#41 ギルドカードと討伐報酬
「おーい!コウダちょっと待ってくれ!」
ギルドを後にしようと正面扉を開きかけた時、メビウスさんに呼び止められた。何か忘れ物でもあったのだろうか?。
「いやー、お前の鑑定士の素質に驚いて大事なことを忘れてたぜ!ちょっと窓口まで来てくれ」
俺はメビウスさんと窓口に移動し、暫くその場で待つ事になった。メビウスさんは受付嬢と裏へ何かを取りに行くと言っていたな。なんだろうか?
「待たせたな。渡すものは2つあってーーー先ずはこれだ。“ギルドカード”約束通り俺の権限でBランクからのスタートだ。まぁーお前と獣人の嬢ちゃんなら直ぐにAランクまで上がれるだろう」
「えーっと…ありがとうございます。でも戦闘は本職では無いので上がれないかもですね〜はははっ」
「なーに言ってやがる!この前のブラックミノタウロスを討伐したのがお前と嬢ちゃん達だってのは既に知れ渡ってるからな!自ずと指名依頼が入るだろうぜ?」
「でも、あれは皆が居たから出来たことであって俺たち2人だけじゃ討伐なんて無理ですよ!」
そう、あれは、あくまでもBランク冒険者たちの助力があったからこそ成し遂げられた事なのだ。ブラックウルフ達がいてもとても討伐できたとは思えない。本当に紙一重の戦いだった。
「だが周りはそう思ってないぞ?討伐に参加したパーティーの連中がお前達の武勇伝を語り回ってるからな。いつの間にか両断なんて2つ名も付いてたろ?」
「あれすごく恥ずかしいんですが誰が言い始めたんですか!?」
「俺が聞いた話じゃアングリフの連中が言い回ってるらしいがな。あいつらは実力もあるが信頼も厚い。そんな奴らがコウダって冒険者はスゲーぞ、なんて言って周りゃーそーら直ぐに広まるさ」
くそー。今度ウィリアムさんに会ったら一言文句を言うことにしよう。しかし、改めて見るとギルドカードもなんか仰々しいな。小さいドラゴン?みたいな生き物を槍で一突きにしている絵と、“命知らずに成功と栄誉が訪れる”なんて文言が刻まれている。まぁー冒険者らしいっちゃらしいけど。
そして2つ目の要件は討伐報酬だった。そう言えば貰い忘れてたな。さてさていくらかな?
「先ずは共同討伐前に仕留めてもらってたミノタウロスの分で金貨200枚。作戦の時に割り振られていたミノタウロスの分で更に金貨200枚。そしてBランクパーティーのアングリフとウィンドソードと共に討伐したブラックミノタウロスの分金貨300枚だ」
「ブラックミノタウロスの分多くないですか!?まさか他の方々に渡さないとか?」
「いや、そうじゃない。ブラックミノタウロスは単体報酬金貨500枚の魔物なんだが分前を相談した結果、タクミ達に300枚、他二組は100枚づつで話が纏まった。最初はタクミ達に金貨200枚を渡すはずだったんだが、アングリフもウィンドソードも頑としてお前に渡してくれと言ってきてな。ギルドとしては討伐に参加してもらった以上、受け取ってもらわないと困る。長い話し合いの結果この分配で落ち着いたんだ」
俺たちが金貨200枚貰ったとしても、他の2パーティーは金貨150枚。いくらトドメを刺したとはいえ余りにも偏りすぎの配分だと思うが。
「私としてもこの額は貰い過ぎですよ…。さっきも言いましたけど皆さんの協力がなければ絶対討伐できなかったですもん」
「お前の言うことも分かるんだけどな。まぁーすまないが今回はそのまま受け取ってくれ。あいつらの気持ちもあるし、ここで断られたらまた調整しなきゃならなくなる」
バツが悪そうにメビウスさんはそう言う。皆がそこまで言うのなら今回は素直に受け取っておくかな。今度会った時に酒でもご馳走することにしよう。
「討伐したミノタウロスなんだが素材はどうするんだ?こっちで買取することも出来るが、持ち帰ることも出来るぞ」
