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農機整備士の異世界開拓ライフ  作者: ミャーク
50/52

#50人魚国マーレ

更新まで大変長らくお待たせしましたm(_ _)m

少し長めに書いたのでお読みいただければ嬉しいです(*^^*)

彼女の意識が戻って2日後。朝食を食べ終えた俺たちは人魚、サリーナさんの話を聞くべく、寝かせている部屋へと集まっていた。


「サリーナさん体調はどうかな?まだ辛そうなら無理せずゆっくりでもいいんだけど……?」

「いえ、皆さんのおかげでだいぶ良くなりました。それにここでのんびりもしていられないのです」

「わかりました。ではお願いしますくれぐれも無理なくですよ?」

「はい……では、私が皆さんに助けられる前の話からしないといけません。まず私の仕える国“マーレ”について……」


ウルカ王国から遙か南の海に存在していると言われる人魚の国マーレ。海底に存在すると言われる楽園の宮殿は水晶で作られているという。銀音も伝説上の話としては知っていたらしいが実在する事に驚いていた。海底に存在するといった立地の為、陸上の生物は殆ど辿り着くことが出来ず、また水棲の外敵から侵入・侵略を妨げる目的で分かりにくい場所にあるみたい。サリーナさんはそこで近衛隊長を勤めていたようで、マーレでも指折りの魔剣士だったようだ。


「伝説ではなく実際にマーレ国は存在しており、私はそこで騎士団長をしておりました。マーレは人間の国と違い国交等も殆どなく閉鎖的な環境で、代々女性君主です。争い事も少なく至って平和な国だったのですがーーー」


遡ること1年前ほど前から奇妙な事件が起き始めたらしい。事件の内容自体は今まであったようなイザコザの発展系である暴力事件。互いに譲らず手が出てしまった、というどこにでもある話。しかし、時を追う毎に件数が増えていき気がつけば月に100件を超える程になっていた、と。これが酒場内や、ゴロツキがたむろする場所なら話は分かるのだが……。


「老若男女問わず本当に小さい揉め事ですら暴力事件へと発展しているのです。私が取り締まった中では10歳程の子供同士が玩具の貸し借りを巡って殴り合いの喧嘩になっていたのです。本来この年齢であれば相手を傷つけてしまう事や痛みを分かっているはずなのですが、互いに相手へ攻撃することを辞めず、痛みで泣くことも無い……異様な光景でした。本来周りの大人たちが止めに入るべきですが、ただただ傍観しているだけ。子供達の母親達ですら見ていただけだったのです」

「確かにそれは物凄く変な話ですねーーーサリーナさんが止めに入ったあとはどうなったんです?」

「子供を引き離しましたが、突如2人共大人しくなったんです。親たちに何故止めなかったのか尋ねると、分からないと。返答の際にもまるで関心がないように答えていました。とりあえずその場は注意して帰したのです……」


普通自分の子供が殴りあっていたら親なら気が気でないはず、おまけに相手の子に取り返しのつかない怪我でもさせようものなら尚更大変なことになる。

なんというか、殴りあっている子供も泣く事すらしないし、大人達も見てるだけってのは、何も感じていない、考えていないって事か?もしくは誰かに魔法を掛けられたのか……。


「私が遭遇した中でも明らかに異質でしたので、双方について色々調べてみたのです。ですが、特段気になることも無く至って普通の家庭でした。後ほど自宅へ訪問した際には、母親はその時の事を思い出し泣き出してしまい、何故止めなかったのか全く分からないと」

「ーーーなんというか幻惑草を摂取した症状に似ていますね」

「幻惑草?なんと言うか名前の通りならヤバそうな代物だね」

「少量であれば命に関わるような毒ではなく、むしろ興奮状態を抑えたり、睡眠導入等にも効果があるのです。しかし、摂取量が多いと無気力になったり、感情が抑えられなくなったり、体の感覚が無くったりと様々な状態異常を起こしてしまいます。そのまま摂取し続けると激しい幻覚作用を引き起こし、最悪の場合死に至ります。しかし、余程の量を摂取しなければ命を落とす事はおろか無気力になるはずは無いはずなのですが……」


