切断刃となる帯鉄の面取りをしていくのだが、約1トーメルの鉄製の20X40のLアングルが5本あるのでこれを設置することに。帯鉄の側面に差し金を当てながらサンダーでなるべく均等にそして鋭角になるように削る。


「よし、こんなもんでいいだろう!早速試し切りならぬ試し剥きだ!」


完成した剥き機の前に2人を呼び使用方法を説明する。まだ俺は魔法を物に込めるのが得意では無いので、魔法は銀音とラミリスに頼んで機械の操作に集中する。


「原木をしっかりセットして、っと。よし銀音は切り刃に魔法を、ラミリスは原木を回転させる魔法をお願い!」


2人がそれぞれ魔法を発動し、回転速度を少し調整してもらって準備は完了。俺はゆっくりと切り刃を回転している原木へと近ずけていく。接触した瞬間、最初はガリガリっと音を立てたものの、あとは高速でカンナをかけているような軽い音が鳴り続き、大根の桂剥きのように均一な厚さで剥がれていく。断裂することなく連なっているため、ロール状に自然と纏まって行った。


「成功だね!厚みも丁度3ミリ位はあるし最高の出来だよ!ありがとう2人共、この調子でどんどん剥いで行こう」


2人に協力してもらいながら丸太を単板へと加工していく。取り敢えず今回は丸太10本分を単板へと加工した。機械での作業なので10本で約30分とかからずに剥き終えることが出来た。あとはそれぞれを同寸法で切り出して接着後圧力をかけて置くだけだ。


「素晴らしいですね!丸太から薄い板ができてしまいました。タクミ様の話ではこれらを重ね合わせて強度を出すのですよね?」

「そうだね。上手くいって良かったよ。あとはエーテルグリップで4枚を縦横直行する様に接着して、反りが出ないように上下を平らな板で挟み込んで圧力をかけて置くんだけどーーー何か平らなでかい岩とか魔法で作り出せる?あっ、後〜あれだ。重量を増やせる魔法とかないかな?」


ベニヤ板の合板を作る時は接着剤を塗布したあと反りが出ないように物凄い圧力を掛けないといけないらしい。プレス機は無いので岩を作り出して重量を増やすことが出来ればと考えたのだ。

2人に相談したところどちらも可能との事。でかい岩を作って単純にそれを切れ味がものすごい魔法で真っ二つにすれば出来上がりだ。


「岩を切断するのであれば“ウォーターカッター”が望ましいでしょう。しかし、大岩を切断するほどの切れ味となると緻密な魔力操作と魔素量が必要になるので、まだタクミ様では難しいと思われます。単純に重量を増やすだけなら簡単ですので、タクミ様にはそちらをお願い致します」

「銀音様!岩を切断する“ウォーターカッター”は是非(わたくし)にやらせて下さい。進化してから魔力操作も向上してると思いますし、まだ大量の魔素を用いて発動させたことが無いので試してみたいですわ」


という事で大岩を作り出すのは銀音、切断はラミリス、重量魔法は俺と役割が決定した。単板ベニヤのサイズは分かりやすく2x2トーメルとした。すべての成形を終えて、真っ二つにした岩も準備完了。実際に貼り合わせを行っていく。


「エーテルグリップを塗布して…っと。OK!準備完了じゃあ大岩を切断して挟み込もうか!」


銀音が作り出した大岩をラミリスがウォーターカッターで真っ二つにする。高圧の水で切断された岩の断面はまるで研磨したかのように鏡面となっている。これなら均一に圧をかけることが出来るだろう。切断した大岩の片方を地面へと水平になるように設置し、その上に圧着前のベニヤ板を重ねていく。


「それじゃもう片方の大岩を上に載せるんだけど…どうしたらいいんだろう?」

「“グラビティシフト”と呼ばれる魔法を使います。この魔法は重量の増減や向き等を操る魔法で極めれば、壁や空を自由に飛び回ることが出来ます。最もそこまで到達できるものは少ないのですが…。ですが、単純に重さを変えるだけならば込める魔素量で容易に変更可能なので早速やってみましょう」


俺は銀音に教えてもらいながら、重しとなる大岩に軽くなるようなイメージを持ちながら魔素練り上げ意味を持たせていく。込める魔素量で重量の増減が決まるため、この岩の場合かなりの量が必要だ。


「こんなものかな?よし!“グラビティシフト!”」


魔法を発動すると特段変わった感じはしないが、両手で持ち上げてみるとあの大岩が20kg位にしか感じられないほど軽くなっていた。そのままベニヤ板の上に載せ、次は軽くなるイメージを重くなるイメージへと変えながらどんどん魔素を練り上げていく。

この魔法のメリットは魔素量によって無段階に重量の調整ができる事だが、ずっと維持しなければならないのが最大のデメリットでもある。エーテルグリップの完全硬化時間は約10分程なので、その間ひたすら魔素を込め続けた。これもいい特訓だ。


「タクミ様そろそろよろしいかと。重量を軽くして岩を下ろしてみましょう」

「了解ーーー。おー!なかなかいいし上がりじゃない!?反りや剥がれも無いし見事に一枚板になってるよ。大成功だ!二人ともありがとう」


今回作れたのは2x2トーメルのベニヤ板が全部で50枚!かなりの量産になった。今後の小屋作りや棚、とにかく面が必要な箇所に材料という点では困らないだろう。ベニヤ板は雨に濡らすと剥離しやすくなるので今使う分以外はガレージへと保管した。今後のことを考えるなら材木保管庫も作らなきゃだな〜。なんて考えていると時間はもう夕方。今日はこの辺で片付けして夕食を取って寝ることにしよう。

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