#40Sランク鑑定士
先ず鑑定スキルを発動させる前に、1つやらねばならないことがあるようだ。メビウスさんは棚から古めの見開き本?所謂飲食店のメニューブックの様なものを取りだしてきた。それを机の上で開く。
「これは“知恵と知識の神スティーメ様”と契約する為の魔導書だ。俺たち鑑定スキル持ちはスティーメ様と契約することで、鑑定対象の情報を知ることが出来る」
「契約出来ないこともあるんですか?」
「俺が知る限り契約できなかったなんて話は聞いたことがないな。もしかしたら適性の無いやつは出来ないかもしれないが、そもそも契約自体必要になった奴等しかやらないし、適性のないやつが契約しても意味が無いからな」
確かにその通りだ。鑑定スキルの適性がある人自体珍しいみたいだから、それを考えれば契約できなかった人が居ないのなら俺も大丈夫だろう。
契約に必要なのは2つで自身の血と魔力。血は一滴程でいいそうだが、魔力は人それぞれ必要とされる量が違うようだ。だが、傾向としては多くの量を求められるほど高ランクの鑑定が可能になるそうだ。
「それじゃ血を一滴、どちらかの手のひらへ落としてそのまま魔法陣に押し付けるんだ。その後魔法陣が光出したら魔力を送り続けろ」
「わっ分かりました。やってみますーーー」
俺は左手の親指を針で刺し、傷口から出てきた血を右手の平へ落とす。言われた通りそのまま魔法陣の目玉向かって押し付けると、青白い光を放ち始めた。ここで、魔力を送るわけか。俺は銀音に教わったように、魔力を右手に向かって練り上げる。すると、練り上げた途端に魔法陣に向かって吸われていくのを感じる。
「その調子だ。必要魔力量に達したら、強制的に瞼が閉じられる。そうなったら魔力を送るのを止めるんだ」
「自分の意思とは関係なく瞼が閉じるんですか?なんか怖いですね…」
ひたすら魔力を送り続ける事1分ほど。これって普通なのかと疑問に思い始めてメビウスさんを見ると、怪訝な顔をしている。
これってやっぱりおかしいのか…このまま終わらないとかないよね?。
不安になってきたくらいにいきなり瞼が閉じ始めた。本当に自分の意思とは関係なく閉じ始めたぞ!全く抗う事が出来ない。完全に閉じた後俺は魔力を練るのをやめた。
「メビウスさん。この後はどうすれば?」
「おっおう。眼が暗さに慣れてくるとなんかぼやーっと光の玉の様なのが見えるはずだ。そしたら何色か教えてくれ」
言われたように待っていると、確かに明るさを帯びてきた。あれは…。
「えっとメビウスさん。光の玉が現れました」
「そうか。それで色は何色だ?」
「えっーと。何色って言えばいいんですかね?単色じゃないんですよ。7色って言えばいいですかね。虹の色です」
「なっなっなっなにぃー!!!7色に見えるのか!?本当に!?」
「えっええ!何度観ても7色です。何かおかしいですか?」
「おかしいってもんじゃねーよ!なってこった…こいつはすげー事になった。改めて確認だが7色なんだな?」
再度肯定するとメビウスさんは腰を抜かしたように椅子へともたれかかった。俺は状況が呑み込めずその場で黙っていた。もしかして無能?それとも契約失敗か……?