確かに銀音の言う症状に似ている。だけど何故その様な症状が街中でしかも不特定多数の人に表れたのか、しかも、幻惑草は陸にしか生えないらしい…海藻類にも同じ様な効果が出るものでもあるのだろうか。分からんな、ここで考えても答えが出るわけもない。とりあえず原因究明は置いといて話の続きをお願いした。


「原因を探るべく私達近衛隊と騎士団で調査を開始しました。しかし、これといった手掛かりも掴むことが出来ず……そんなある時です、姫様が勉学から逃れる為姿を消す魔法、ファントムを発動中偶然ある話を耳にしたのはーーー」



上院議長を務める貴族派の筆頭モーテルン侯爵が城内で見た事のない連中と話している場面。ファントムは姿を消す魔法であって存在や物音を消せる訳では無い為、通路の壁際で姫様はじっとしていた様だ。声を潜めるようにして会話していた為、全てを聞くことは出来なかったが微かに聞こえた単語が、“歴史が変わる”、“隷属”、“あの方”の3つ…いかにも胡散臭さを感じる単語ばかり。この話を聞いたサリーナさんはモーテルンが何かを握っていると感じ、彼について調査を始めた。


「調べれば調べるほど怪しい行動ばかりを取っていて、何度か違法に出国しているのです」

「国外へ出るのは禁止されているんですか?」

「禁止と言う訳では無いのですが、マーレは基本的に外部との接触を絶っている国ですので、外敵の侵入を防ぐという意味でも出国は推奨されていないのです。そういった事もあって出国に際して手続きが必要なのですが、モーテルンは手続きを踏まず闇ルートから出国していたようです」

「成程確かにそれは怪しさ満点ですねーーーそれでそんな事までして一体どこへ行っていたのですか?」

「モーテルンは北の大国“ロダナ”の者と繋がっていたようです」

「北の大国…またその国ですか」

「何か心当たりがあるのですか?」

「はい、実はーーー」


ケーンブーズであったミノタウロス事件について説明する。あの時も北の大国…ロダナから来たって言う奴が隷属させたミノタウロスを賊に渡したせいでえらいことになった。危うく俺の家まで被害が出るところだったよ。まぁ〜災い転じて、では無いにしろそれらのおかげでがっぽり儲かったけどね。


「ここ数年のロダナはいい噂は聞きません。現国王が即位してからになりますかね。もともと多少なり亜人にたいして風当たりの強い国だったのですが、昨今では獣人を含めた人身売買が過激になってきているとか。それだけにとどまらず魔物売買まで行っているようです」

「魔物売買・・・それが俺らの街を襲ったことと関係ありそうですね。うん?というか亜人にたいして風当たりの強い国ってことですけど、人魚であるモーテルンは大丈夫なんですかね?」

「問題はそこなのです。昔から度々同胞達が行方不明になることがあるのですが、決まってロダナ近海で姿を消しているのです。先も述べたように亜人を毛嫌いしている国ですので、何かしら関与しているだろうとは考えられていたのですが、確証を得ることが出来ず…。その為国内ではロダナには要注意というのは子供でも知っていることですし、ましてや侯爵であるモーテルが知らないはずは無いのです」

「そのモーテルンは絶対何かヤバいことをやってそうだけど、実際何か尻尾…じゃなくて尾ビレ?は掴めたの?」

「決定的な証拠は掴むことが出来なかったのですが、私の送り込んだ密偵から用途不明の魔導装置がモーテルンに譲渡されているとの報告がありました。その魔導装置について調べると綴られた報告書を最後に連絡が途絶えました」


これはかなりきな臭いことになってきたぞ。明らかにその魔導装置を使ってモーテルンが国内で何かを行っている、若しくは行おうとしているのは明らかだ。


「そこまで、証拠というか明らかに怪しい行動を取ってるんだからそれを理由に追求出来るんじゃないの?」

「そうですね。私達もそう思って議会でモーテルン侯爵に説明を求めました。ロダナから譲渡された用途不明の魔導装置と闇ルートからの違法出国を何故行ったのか、と。すると潮時と見てか突如例の魔導装置を起動させたのです。強い紫色の光が放たれたかと思うと直ぐに頭の中をぐちゃぐちゃに掻き回される様な気持ち悪さに襲われました。他の皆は地面に倒れ込み頭を抱えて悶えており、立てていたのは私くらい。暫くするとモーテルンが持っていた魔導装置にヒビが入り停止したようで、気持ち悪さも無くなりました」

