#45新しい施肥剤と酸度測定②
お待ちになっていた方大変申し訳ありません。通常業務が忙しく、また、5年ぶりに北海道帯広にて国際農機展示会が開催されるとの事でそちらの視察にも行ってまいりました……。
やはり大型トラクターは迫力があっていいですね!前回に比べで規模が縮小されていたのは残念ですが、それでも大いに楽しむことが出来ました。スマート農業もかなり進歩していて、近い将来本当に無人トラクターなんてのが普及するかも?
皆さんもお近くで展示会があれば是非見に行ってみてくださいね!
元の世界は動画投稿サイトでも正しい使い方や応用、自己責任にはなるが改造なんかしてる映像もあっていい意味でも悪い意味でもユーザーが情報を得やすくなってるよな。この世界では動画投稿サイトみたいなのは無いから、そういう意味ではファマーで今作り始めてるチェーンソーも正しい取扱方法を教えないと発売当初で売れ行き悪くなる可能性がある。気をつけないとな。
「ちなみにこの角を全て肥料にするとしてどれくらいの量になるんですか?」
「そうですねーーーざっとですがミノタウロスの角で作る成長促進剤は少なくとも70キラグームは作れると思います。あと、ブラックミノタウロスの調整剤は30キラグーム分ですね。金額は角は持ち込みなので、私達の調合する工賃と材料費諸々含めて全部で金貨50枚になりますね」
うーん…高いな。もしも材料のミノタウロスの角持参じゃ無かったら多分金貨300枚くらいは行くんじゃないか?こんな金額で果たして元が取れるのかどうか……。
俺の不安を感じとったのかソフィアさんが希釈倍率についての話を始めた。
「えーっとですね。どちらも希釈倍率や作物で使用量が違うからなんとも言えないんですけど、今コウダさんが作ってるオクラとナスなら成長速度2倍設定だと大体10チヨ分にはなるよ。調整剤は散布量が少なくていいから5チヨは撒けると思う」
「10チヨ分!…と言うと1チヨが3千坪だから3万坪分!それはすげー」
「一度散布すると効果が大体12日〜15日ほどで無くなります。まだ成長させたければその時に再度散布してもらえれば大丈夫ですよ」
使い方と金額は分かったので、早速カードで支払いを済ませた。1ヵ月前にコンポストも銀行のカードを作ったようで、俺との取引で初めて使ったらしい。本当に便利だと感心していた。支払いを済ませたあとはちょっとした雑談タイムに突入。銀音は今回お茶と出されたお菓子の話でソフィアさんと盛り上がっていた。たしかに美味しかった。
俺とイーラミナさんはミノタウロスの角についての話。なぜそのような効果があるのが気になって聞いてみたところ、ミノタウロスはその見た目からは想像しにくいが草花しか食べない完全草食だから、角には植物から摂取した栄養素が蓄積されているらしい。その蓄積されて出来た栄養素が作物にいい影響を与える様だ。角の長さとか重さは関係なくて、調合しながら効果を一定に調整しているらしい。
「そう言えばコウダさん。酸度測定液に進展がありましたよ!」
「そうなんですか!?どうです?完成できそうですか?」
「ええ。ソフィーが酸度値に対して必ず同じの結果を返す植物を発見しまして。色味まで同じとは行かないようですが、酸度測定液と比較しても毎回ほぼ同じ結果を示すようです」
そう言いながらイーラミナさんは立ち上がって机の後ろに飾られていた花をこちらへと持ってきた。
「それがこの花ですか?綺麗なサクラ色ですね!なんかチューリップの蕾部分が紫陽花になってるみたいな…初めて見ました!」
「それは良かったです。結構人気もあり高い花では無いので一般庶民の方もよく買われますよ」
「確かにカラフルな花が家の中にあったら気持ちも明るくなるでしょうからね。それでこの花でどうやって酸度測定するんですか?」
「ここからは私が説明しますね。その花の名前はレインボーフラワー。この花の特性は土の状態によって花びらの色が7色に変化するんです。熟練の栽培農家さんは土の質を変えて目的の色を出せるんですけど、試しに同じ色の花が咲いている土を酸度測定してみると全て同じだったんです!まだ、この花がどの様に色を変えているのか分かりませんがこれらを解明出来れば完成できると思います!」
