#4マジックバックと魔導農具
現状マジックバック無しでは大量の荷物を持ち運びするのは現実的ではない。お金もある(借金だけども…)事だし兎に角マジックバックを手に入れることが優先だな。
「すみませんがマジックバックはどこで手に入りますかね?」
「それなら大体の雑貨屋、衣料品店なんかは扱いがあるはずだぜ。サイズも何段階かあるし、保冷魔法なんかも二重で施されてる奴もあるよ」
保冷魔法…正直家まではなかなか距離はあるし、保冷機能があるなら冷蔵庫みたいなのは要らないしな。なかなか便利だからこれも欲しい。
「因みになんですが、お値段って結構します?何分そういうものとは縁のない所で育ったもので」
「まぁー値段は結構するぜ?一般向けの保冷無しで1番安くても金貨5枚は下らないだろうな。だけど1度買えば破れたりしない限り一生モンだし、中に入れてるもんに関わらず重量も変わらないからな。そう考えりゃ安いもんよ」
なるほどな。マイバックに5万円って考えたら高いけど、重さも変わらなくて荷物も沢山入るって考えたら誰でも買うわ。
「分かりました。マジックバックを買ってくることにします。ここで購入したものは預かってもらってていいですかね?」
「それは構わないが…兄ちゃん、もし良かったら俺が若手の頃に仕入れで使ってたマジックバックがあるけど譲ろうか?見た目は少しボロいが保冷付きだよ」
「えっ!?いいんですか!保冷付きって結構いい値段するんじゃ…?」
「まぁ本当に上等なやつなら金貨500枚はするだろうね。でも、これは俺がまだ駆け出しの時に使ってたヤツだし、当時の新人魔法師が付与したバックだったから、保冷と容量もそこそこなんだよ。だから当時でも金貨60枚で手に入ったんだ。兄ちゃんとは気が合うし、これからうちの店を贔屓にしてくれるなら、金貨30枚でいいぜ!」
60万円が中古で30万円ーーーボロボロでもまだまだ使えるみたいだし、保冷無しの安いやつでも5万円って考えればお買い得なんじゃないか?正直、あちこち歩くのも面倒臭いし、ここの店員の対応もいい。俺が野菜を作ったらここに卸すかもだから顔を覚えて貰っといた方がいいだろう。
「ぜひ譲ってもらっていいですか?手持ちも有りますんで今払います」
「まいど!即決なんて兄ちゃん気持ちがいいね!譲り手を探してたんだが、普通は商人でもない限り高価なマジックバックは買わないからな。あとは、生産物を出荷する為に農家や鍛治職人なんかの生産職も使うだろうが、正直買ってくれてありがたいぜ。捨てる訳にも行かねーしタダでやるのも嫌だからな」
「ははは、さすが商人ですね。俺も見習わないとなーーー実は以前携わっていた農業を生業にしようかと思ってまして。農家になるにはなにか特別な手続きとか必要なんですかね?」
ちょうどいいタイミングで農家についての話が出たな。自然な流れで質問することが出来た。まずは特別な条件が必要なのか、種なんかはどこで手に入れるのか、聞いてみよう。
「兄ちゃん農家になりたいのか!出来が良かったらうちでも買取させてもらうぜ。まっ、その前に農業組合に入んなきゃなんねーがな。人様の口に入るもんだし、それで稼ごうってんだから意外と審査も厳しいらしいぜ?」
新規就農者向けの補助金制度みたいに、大手農家の所で何年か修行みたいな条件だったりしたら、俺の頭の中で描いた人生設計が崩れる…別の条件だと助かるんだがな。
「審査内容ってなんですかね?適正とか知識とかですか?」
「うーん、詳しいこと分からないけど俺が聞いた話だと、組合から支給される苗の成果物で判断するって感じらしい………。季節やその時々の情勢によって配布される種類も違うみたいだけどな」
恐らく売られている野菜の種類から見るに今の季節は丁度春ぐらいのはずだ。それから考えると育成期間的に見て課題となる作物は夏野菜。耕起、種まき、肥培管理、収穫、ザックリと算段しても3-4ヶ月はかかる。俺が知るに代表的なのはトマト、キュウリ、なす、オクラ…etc知ってる野菜が課題なら良いんだけどね。
「そうなんですね。ありがとうございました。早速農業組合を訪ねてみたいと思います。また食材を買いに伺います!」
「おう!待ってるぜ!農業組合は西区にあるからこの道を真っ直ぐ行けば通り沿いにあるはずだぜ」
俺は店員に手を挙げてその場を後にする。名前聞いときゃー良かったな。後で野菜買いに行く時に聞いてみよ。
通り沿いを歩きながら何がどこに売ってるかをサッと眺める。服屋、家具屋、道具屋、薬屋、酒屋…本当に様々な種類の店が立ち並んでいる。何かアキバの裏通りを思い出すな。この雑多な感じ嫌いじゃないぜ?