「一体なんの効果があったんですかね?自分以外を混乱させる魔導装置とか?」

「いえ、それは他人を意のままに操る魔導装置だったようなのです。何故私に効果が無かったのかは不明ですが、その場に居た私以外の人魚は全て奴の操り人形となってしまい、襲ってきました。その時にリーニャ…私の幼馴染で近衛隊副隊長を務めていた者に攻撃され、あの湖で皆さんに発見されたという訳です」

「そんなことが…でも、あの湖は人魚の国では無いのですよね?どうやってあそこにたどり着いたのですか?」

「恐らくですが、まだ完全に操れてはいなかったのではないかと。リーニャはマルチキャスターで同時に2つ魔法を扱うことが出来ます。それで何とか私を転移させること後できたと…皆さんに拾っていただけたのは本当に運が良かった」


成程、大体の話は理解出来た。主犯はロダナと通じているモーテルンで間違いないだろうが、何故このような犯行に及んだのかが分からない。例の魔導装置でロダナに操られている可能性もありうるし、目的が分からない。

うーん。助けてあげたいけど俺たちの力だけでどうにか出来そうもないし、ここまで聞いてそうなんですねでは頑張ってくださいは余りにも薄情だ。かといって解決してあげますよなんて、無責任なことも言えないし、出来ない…全くどうしたものか。いっそのことケーンブーズの冒険者ギルドに相談するか?でも、人魚の国は秘匿されているし俺が勝手にバラすわけにもいかないしな…。


「あと数日だけ滞在を許していただけないだろうか?もう少し体が回復すればマーレへと戻り、何とかモーテルンから女王陛下と国の皆を救いたいのです。タダでとはいいません。私が身につけていたもので申し訳ないが、水竜の加護が宿っているとされる指輪です。水系統の魔法の効果が上がる品なので、売ればかなりの価値になると思います。どうかこれでーーー」

「ちょっちょっ!待ってください!分かりましたから!そういう見返りが欲しくて助けた訳では無いので、その品は受け取れません。体が全開するまでいつまで居てもらっても構わないですが、貴方一人を敵地に送る訳にも行かないので最悪僕らだけでも同行します」


 やっぱり、ほっとけないよな…。農機整備士時代も休日返上で突然動かなくなってしまった農機の修理をしに行くなんてよくあったことだし、相手が得すればこちらも見返りがある。持ちつ持たれつの精神は大事だ。


「どんな罠や刺客が待ち受けているとも限らないので、ご厚意はありがたいですが、そこまでご迷惑をお掛けするわけにはいきません」

「正直危険な目に遭うのはごめんですが、ここで出会ったのも何かの縁。こう見えて僕ら結構強いんですよ!なっ銀音?それに人魚の国の英雄になるのも悪くないなって―――まぁ~冗談ですけどっ」


 俺がはははっと照れ笑いしていると、サリーナさんは手で顔を覆い一言『ありがとう』と呟いた。かなり長く話し込んでしまった。傷に障るといけないのでゆっくり休んで貰うことにして退出した。


「やはりタクミ様ですね。助けに行くと仰ると思っていました」

「うん?まぁー勿論戦闘は怖いけどミノタウロスも倒すことが出来たんだし、銀音達も居るから大丈夫でしょう。サリーナさん一人で行ったら確実に危険だしね。それに今回実は他にもちょっと“おまけ”があったらいいなって考えてるんだよね。あくまでもあったらいいなってだけの話、楽観的だけど…」

「そのおまけというのは?何なのですか?まさか美味しい食べ物ですか!?」

「直接は食べられないけど、美味しくするって意味では間違ってないかも。まぁーあったらだし今は期待しないでおこう。サリーナさんが回復してからだし、出立までまだ少し時間もある。今日のところは作業をやることにしよう」


人魚の国マーレ。一体どのような国で、どのような危険が待ち受けているのやら…。ちょっとしたワクワク感を胸に来たる冒険に思いを馳せているとふと、ある疑問が浮かんだ。



「てか、水中都市なのに呼吸できるのか!?」



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