想定したよりも全然早い進捗率で驚いた。これなら予定よりも早く販売できるかもしれない。
ても、熱中しすぎて体に無理させてないか心配だな。楽しい事、やりたい事って時間を忘れて集中しちゃうからね。
まぁーソフィアさんの場合はお兄さんのイーラミナさんがしっかりしてるから大丈夫だろう。
時計を確認すると昼前近くになっていたので、ミノタウロスの角の件も伝えたし、思いもよらぬ収穫もあった。そろそろ久々に家に帰ることにしよう。
「それじゃあ僕らは帰りますね。ミノタウロスの角は時間のある時で構いませんので、完成したら手紙かなんかで連絡ください。買い物がてら取りに来ますので」
「わざわざありがとうございました。角の件はなるべく早く調合を終わらせますね!ソフィーにも酸度測定液の完成を急がせます!これは私達にとっても身になる案件ですので!」
「頑張ります!」
「はははっ……くれぐれも無理はなさらないようお願いしますよ?身体が資本ですからね」
コンポストを後にし生活用品や食料品を買い集めて東門に向かう。道中マジックバックがいっぱいになってしまったので、急遽簡単なカバンを3つ購入。銀音にも持つのを手伝ってもらい何とか関所まで辿り着く。
「あっ!両断のタクミさんと白銀姫のユキネさんが来ましたよー!ーーー『おお!あの方達がミノタウロスを!』、
『街を救ってくれてありがとよー!』、『タクミ様、ユキネ様、素敵ー!』」
「……ショーさん何してるんですか?」
「いやーなんかせっかくケーンブーズの英雄が来たのにこう、閑散としてると寂しいかなと思いまして……」
「私はあまり目立ちたくないんですが?あまり大きな声で騒いで欲しくないんですけどね?」
俺がショーさんをとっちめていると詰所から大柄な男性がでてきた。目の前に来ると益々でかいーーー2mは超えているんじゃなかろうか?体もかなりの筋肉質で彼に殴られたら頭が吹き飛びそうだ。
「こいつなりの感謝の気持ちなんで受け取ってやってくれ。俺の名前はカシム、ここの守衛長のエドと同期で幼馴染だよろしく」
「よろしくお願いします。ちょっと二つ名とか照れくさいですし農家を目指してるので有名になるならそっち方面が良いんですが…」
「ミノタウロスを倒したんだ。遅かれ早かれ噂にはなるし目立ちもするさ。諦めていっその事戦える農家として有名になったらどうだ?」
「カシムさん!それいいっすね!タクミさんその時は是非とも自分に二つ名を考えさせて欲しいです!」
「嫌だよ!戦う農家とか!普通でいいの普通で!」
全く二人とも何言ってるんだか。この世界の人間は武勇に対してめちゃめちゃ食いついてくるな。まぁモンスターの居る世界だししょうがないのかもしれないけど。
関所から出てトラクターに乗り込む。荷物は崩れないようにロータリーに上手く縛り付けて家に向かって出発。今回みたいに買い物した荷物が多くなる時とか、人を運ぶ時があるかもしれないしトレーラーとか作るのも有りだな。お金も沢山あるし、ガレージになんちゃって工房を作ろうかな。モーズさんに相談してみて溶接機とかボール盤、高速カッターの様な機器が無いか探してもらおう。
道中ブラックウルフ達と合流して家へと到着。この前の戦闘での皆の協力に感謝を伝え、昼飯には少し遅いがミノタウロスの肉でBBQをする事にした。買い物してきた荷物をサッと片付け、ミノタウロスの肉を2口大位に切っていく。お皿に肉、野菜、タレなどなど盛り付けていき準備は完了。実は魔導農具の仕舞われていた場所にBBQコンロの様な物が2セットあり、網とプレートの状態も悪くなかった。
皆で生きて帰ってこれたしお金も稼げたから今日くらいは仲間内ではっちゃけよう!。
「銀音コンロに火をつけてもらえる?木炭は無いから今回は薪で代用してプレートで焼こう。銀音が火起こししてる間、軽く味付けして飲み物とかも準備しておくから」
「分かりました。そのーーー飲み物、と言うのは?」