そう思いながら歩いていると1軒の道具屋に目が止まった。
「農畜具専門ファマー、か。この世界の農具レベルを確認できそうだし、立ち寄ってみるか」
引き戸を開けて店内へと入る。店内には鎌や鍬、熊手やツルハシ、スコップなど所謂人力で作業する道具が大半を占めていた。
やっぱりこの世界はそこまで技術的に進歩はしてないのだろうか…俺の計画“農機具作って開拓生活”は実現できなそう。
そう半ば諦めかけながら店の奥へと行く歩みを進める。
「こっこれは!手回しハンドル付きのハンドドリル!しかも何段階の錐(穴あけ用のドリル)付きじゃないか!この世界にもセット売りってあるんだなー!!!」
現代世界では一昔の大工とか手芸、彫刻師とかが使っていた道具だ。主に木座にの穴あけに使われてて、ハンドルのサイズによるが大体8mm径までは開けられたはず。
ただこの道具があるだけでここまで喜びはしない。なぜ俺がここまで喜ぶのか………それは、この世界にも減速比、トルク、回転、そして歯車を作り出す技術知識が存在するということが分かったのだ。何よりも嬉しい。
その他にも恐らく背負い式の粒状肥料散布機(掃除機みたいな筒があり、握り手に付いているレバーを握ると中の開閉盤が開いて肥料や種を落とす)もある。
「よし、技術レベルは分かった。この世界でも充分農具を再現できそうだぞ!あとは、資金か…と言うかそれが一番の問題だな」
そう、俺の目標は前職で携わっていた農機具をこの世界でも扱うこと。恐らく魔法みたいなのもがある世界だとは思うが、今まで街中を見ていても一般の人が日常的に扱うものでは無いようだし、この道具屋を見ても共に人力が主流。という事は機械化農業が余り浸透していないと思う。
そして、道具の値段も結構高い。ハンドドリルで金貨2枚、背負い散布機に至っては値段が金貨5枚もする。
お金を儲ける為の道具とはいえ、コスパ的には到底良しとは思えない。
大量生産するラインと普及するための市場があれば爆発的に売れることは間違いないだろう。
「うん?魔導クワにかま、ツルハシだって?どれにも宝石のような装飾がされてるな」
「お客さん魔導農具を見るのは初めてかい?」
俺が道具を手に取り眺めていると髭を生やした小人のおじさんが現れた。これはまさか、ドワーフさんじゃないだろうか?本当に実在していたなんて…ちょっと感動したわ。
「そうなんですよ。どんな効果があるんですか?」
「魔道農具ってのはそれぞれランクがあるんだが、うちで扱ってるのは主にC-Bランク品だ。最高はSランク品でランクが上がるほど付与されてる効果が違うぜ」
ドワーフ(多分)の店員の話によるとCランクは付与効果が1つと言った感じでランクが上がるほど付与効果が増え、Sランクは4つの付与が施されているそうだ。
「例えばお客さんが持ってるくわなら、Cランク品で耐久高が付与されてるぜ。普通のくわよりも5倍は長持ちする優れものだ。その隣のBランク品だったら耐久高と体力持続が付与されてるぜ」
「体力持続っていうのは疲れにくいってことですか?」
「まぁーそんな感じだ。人によって体力の度合いは違うから感じ方も変わるが、大体普段よりも約2倍位は長く働けるようになるって効果だ。家では結構売れ筋商品なんだよ」
確かにこれはいい効果だな。疲れにくいことはいい事だし、道具が長持ちするのは有難いことだ。人力で畝立てすることを考えたら尚更だ。これって道具にしか付与出来ないのかな?例えば砕土機の爪なんかに付与出来たら相当効率よくなるんじゃないか?これは今後お願いしてみよう。
「えっと、更地の土を効率よく柔らかくする道具とかってありますかね?これから農業を始めようと思っているのですが、畑ではない普通の野原なのでまずは土づくりから始めなくちゃいけないんです」
トラクターには砕土機は着いているがプラウはない。初めて畑にする土地なら天地返しして、雨風に晒した後に耕した方が効率的にも土にとっても良いのだ。恐らく家の周りは樹木が生えているだろうからまずはそれ等も撤去しなくてはならない。その旨を店員へと伝える。
「そんな道具はないねー。樹木を撤去しやすくする為の道具ならあるよ。その名も“ウィザーウッド”この薬液を撤去したい樹木や草にかけると1日ほどで完全に枯れるんだ。こいつのいい所はまるで乾燥させたかのように水分が完全に抜けるから、撤去後も薪や建材として使えるんだ。値段はこの小瓶ひとつで銀貨3枚だよ。樹木だったら1本、草花なら希釈して使うといいぜ」
いわゆる除草剤だけど樹木まで枯らせられるってのは凄いな!しかも効果が約1日で出るなんてーーー現代世界にあれば1日晴れるだけで除草作業が終わって最高なんだろうな。
「すごい商品ですね!是非買いたいです。取り敢えず金貨6枚分、20本頂けますか?」
「まいど!結構な数撤去するんだな。在庫はいつでもあるからまた来てくんな!」
俺は店員に代金を支払い店を出る。なんてこった結構金を使いまくってるぞ…この調子だと金がすぐ無くなってしまう。今は買い物はやめて農業組合へ行くことを優先しよう。
そして俺は足早に組合へと向かうのだった。




