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農機整備士の異世界開拓ライフ  作者: ミャーク
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#5農業組合と試験課題

日の傾き的に16時ぐらいだろうか。農畜具専門店ファマーを出て30分程、目的地である農業組合へとたどり着いた。

建物は平屋で外壁はレンガ、正面にはアクセントで蔓草が生えている。屋上部分に大きな看板で農業組合ケーンブーズ支社と書かれていた。

いよいよ農家になるための第一歩だ。気を引き締めながら入口の引き戸を開けて中へと入る。

中は意外にも手狭、と言うより窓口やら担当者が沢山いてゴチャゴチャしている印象を受けた。俺は受付窓口へと歩みを進める。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご要件でしょうか?」

「えっとですね。農業を始めようかと思ってるんですけど、組合に入らなければならないと聞いたのですが…?」

「はい。その通りでございます。主に成果物を出荷して金銭を得る場合や自分で生産したものを加工、販売する場合でも加入が求められます。加入受付は4番窓口となっております。そのままお進み下さい」


言われた通りに4番窓口へと進む。新規就農窓口と書かれた看板には、桑を肩に担いで満面の笑顔を浮かべるキャラクターが描かれていた。


「こんにちは。こちらの窓口は新規就農窓口となっておりますが、新たに農業を始めるということで宜しいですか?」


受付窓口の女性は聞きやすいトーンと速度で淡々と説明していく。農業組合という組織は簡単に言うと農家が生産する作物の品質管理や品種改良、農薬や肥料の開発販売等を中心に行う組織みたいだ。日本の農協みたいに融資やら営農指導等を行う訳では無いようだ。


「ちょっとした疑問なんですけど、加入しないとどうなるんですか?最初に聞くのもどうかと思うんですけど…」

「いえ、構いませんよ。特段これといって罰則のようなものは無いのですが、商人と取引が出来ないので出荷・販売が出来なくなりますね。商人は何を誰から仕入れしたのかを報告する義務がありますので、仕入先不明なものは販売することが出来ないんです」


やっぱり人の口に入るものだからここまで入念に管理されてるんだな。そういう意味ではこの街の食べ物はほとんど安全ということだろう。


「分かりました。組合に入る条件なんかはありますか?」

「そうですね。お客様は組合に所属している農家様の所で働いていたことはありますか?」

「遠方の方からこちらへ移り住んだので、今から農業を始めます」

「それでは未経験の新規就農ということになりますね。その場合、組合が配布する苗がありますので、そちらの出来によって合否が決定致します。合格した場合は、成果物のランクに応じて買取額が変わり配布した苗の代金を差し引いた額が支払われます。もし買取不可となった場合は不合格は勿論ですが、配布した苗の代金と事務手数料を支払っていただくことになりますので注意してください。」


当たり前のことだけど苗代はタダじゃないってことか。まさか農家になるのに試験が必要とはな。

大凡の概要はわかった。あと気になるのは課題の配布苗と期間、そして1番聞きたいことーーー合格率だ。


「分かりました。因みになんですが、合格率ってどんな感じになってますか?」

「そうですね。やはり組合加入済みの農家様の所で研修されていた方たちと比べると、物凄く合格率は低いですね。本当に狭き門で、年に4回試験があるのですが受験者の1割いるか、酷い時は合格者無しの時もあります」

「そんなに合格率低いんですか!これは思ったよりも難しそうですね…」

「なのでよく考えてからの受験をお願いします。皆様意外と農家になることは簡単だと思っておられる方が多くて、受験者は毎回多いのですがそのほとんどが不合格となっているのです。楽な仕事では無いですが、その分得られる収入も安定していますので、魅力的な仕事なのは間違いないのですが。もし時間に余裕があるのであれば先ずは農家様の所での研修をおすすめします」


まぁー最もな説明だな。俺も実際に出荷目的で作物を育てたことは無いが、家庭菜園で自分の食べる分だけを目的に作った事はある。農機具の修理販売関係で自然と作物の適期作業なんかも頭に入ってる。やってやれない事は無いはずだ。


「ありがとうございます。一度チャレンジしてみたいので、今回は不合格覚悟で受験してみます」

「分かりました。それではお客様のお名前と住所、希望する課題作物にチェックをお願いします。今回の課題となる作物は4つとなっています。キュウリ、トマト、オクラ、ナス。どれも管理が大変ですが、収量もよく万人受けする作物ですので試験課題として採用しています」


うーん、確かにどれもメジャーな野菜だな。オクラ以外はハウス栽培が主流。こっちの世界だとどうやって害虫対策をしてるんだろうか。先ずはハウスの要らないオクラにするべきか?悩むな。


「自分の以前住んでいた地域ではハウス栽培…ビニールって言って通じるか?、えーっと温室栽培が主流なんですがこちらではどんな感じで育てているんですかね?」

「そうですね...私は専門家では無いので詳しいことは分かりかねますが、大体の農家様はご自分の農地にそのまま播種して育てていると伺っています。お客様の仰ったようなハウス栽培?と言うのは聞いたことがないですね」


保温効果や雑草被害も少ないハウス栽培的なものが発展していないということはもしかして四季のない所なのか?

マジックバックの件もあるし、もしかしたら魔法で防虫、除草作業を行ってるのかも。


「複数の作物を育てるはいいんですかね?勿論苗代もはらいます」

「苗を提供することは出来ますが、試験で評価されるのは申し込み時に選んでいただいた作物だけで、例えば評価された作物が合格ラインに達しており、そのまま農家として登録されれば別で育てていた作物も買い取ることが可能になります」

「分かりました。それではオクラとナスを頂きたいです。試験で評価してもらうのはオクラでお願いします」


申込用紙の課題作物、オクラに丸をつけ拙いアルファベットに似た文字で住所と名前を記入する。その後は期日や細かな説明を受け受付窓口での手続きは完了。裏手に案内され試験課題のオクラの苗と個人的に買うことになっているナスの苗を受け取った。


「それではコウダ様くれぐれも課題提出期限を過ぎないよう注意してください。何かご不明な点があればいつでも組合へお越しくださいませ」

「色々ありがとうございました。合格できるよう頑張ります」


組合での手続きを終え、外へと出たら日は既に落ちかけ遠くの空が僅かにオレンジ色をしているくらいであった。

兎に角今日は帰るにはもう遅いし、宿を探して飯を食おう。出来れば住宅街近くが良いんだけどな。

そう思いながら俺は取り敢えず商業区へと歩き始めた。


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