「勿論!お酒だよ!俺も飲みたいしね。実は買い出しの時に瓶で売られてるエールを見つけてね!氷でキンキンに冷やして飲もうと思ってるんだ。銀音は氷出せたよね?」
「出せますが恐らく今のタクミ様でも氷は作り出せると思いますよ。水属性の派生でただの氷を作り出すのは初級ですので。詠唱は“水よ我が元へ集結し形となせ、アイスボール”です。コツとしてはウォーターボールを作り出す時に魔素が集まってきた時のあの冷めるような感覚をウォーターボールに込める感じです」
「なるほどちょっとやってみる」
俺はウォーターボールを作り出しながら同時に冷やす感覚をイメージする。理想はスイカ位の氷塊ーーー。
「水よ我が元へ集結し形となせ!アイスボール!」
俺が詠唱を終えると、圧縮した分の氷がどんどん出来上がっていく。サイズはメロンくらい。ウォーターボールと違って少し魔素が多く必要みたいだね。でも、ちゃんと発動させることが出来た。
少し大きめの桶にウォーターボールで水を溜めそこに作ったアイスボールを入れる。冷えてきた頃に買ってきたエールを入れて準備は完了。
「タクミ様火もバッチリ点火させました。次は何をしましょうか?」
「ちょうど俺も飲み物の準備が終わったところだよ。あとは……うん、もう大丈夫かな。テーブルを出してきて準備した食べ物を移動させたら早速食べよう!」
バーベキューコンロに鉄板を乗せて油を引く。そのあとは準備した野菜や肉を沢山並べて焼いていく。出来上がったら順次皿に盛り付けて、ブラックウルフ達から先に食べさせていく。大きめのコンロでよかった。このサイズを2つも使ってたってことはバンカーさんも結構人を招いてBBQしてたのかな。
「俺達もそろそろ食べるかーーーはい、キンキンに冷えたエールだよ!」
「ありがとうございます。そう言えばエールを飲むのは初めてです」
「そうか、それじゃ銀音の初エールと今回無事に帰って来れた事とお疲れ様って事で乾杯!」
銀音と瓶同士で乾杯をするとブラックウルフ達も嬉しそうに短く遠吠えしていた。肝心のエールはキンキンに冷えていてとても美味い。ちょっと炭酸が弱いけど、甘みが強く感じられて初めて飲むタイプの味だった。
焼いては飲み焼いては飲み、成ウルフ?たちもエールが気になっているようなので、少し分けてやると大好評であった。でも、俺たちが飲む分が無くなるので代わりに葡萄酒をあげるとこれも気に入ったようで子ウルフ達とメス以外は皆飲んでいた。
ーーー気がつけば日が沈んで空が微かにオレンジ色に染まっている。時計を確認すると19時前であった。思ったよりも時間の経過が早いな。俺も自分でわかるくらい酔いが回っている。銀音は完全にアッパラパーになっているし、ブラックウルフ達も真っ直ぐ歩けない者や嘔吐している者もいる。
『葡萄酒なる物は大変美味ではあるが我らには毒かもしれぬな……』
『どうした?このように美味なる飲み物を毒などと……酔いすぎておかしくなったのか?』
『いや、確かにこやつ言う通りかもしれぬぞ?美味故に先程から我々は飲むのを辞められぬでは無いか…これは毒ではないにしても魅了の魔法がかけられているかもしれぬ』
「お主ら何をたわけたことを言っているのだ。これは人間が作り出した酒で強者や権力者、そして職務にしかと貢献した者だけが飲むことを許されている飲み物だぞ?馬鹿なことを言っていないでどんどん飲むのだ!今回はエールが少ない故タクミ様と私のみが飲めているが、今後皆がしかと役割と成果を出せばエールも浴びる程飲める事もあるだろう!皆タクミ様の力になるのだ!」
いつも銀音のそば近くに居る3匹のブラックウルフと銀音が葡萄酒とエールについて熱く語り合っていた。なんか雰囲気が職場の飲み会を思い出すな。俺もあんな感じに仕事に対しての信念について語り合ったもんだ。
「信念を持って仕事をしろ、なんて言われてたのが懐かしいな。皆楽しそうでなによりだ……」
ん?なんか気のせいか銀音と喋っている3匹の会話の内容が分かるぞ?んん?他のブラックウルフ達の雑談も……。
これはもしかしてついに来たか?