「聞いた話ではミノタウロスの角は作物にとても良い薬が作れるとか。農家をめざしている僕としては是非とも欲しいんですよね。あと、ブラックウルフ達がミノタウロスの肉は美味しいと言っていたので、肉も欲しいです。あとは買取でお願いします」
「了解だ。あとブラックミノタウロスの方も肉と角以外は買取でいいのか?」
「ブラックミノタウロスの素材まで俺が貰うんですか!?」
「勿論だろう。実際トドメを刺したのはお前さんだし、共同討伐の時は一番貢献したパーティーに優先して取得権利が発生する。まぁー一応暗黙の了解だが素材買取りで発生した金額の何割かを分前として配るのが筋だな」
冒険者なりたての俺に気を使って教えてくれたのだろう。もしくはまた俺が貰いすぎだなんだとごねるのを回避したかったのか?買取に出して分前をギルドから渡してもらうことにしよう。俺が直接渡そうとしたら断られそうだしな。
ブラックミノタウロスも角と肉以外は買取に出すことにした。買取価格は素材の状態で変わるそうなので、実際に解体してみないと分からないそうだ。解体は明日中には終わるそうなので、明後日買取料金を貰えることになった。
「金貨700枚は今日で持ってくのか?準備は出来てるぜ?」
「流石にそんな大金は持ち歩きたくないですね…そうだ!役場で銀行のカード作ったんですけどこれって使えますか?」
「おっ?いいの作ってあるな。勿論使えるぜ。じゃ手続きしよう」
俺はマジックバックからカードを取り出し、メビウスさんが握っているカードに重ね、互いに端の魔石を握り合う。すると握っている魔石が光を帯び始めた。
「ここからどうやってお金をやり取りするんですか?」
「ん?あーそれはだな、カード表面に参照した時残高が出る所があるだろう?そこに指で送金したい額を1桁づつ書込むんだ。最後に横にスライドさせて最終確認画面が表示されて金額に問題なければ再度スライドさせて送金は完了だ」
めちゃめちゃ簡単じゃないか。これで相手が持っていればいつでもどこでも入出できるわけか!
一応手元に幾らかは残したいから金貨50枚を引いて残りを銀行に入金してもらうことになった。50枚も大概大金だけどね。
入金後残高を確認すると715枚と表示されていた。だいぶ貯金出来てきたな。
「そう言えば先月から冒険者カードと銀行カードをひとつに纏められる様になったんだ。手続きしていくか?」
「それは便利ですね!是非お願いします」
俺は銀行カードと先程受けとったギルドカードを預けた。ものの数分で手続きは完了。ベースになっているのは銀行カードで、裏面にギルドの登録情報が記載されていた。
「ギルドカードは身分証も兼ねているからな。Bランク冒険者は上から3番目に高いランクの冒険者で、このランクからは年末にあるギルド主催の晩餐会に参加できるようになる。あとは各都市間を移動する時の面倒な手続きが要らなくなるぜ」
「都市間の移動の手続きってそんなに面倒臭いんですか?」
「まぁーな。各都市優秀な冒険者たちや将来有望な新人冒険者を残しておきたいからな。Cランク以下は他の街へ移動する時はギルドで手続きしなきゃなんねーんだ。それだけじゃなくて各都市間には野盗や危険な魔物も大勢いる。そういう危険から冒険者を守る意図もあるんだ。Bランクの壁ってのは結構高いんだぞ?」
「そんな大層なランクに上げちゃっていいんですか!?最近この街に来たばかりですし、地理や魔物にもそこまで詳しくないですよ」
「Bランクっては確かに戦闘力だけで評価されるものじゃない。だが2人だけでミノタウロスを討伐できるヤツらがCランクってのもおかしいだろう?様々な要因を差し引いてもBランクが妥当なんだよ」
過剰評価な気もするけど貰えるものは頂いておくかな。ギルドカードは本人でないと渡せないとのことで銀音のは後日取りに来ることになった。その時にどんな依頼があるか見てみよう。受けるかは別として…。
俺は改めてメビウスさん達に別れを告げてギルドを後にした。