「ーーー取り乱してすまなかったな。結論から言おう。契約は無事完了だ」
「はぁーそれは、良かったです!でもなんであんなリアクションを?」
「鑑定できるランクってのは全部で7段階。最上位がSで最下位がFだ。鑑定スキル持ちに最も多くてポピュラーなのはCランクまでの鑑定士で、その次が各主要機関とかで重宝されるBランク。ちなみに俺もBランク鑑定士だ。そしてAランクの鑑定士は世界でも1000人は居ないと言われてるちなみにランクってのは色の数で決まってる」
なるほど。どうやら瞼に浮かんだ光の配色で鑑定士としてのランクが分かるみたいだね。そして今の話だと俺の場合は……。
「つまり……?」
「つまりはタクミ、お前は世界に数える程しかいないと言われるSランク鑑定士。そいつになれる素質がある。もちろん、今から教える鑑定技術を身につけられればだがな」
「Sランク鑑定士!?それって最高ランクですよね?何かの間違いじゃ……」
「いや、間違いでもなんでもない。あれだけの対価を支払ったんだ。それに契約時の光の玉ってのは鑑定してなくても直感で色の数がわかるんだ。たまたまとか恐らくってのは無い」
俺がSランク鑑定士…になれる素質があるのか。なんか世界に数える程しかいないってのを聞いて、面倒事に巻き込まれないかと不安になってきたな。
「因みにだがな。Sランク鑑定士ってのは王国や帝国、皇国とか国の重要人物として取り立てられるのが殆どだ。そのスキルだけでまず人生勝ち組だな」
「ううっ……俺は平穏に過ごしていきたいのに…。ちなみにどこにも属さずフリーの鑑定士はいないんですか?」
「1人だけいるな。Sランク冒険者のラーゼラ。彼女は並外れた身体能力と魔法技術に加えてSランクの鑑定が行える。戦闘において鑑定はあまり役に立たなそうに感じるが、鑑定レベルを極めると相手の持ち技や身体能力なんかも鑑定できるようになるんだ。ラーゼラは相手と自分の力量を天秤にかけていつもギリギリの勝負で勝利している。拮抗した戦いを毎回していたらそりゃ高ランク冒険者にもなれるさ」
なんか話だけ聞いてたらただの戦闘狂っぽく感じるな。そんな感じで話を聞いていると、虹玉が見えなくなって瞼を開けられるようになった。ずっと目を閉じていたので、少し眩しさを感じる。
「これで契約は無事完了だ。次は鑑定の基礎を教えていくぞ」
メビウスさんは机の上を片付けて、何やら石やら素材やら沢山並べていく。
「これはなお前から見て右から順にF、E、D、C、Bランクの素材だ。生憎ここにはBランクまでの素材しかない。俺が鑑定できないってのもあるが、Aランク以上になると値がとんでもないからな」
机に並べられたのはFランクがただの小石のようなもの、Eが金貨、Dは何かの羽、Cはキラキラした水晶のようなもの、Bは片眼鏡だった。
「見た目や使い方を知ってるものもあるだろうが、これらの出自や材質なんかの情報なんて深く考えた事は無いだろう?鑑定では様々な事がわかる。まずは低ランクから鑑定していき徐々にランクを上げていこう」
「分かりました!どうすればいいですか?」
「まずは魔力を目に集める。鑑定する対象によって必要とする魔力量が変わるから、高いランクの物ほど時間がかかる。魔力を眼に集めることが出来たら鑑定する物を見ながら“我、叡智の書を紐解かん”と唱えるんだ。そうすれば、知りたい情報が見える筈だ」
俺は言われた通り魔力を眼に集め始める。先ずはどれくらいの量が必要か分からないから、とにかく多めに練り上げた。先ずはFランクのただの小石だな。
「“我、叡智の書を紐解かん!”ーーーうぉ!なんかウィンドウみたいなのが出た!」
「ウィンドウ?ってのが何かわからんが、なにか文字が書かれた半透明の板がでてきただろう?なんて書いてあるか読み上げてみてくれ」
「はい。えーっと“鑑定物名:小石,特別な効果はなく世界中に存在する”って書かれてますね」
「ふむ。どうやら鑑定は成功のようだな。今表示されているのは名称とその物の価値だ。あと2段階レベルが上げられてもっと詳細な情報を知ることが出来るぞ」
「レベルってどうやれば上げられるんですか?」
「とにかく沢山のモノを鑑定するんだ。剣技とか身体技能と同じでスキルも使ってやらないと進化しないんだ。だが初めてで直ぐに鑑定出来たタクミならすぐにレベルをあげられるだろう」
その他にもレベルとは別に所謂熟練度が上がってくればどんどん鑑定する時間が早くなるそうだ。メビウスさんは鑑定するのに瞬き2回はかからずに出来る様だ。俺も色々なものを鑑定して早めにレベル上げるように努力しよう。
その後は順にランクを上げていき昼前にはBランクを鑑定できるまでになっていた。あとは練り上げる魔力量が多いっぽいから、必要量を練れるように練習するだけだな。
メビウスさんにお昼ご飯に誘われたが、銀音の様子も気になるし残念だが断った。また今度ご一緒する約束をして俺は執務室を出た。取り敢えず銀音の所に行って昼食後はモーズさんの所に行こう。チェーンソーも納めなきゃだし、基本原理も教えないとな。




